マイクロソフト、なぜ2兆円投資したOpenAIと距離?収益最大化の戦略

●この記事のポイント
・米OpenAIはソフトバンクグループ(SBG)などから400億ドル(約6兆円)の出資を受けることで合意した
・もともと生成AIの一スタートアップだったOpenAIが大きく成長して世界的に注目されるきっかけとなったのは、2019年から米マイクロソフトから累計約2兆円もの出資を受けたことであった
・OpenAIがSBGから多額の投資を受けることが決まったこともあり、マイクロソフトがOpenAIと距離を置き始めたという見方が広がっている。
ソフトバンクグループ(SBG)などから400億ドル(約6兆円)の出資を受けることで合意した米OpenAI。両社はAI共同開発事業「Stargate Project(スターゲート・プロジェクト)」を推進するなど蜜月ぶりがクローズアップされているが、もともと生成AIの一スタートアップだったOpenAIが大きく成長して世界的に注目されるきっかけとなったのは、2019年から米マイクロソフトから累計約2兆円もの出資を受けたことであった。そのOpenAIがSBGから多額の投資を受けることが決まったこともあり、マイクロソフトがOpenAIと距離を置き始めたという見方も広がっている。背景にはマイクロソフトのどのような戦略があるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
●目次
「GPT-3」の独占ライセンスを取得
マイクロソフトが初めてOpenAIに投資をしたのは19年。その金額は10億ドルにも上ったことでOpenAIは世界的に注目の的となり、マイクロソフトはOpenAIが開発するChatGPTに使用される言語モデル「GPT-3」の独占ライセンスを取得。23年にはマイクロソフトはChatGPTの技術を活用したAIアシスタントツール「Microsoft Copilot」をリリースするに至った。
両社の戦略的パートナーシップは今後も継続される。2030年までの契約期間中、OpenAIの知的財産へのアクセス、収益配分の取り決め、OpenAIのAPIに対するマイクロソフトの独占権が継続されることが決まっている。一方で、前述のとおり両社の間には距離が生じ始めているという見方も出ている。
“OpenAI色”が強すぎると、競争優位性を損なう要因になる可能性
エッジAIプラットフォーム「Actcast(アクトキャスト)」を提供するIdein株式会社の中村晃一CEOはいう。
「いくつかポイントがあると思います。マイクロソフトの行動パターンとして、特定の技術を持つ企業とパートナー契約を結び、内製で独自技術を開発して収益を最大化させるということは、過去何回もやってきたことです。ですので今回も独自の生成AI技術の内製化を図っていると考えられます。生成AI関連の技術というのは、もちろんOpenAIがフロンティアではありましたが、現在では多くの企業が開発競争を繰り広げており、OpenAIでなければ開発できないものというのは、実のところ、それほどあるわけではありません。グーグルのGeminiしかり、同様の技術がたくさん出てきています。マイクロソフトは潤沢な資金を持っており、自社で独自の生成AIを開発してクラウドサービスのAzureやOffice Suiteなどに活用していこうという方向になるのは当然でしょう。
もう一つが、ビジネスの側面です。Windows OSやMicrosoft Officeというマネタイズできる巨大なビジネスを有しており、いちいちOpenAIにライセンス料を取られて利益を吸い上げられるということは避けたいはずです。基本的にマイクロソフトはプラットフォームビジネスなので、特定の企業の生成AIだけを使うというのはビジネス的にはマイナスに働いてきます。いろいろな会社の技術を、いろいろな製品・サービスに使えるようになっておきたいというのは、あるでしょう。逆にいえば、“OpenAI色”が強すぎると、競争優位性を損なう要因になる可能性もあります。このほか、エコシステムの価値を最大化という観点で、特定企業に依存するリスクを回避するという意図もあるでしょう」
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=中村晃一/Idein代表取締役CEO)