小林製薬が販売する「紅麹」の成分が含まれた健康食品を摂取し、その後に死亡した人が5人に上るなど(29日午前現在)、同社商品の健康被害が問題となっている。同社に最初の症例報告が入ってから自主回収を発表するまで2カ月を要したことに一部からは批判が寄せられているが、現時点では健康食品と腎機能障害の因果関係は不明であり、また一部の紅麹に含まれる有害物質「シトリニン」も検出されていないため、現時点で同社を厳しく批判する向きに疑問の声もある。同社は、製造過程において意図しない未知の成分が含まれていた可能性があると説明しているが、食品の製造過程で未知の成分が発生・混入することはあるものなのか。また、当該商品と健康被害の因果関係が証明される可能性はあるのか。専門家に見解を聞いた。
小林製薬は22日、自社で製造する紅麹原料が含まれるサプリメントを摂取した人から腎疾患などの健康被害が確認されたとし、機能性表示食品「紅麹コレステヘルプ」など3商品を自主回収すると発表。コレステロールや血圧を下げる効果があるとされるが、同商品を摂取した人に腎疾患の症状が発症し、一時は人工透析が必要となった人もいることが明らかとなった。28日現在、入院した人は延べ93人、死亡した人は5人と報告されている。
小林製薬は紅麹原料の製造量のうち約8割を他の食品メーカーなどに供給しており、厚生労働省は28日、供給先の食品メーカーなど173事業者を公表。同省は全事業者に対し、過去3年間に医師から健康被害が報告された製品があるかなどについて自主点検した上で来月5日までに報告するよう求めている。
一部の紅麹は「シトリニン」というカビを発生させる可能性があり、過去には欧州で紅麹由来の成分を含むサプリの摂取との関連が疑われる健康被害が報告されており、日本の食品安全委員会は「EUは、一部の紅麹菌株が生産する有毒物質であるシトリニンのサプリメント中の基準値を設定しました」と注意を喚起していた。小林製薬の商品からはシトリニンは検出されていない。
小林製薬の調査によれば、健康被害を起こした可能性がある商品はいずれも同じロットの原料を使用したものであり、昨年4~12月に製造されていた。同社は「想定しない未知の成分が入っていた可能性がある」としており、死亡した5人のうち少なくとも2人が摂取していた商品の製造時期とは異なる。
入院した患者を診断した医師はNHKの取材に応じ、入院した3人はいずれも腎臓の持病はなく薬も服用していなかったが、腎機能が低下しており、3人全員が昨年春頃から「紅麹コレステヘルプ」を摂取し始めていたと説明(28日付「NHK NEWS WEB」記事より)。また、2人が入院した静岡県・富士市立中央病院は28日に会見を行い、それによれば、1人は「紅麹コレステヘルプ」を数カ月にわたり摂取し、腎機能障害が確認され入院。退院後に同商品の摂取を再開すると再び体調を崩し再入院したという。
レアなケース
食品メーカー関係者はいう。
「未知の成分が含まれていた可能性があるというのは極めてレアなケースであり、対応が難しいのは確かだ。また、大手の食品メーカーでは日々、お客様センターに『●●を食べて体調が悪化した』といった連絡が多数寄せられており、そのたびに自主回収するわけにはいかない。今回は1月1回、2月に2回、照会があったとのことだが、社内で調査してからの公表となる点も踏まえると、第一報から公表まで2カ月かかった点について『遅い』といえるのかは微妙という印象。同社はシトリニンを発生させない紅麹を使用しており、『自社の商品が原因で健康被害が起きた』もしくは『その疑いがある』とまで言ってよいのか、確証が持てなかったのだろう。ただ、3回ともに医師からの照会であり、いずれも腎機能の低下という同じ症例であったことからも、もう少し緊急性をもって調査、公表を急ぐべきだったとは感じる。
また、報道をみていると『小林製薬の商品を摂取したことが原因で5人が死亡した』と受け取られがちだが、現段階では『その疑いがある』だけで因果関係は不明のため、消費者には冷静な見方が必要だ。現時点での同社への過度な批判には疑問を感じる。ただ、これまで明らかになっている客観的事実や小林製薬の発表を見る限り、同社も『因果関係がある可能性が高い』とは考えているだろう。今後は健康被害をもたらしたと考えられる成分がなんなのかを早急に特定することが重要だが、『結果的には因果関係は確認されなかったものの、弊社の商品が原因で健康被害をもたらした疑いが極めて高い』という結論にして、同社が損害賠償などを行っていくという展開も考えられる。
いずれにしても、現在の流れを考えても同社が『健康被害は弊社の商品が原因ではない』ということを証明することは極めて困難であり、一定の責任を負うことは避けられないのでは」
「未知の物質」の特定はかなり難しい
食品製造において「未知の物質」が発生・混入するというのは具体的にどのようなケースがあり得るのか。実践女子大学名誉教授で薬学博士の西島基弘氏はいう。
「常識的に考えて、一部のロットで未知の毒性の強い物質が発生することは考えられません。また、腎臓疾患のある人が死亡したり入院をしているようですが、その人たちがどの程度の量を、どの程度の期間、摂取していのたかわかりません。また、同社の紅麹原料を購入して使用している他の食品からは発症者が出ていないようですので、未確認物質は濃度依存性がある可能性がありますが、特定はかなり難しいと思います」
当該食品と健康被害の因果関係がない可能性はあるのか。また、因果関係が証明されない可能性はあるのか。
「現時点では因果関係があるかないか断定はできませんが、製薬会社の製品を飲んで発症している人がかなりの人数いるので、因果関係がないとの確認はかなり難しいと思います」
最初の症例報告から自主回収の発表まで2カ月を要した同社の対応をどう評価するか。
「小林製薬が、いつ異常があると認識したのかわかりませんが、いろいろな物質を検証したとすると、対応が遅いとは言い切れません。原因が特定できない以上、健康被害の可能性が否定できないので製品を回収し広報をしたのは評価できるのではないでしょうか。今回のようなケースでは、物質名が不明なまま成分をプロットで表し、通常と違ったプロットがあれば、それを検証するという手法もありますので、あまり遅くならないうちに原因について報告があるかもしれません。
シトリニンはカビ毒で腎臓毒ですが、それほど強い毒性はありません。毒性物質が確認されてない現時点では毒性物質の推測もかなり難しいと思います。小林製薬の分析結果を待ちたいと思います」
(文=Business Journal編集部、協力=西島基弘/実践女子大学名誉教授)