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高卒者採用の需要急増、「高卒=勝ち組」時代か…高卒での就職に多大なメリット

文=A4studio、文=新田圭/株式会社ジンジブ常務取締役
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「gettyimages」より

「高卒=勝ち組」という時代が到来しているのか――。現在、企業の高卒者採用の需要が急増している。今年3月末時点での全国の高卒新卒者の求人倍率は3.49倍で、バブル期を上回り、過去35年間でもっとも高い水準となった。厚生労働省が発表した、来春の令和6年卒のハローワーク求人・求職の状況(7月末時点)によれば、高校生の新卒求人数は約44万4000人で前年同期比 10.7%増、求人倍率は3.52 倍で同 0.51 ポイント上昇となっている。慢性的な人手不足に陥っている製造業をはじめ、さまざまな業界が高卒者採用に力を入れている模様。また、今年は新型コロナが5類に移行したことから、求人が増えるという見方があり、今後も高卒採用の激化が予想されている。

 しかし高卒の就職者は、進学率の上昇や少子化の影響により、1992年の就職者数58.4万人をピークに減少を続け、今春卒業の就職者は13.5万人まで落ち込んでいる。増え続ける高卒採用の需要と、減り続ける高卒就職者。「大学全入時代」ともいわれている昨今において、高卒就職者を取り巻く環境の実態とは。そこで今回は、高卒者向けの就職を支援する株式会社ジンジブの新田圭氏に、高卒者採用の現状から今後の展望について聞いた。

最も多い求人は製造業、コロナ禍以降で高卒者採用を始めた企業も

 大学進学率が上昇した今、就職することを選択する高校生たちにはどんな理由・事情があるのだろうか。

「家庭の経済的な事情が根本にある場合が多いですが、高校生たちの意識のなかには、親に負担をかけてまで大学に行こうと思わないという理由が多いようです。就職した理由で、『家庭の経済状況』を抑えて多く挙がった理由には、『勉強するよりも働くほうが合うと思った』『早く自立したい』『進学してまでやりたいことがなかった』というものがありました。それが、働くほうが合っているというポジティブな理由か、勉強することが嫌だから働くというネガティブな理由かどうかは、その学生によって異なるでしょう」(新田氏)

 一方、新型コロナウイルス流行の影響によって、大学進学を選ぶ高校生が増えたという。

「コロナ禍1年目は求人数が減少し、希望する職に就けず、経済的にも不安定だったため、いきなり就職するのではなく、とりあえず進学して様子を見ようという学生が多くなりました。以降のコロナ禍2年目からは、修学旅行や部活といった学校行事の減少や、地域企業で行うインターンの授業などの社会活動経験が不十分になってしまい、就職に重要な内申点を稼ぐ場が少なくなったことから、進学する学生が増えたと考えられます」(同)

 では現在、高卒者採用が増えている背景にはどういった事情があるのだろう。

「業界の人手不足が一番の理由として挙げられます。例えば、高卒求人数のなかで一番多く、全体の約3割を占める製造業では、もともと高卒者の採用に力を入れていました。40代・50代の現役世代も数十年後には引退となりますし、それより上の世代となるとさらに引退時期が近いわけですが、職人の技術を継承できる若い世代が少なくなっているため、製造業の企業は技術を受け継いでくれる若い世代の採用に積極的なのです。また、工業高校などで製造や建設などの専門分野を学ぶ高校生が多くいるということも、高卒求人が多い要因です」(同)

 くわえて近年では、製造業や建設業といったもとより高卒者採用に力を入れていた業界のみならず、宿泊・観光業やサービス業でも高卒者採用が増えている。

「ホテルなどの宿泊業界では、コロナ禍の影響を受け一時期は大変厳しい状況にありましたが、今年に入ってからコロナが第5類に移行し、経済活動が以前の状態に戻りつつあるので、再び人手不足を解消しなければいけなくなりました。もともと人手不足であったことと、大卒者の採用も難しくなってきたというところで、新たに高卒者採用に目を向け始めたのでしょう。このように、もとより高卒者採用を行ってきたところだけでなく、大卒者の採用が難しくなってきた業界でも、高卒者採用を始める企業が今、増えているのが現状なのです」(同)

意外と知られていない高卒採用ルール、1社応募や短い就活期間

 現在売り手市場となっている高卒就職だが、そのメリットについて聞いてみた。

「現状でいえば、就職内定率の高さはもちろんのこと、10代から働くことで、精神的な成長が見込める点や、20代のうちにある程度の経済基盤ができるため、生活が安定しやすい点など、多くのメリットが挙げられます。

 そのなかでも、一番注目したいメリットが、働きながらスキルを身につけ、若いうちから出世できるチャンスがあるということです。企業によっては、高卒就職者に対して、研修などを通じて、職業に有利な資格取得の支援を行っているところもありますし、働きながら専門性を身につけていけます。大学に進学した学生たちと比べると、19歳から22歳あたりまでの4年間のうちにキャリアを築いて、24、25歳で役職に就くこともでき、経営層に近いところで学びを深められるというのは、高卒就職者の最大のメリットといえます」(同)

 一方で、高卒就職のデメリットは何か。

「まずいえるのは、大卒採用に比べると、高卒採用を行っていない企業や職種が多いということです。例えばIT業界など、大卒者に人気の職種は、大卒者だけで求人枠が奪われてしまうため、高卒採用をしていないことが多いです。次に、内申点が低いと希望する企業に応募できない可能性があるということが挙げられます。高校生の就職活動は、生徒自らが動いて企業を探していくというよりも、たいていは進路相談の過程で、先生と相談しながら応募する企業を決めていくことになります。そのため内申点が低い生徒は、大手企業を受けたくても受けられない、ということもあります。大学生のように自己分析などもそこまでできないため、内申点で判断されることがある、というのは大卒にはないデメリットといえるでしょう」(同)

 また、高校生にとって、高卒の就職活動の独自ルールも職業選択を狭めている要因になっている。

「高卒の就職活動には『三者協定』というものがあります。これは行政(文部科学省・厚生労働省)、主要経済団体、学校組織の3つの間で結ばれた、学生の就職活動についてのルールのことです。このルールでは、学業が本業の高校生たちの過剰な就職活動を制限する目的で、1社応募が義務付けられています。大学生の就活のように何十社と応募することができないわけです。

 また、高卒の就職活動のスケジュールは、7月1日に求人情報が解禁され、7月・8月は職場見学の期間に充てられます。そして、9月5日から企業へのエントリーが開始し、9月末までには、6割ほどの高校生の内定が出ます。こうした短い就活フローにも、三者協定のルールが関係しており、企業は面接してから極力1週間以内に採用結果を通知しなければならないということなど、細かな採用日程やルールが、ガイドラインに盛り込まれているのです。そうした目まぐるしい採用フローのなかでは、高校生たちは心ゆくまで企業を吟味して自身の適性と照らし合わせる時間がとりきれないということも、個人によってはデメリットになり得ます」(同)

今後の課題は、意志のある高卒就職希望者を増やしていくこと

 課題が多い高卒採用だが、今後の展望について聞いた。

「第一の課題として、まず意志を持って進路を決定する高校生を増やしていかなければならないと思っています。大学進学者のように、留学したいから大学に行く、この分野に興味があって学びたいから大学に行くといった選択と同じように、高卒就職が当たり前になる社会を作っていくことが、これからの日本を活気づけるうえで大事なことではないかと考えています。

 高卒就職がもっと広がれば、企業にとっても若手人材を確保でき、経済活動がより活発になります。また、活躍する高卒就職者が増えていけば、その分、高卒就職者に対するイメージアップにもなり、高校生たちの職業選択の幅もさらに広がっていくことでしょう。そうした好循環の流れを作るためには、高校生に向けた自己理解や社会理解を深めるキャリア教育の場を、もっと充実させることが重要だと考えていますし、私たちがその一助となれるように活動していきたいと思っています」(同)

(文=A4studio、文=新田圭/株式会社ジンジブ常務取締役)

新田圭/株式会社ジンジブ常務取締役

新田圭/株式会社ジンジブ常務取締役

1977年生まれ、奈良県出身。大学卒業後は、100均の店長を新卒で経験し、店舗拡大を行う。 その後管理部門の財務を経験し、転職。その後、エレコム株式会社を経て、株式会社ハウスドゥで財務に携わった後に、 「やる気スイッチ・スクールIE」で知られる株式会社やる気スイッチグループの取締役に就任。 ジンジブの代表取締役の佐々木満秀と出会い、社長の生き方・考え方に惚れ込み、現在は株式会社ジンジブの取締役として、経営企画部を管掌。 「夢は、18才から始まる。」をスローガンに若者支援事業に携わっている。
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