「Fランク大学」という言葉をご存じの方も多いだろう。明確な定義はないが偏差値35以下の大学を指すなどと言われている。大学全入時代と言われて久しいが、実際に高校時代の成績が悪くても入学できる大学は多数存在するのが実情である。
また、就職活動では、まず「大卒」が条件となっている会社や職種も少なくない。こうした理由から「なんとなく進学しておいたほうが安全」と考える高校生は多い。しかし、大学の就活生に対して学歴フィルターをかけている企業もあり、低い偏差値の大学では、高額の学費を払って入ったにもかかわらず、その学歴が有利に働かないケースもあるのだ。
一方、高卒就職は2024年3月に卒業する生徒の求人倍率が2.36倍となり、過去最高を記録した。いま就職を希望する高校生にとっては売り手市場となっている状況なのだが、高卒就職者は年々減少の一途をたどっている。高卒者が就職する先は、製造業や建設業などのインフラを支える職などが多く、人手不足の業界・企業にとって高卒就職者は貴重な人材となっているようだ。
大卒と高卒の生涯賃金の差は、大卒者のほうが5000万~6000万円も上回ると言われているが、必ずしも当てはまらないのかもしれない。はたして、Fランク大学に進学し「大卒」の経歴を手に入れてから働き始めることと、高卒就職で4年早く働き始めること、人生を俯瞰して見たときどちらの方が得をするといえるのだろうか。
今回は、ファイナンシャルプランナーでAll About教育費・奨学金ガイドでもある豊田眞弓氏に解説していただいた。
「就職した場合の4年分の賃金合計」+「大学進学の学費」は1700万円超
まず、高卒と大卒の平均年収は具体的にどの程度差があるのだろうか。
「厚生労働省の令和4年賃金構造基本統計調査によれば、高卒就職者の平均賃金に賞与を2カ月として試算すると、概算で約383万円。一方、大卒就職者は約508万円となっています」(豊田氏)
ただFランク大学の学生の場合は、高収入が得られる人気企業は学歴審査が厳しく落とされてしまい、スーパーや居酒屋といったアルバイトの延長で飲食業に就職するパターンも多いと聞く。そして産業別で比較すると、飲食サービス業などは他業種に比べて賃金が低いのだ。
「同調査の産業別データを参照すると、高卒の就職が比較的多い製造業では、概算で約422万円。一方、飲食サービス業は概算で約360万円。ですから、たとえば高卒で製造業の大手メーカーに就職できた人と、大学を卒業して飲食サービス業のチェーン店などに就職した人を比較すると、高卒就職者の生涯賃金のほうが高くなるというケースも充分考えられます」(同)
さらに大学に進学した場合、高卒就職者よりも4年間遅れて働き始めることに加え、学費という支出もある。はたして大学進学することで収支はどの程度変わるのだろうか。
「大学に進学することで、高卒就職者が4年早く働いた分の賃金を得られなくなります。前出調査の学歴別・年齢階級別データから試算すると、その4年分の賃金合計は約935万円。賞与を1カ月で試算すると約1013万円。そして私立大学の学費ですが、自宅通学の文系学生の場合だとおよそ700万円、理系学生の場合だとおよそ820万円。高卒就職者の4年分の賃金合計と大学の学費の合計は、自宅通学でも1700万~1800万円にものぼり、自宅外だとさらに400万~500万円加算となります」(同)
Fランク大学卒業者が飲食サービス業などに就職した場合、この1700万円超の4年分賃金+学費を取り返すことはかなり難しいのではないだろうか。このようなケースはFランク大学の大卒就職者よりも高卒就職者のほうが、生涯賃金は高くなるだろう。
一例だがトヨタ自動車や日立製作所などの大手メーカー企業は、かねてから高卒採用に力を入れている。Fランク大学に進学するよりは高卒で優良企業への就職を目指したほうが、結果的に賢い選択だったと言えるケースは多々ありそうだ。
Fランク大学には就職に有利な資格が取得できる大学もある
だがFランク大学だとしても、大学進学が「損」とは言い切れないようだ。
「そもそも大前提として、大学進学率57%時代なわけです。進学も安定的な就職もしていない大卒生が11%、6.8万人もいるなかで、就職時の武器になりにくいという意味では、一般的な学部では経済的には分が悪そうです。しかし、進学の意味が就職だけでないと考えるなら、個人単位で見れば、経済面以外のメリットは必ずあると思います。大学に進学したことで新たに交友関係が広がったり、本当にやりたいことと出会えたり、可能性が広がるかもしれません。『大卒』という経歴が有利に働く場面もあるでしょう」(同)
特に、Fランク大学と言われる大学のなかには、専門性が高い資格取得ができる大学も多く、資格を取得することで、むしろ安定した職に就ける可能性があるという。
「なかには、看護や福祉、栄養、服飾、技師をはじめ、専門性に特化した大学も多数あり、しっかり学べば、資格を取得して卒業することができます。資格という武器や特殊なスキルなどを手に入れれば、卒業後の就職で困ることは少なく、安定した職に就くことができるでしょう。ですから必ずしも就職に不利とは言えないと思います」(同)
Fランク大学でも、大学で社会的に必要性の高い資格を取得していれば、大卒平均年収以上の高収入を得られることもあるだろう。
それではFラン大学の学生が、生涯賃金で1700万円超の4年分賃金+学費を取り返すために、意識すべきことは何か。
「なるべく多くの賃金を手にするためには、『大卒』という学歴だけに甘んじることなく、就職に有利な資格を取得したり、特殊なスキル、例えば語学を極めたりするなど、『大卒』という肩書きに依存することなく、自身の市場価値を少しでも高める武器を持つ努力が重要になってくるでしょう。また、思い切って学生起業などにチャレンジして、生涯賃金を大きく上回る収入を目指すのも1つの方法です」(同)
懸念したとおり、Fランク大卒就職者は高卒就職者より生涯賃金が低くなる可能性は充分あるようだ。Fランク大学への進学を検討しているのであれば、専門性が高い資格取得ができるところを選ぶことや、在学中に資格取得や特殊技能の習得に励む、あるいは起業にチャレンジするといった能動性がないと、「高卒で就職しておけばよかった」と後悔することにもなりかねないだろう。
(文=A4studio、協力=豊田眞弓/ファイナンシャルプランナー)