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海外大学卒・TOEIC900点・Excel達人を採用→仕事ができない…なぜ多い

文=LUIS FIELD、協力=安藤健/人材研究所シニアコンサルタント
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「gettyimages」より
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 ある企業の採用に関するSNS上での投稿が話題を呼んでいる。それは「海外大学卒・TOEIC900オーバー・Excelの達人」の高スペック人材を新卒で採用したところ、5年たっても使えないというものだ。同投稿には「現実で求められるのってコミュ力と体力じゃない?」「入る会社間違えたんだね」といったさまざまな意見が寄せられている。今回のようなハイスペック人材の採用ミスマッチは、なぜ起きてしまうのだろうか。人材研究所シニアコンサルタントの安藤健氏に、詳い話を聞いた。

ハイスペ新卒の基準とは

 新卒採用において「海外大学卒・TOEIC900点以上・Excelの達人」という経歴は高スペックと見なせるのだろうか。

「一般的な企業において、このようなスペックは高く評価されるでしょう。企業にとって、これらを持ち合わせた学生は非常に魅力的な存在です。しかし新卒採用の人材要件は、テクニカルスキルとヒューマンスキルと2つあります。まずテクニカルスキルとは、具体的な知識や技術、資格などを指し、TOEICスコアやExcelのスキルはこちらに含まれます。一方ヒューマンスキルは、チームワークやコミュニケーション能力など、人間関係に関わるスキルを指します。

 テクニカルスキルは履歴書に書きやすいこともあり重要視されがちですが、業界や企業によって求められるスキルや要件は異なるため、必ずしもすべての企業で同じスペックが必要になるわけではありません。ヒューマンスキルは組織で動く場面で大切な能力にもかかわらず、測り方が難しい点があります」(安藤氏)

実務で「あれ?」となってしまう人に共通する特徴

 採用時に履歴書や面接での評価が高かった人が、採用後の仕事のパフォーマンスにおいて期待値を下回るケースは多いものなのか。

「よくあります。このような現象が起こってしまう要因は、主にヒューマンスキルが関係しているといえるでしょう。採用時には書類や面接でテクニカルスキルに重点を置きがちですが、実際の業務においてはヒューマンスキルが非常に重要です。具体的な例を挙げると以下のとおりです。

1.意味付け力
 採用時には高いスキルを持っている学生でも、仕事の目的や意義を自身で見出せない場合、行動に移すことができない人がいます。仕事の背景や目的を理解せずに動くことになってしまい、パフォーマンスが低下するでしょう。

2.自己効力感
『自分ならできる』『うまくいく』と思考をプラスに向けられるかどうかがポイントです。仕事に対する自信や意欲が不足していると、新しい課題やプロジェクトに取り組む際ネガティブになり、つまずいてしまうケースもあります。

3.基本的信頼感
 ベーシックトラストともいわれ、チームでの協力が求められる場合などに、他のメンバーへの基本的な信頼感が不足していると、円滑なコミュニケーションが難しくなります。仲間を信じて仕事が進められないと、うまくバトンをつなぐことができず、チームワークにヒビが入ってしまいかねません。

4.当たり前水準の認識の違い
 仕事の達成基準や努力の水準についての認識が違う場合、期待値と実際の成果のギャップが生まれてしまいます。当たり前水準が高い人は向上心が強いので、仕事をしていくなかでの成長も早いといえるでしょう。

 このような能力は、履歴書や面接ではなかなか見抜くことが難しく、採用ミスマッチが発生する原因となります。採用においては、テクニカルスキルだけでなく、ヒューマンスキルを適切に評価する仕組みや手法を導入しましょう。特に新卒採用では、その人のポテンシャルやチームでの適応力を見極めることが大切です」(同)

 採用時にはテクニカルスキルだけでなく、ヒューマンスキルも適切に評価し、採用ミスマッチを回避するために企業側の努力も必要だ。実際にテクニカルスキルが優れた人材を採用し、すぐに辞めてしまう事例にはどのようなものがあるのだろうか。

「新卒採用の場合、学歴や経歴に対して偏った見方をしてしまうケースもあります。日本の企業でも上位の大学出身者を優先して採用されることも過去にはありましたが、就職後の定着率やパフォーマンスを測ってみると、いわゆる『そうでない』大学出身者の数値が高いこともあるのです。実際には学歴だけでパフォーマンスを予測するのは難しく、独自の経験やヒューマンスキルが重要な要素となります。

 また、海外大卒や留学経験があるというだけで評価するのではなく、自分に起きた何気ない日常でも『どんなことを考え、行動したのか』が重要です。学生側としては、留学などのビッグイベントを経験していないからといって、『アピールすることがない』と悩む必要はありません。経験を通じて得た能力や対処能力、問題解決力を仕事に応用できるのかがポイントになるでしょう」(同)

 海外大学への所属、留学などを経験していても、勉強や現地の人との交流に積極的に取り組んでいたとは限らない。一方、日本で学生生活を送りながらアルバイトでヒューマンスキルを磨き、将来を見据える人もいる。新卒採用では派手な経歴の有無ではなく、チームでのポジションや結果に辿り着くまでの行動といった内面的な要素を重視したほうが良いようだ。

「採用ミスマッチ」は防ぐことができる

 企業はスキルや経歴をチェックする際、採用後のミスマッチを生じさせないために、面接でどのような点に注意するべきなのか。

「履歴書を開いて順番に話を聞くことは誰でもできます。面接官に求められるのは、経験の裏側や影響、学びを見逃さずに評価することで、学生のポテンシャルを見極めるためには『客観的な視点』と『経験の深掘り』の2点がポイントになります。そうすることで採用後のミスマッチを避け、定着率も上がっていくでしょう。

 まずは面接官が持つステレオタイプな思考やバイアスを自覚する必要があります。面接官自身の想像や先入観によって、学生の能力や適性を過度に評価してしまうことを防ぐためです。有名な大学に在籍していたり高スペックだからといって、必ずしも優れた能力を持っているわけではないことを意識することが大切です。そのため面接官は客観的な判断を心がけ、実力を過大評価せず、本質的な部分を見極めるよう心がけるべきではないでしょうか。

 そして経験やスキルを詳細に掘り下げて確認していきます。履歴書に書かれている内容だけでなく、体験や資格などを獲得する過程や、今後どのように活用していきたいかという部分を丁寧に聞き取るといいでしょう。また、単に成功した経験だけでなく、失敗や困難な状況から得た学びや成長も聞いてみると、その人がどんな人物なのか見えてきます」(同)

(文=LUIS FIELD、協力=安藤健/人材研究所シニアコンサルタント)

安藤健/人材研究所・シニアコンサルタント

安藤健/人材研究所・シニアコンサルタント

青山学院大学教育人間科学部心理学科卒業。2016年に人事・採用支援などを手掛ける「人材研究所」(東京・港)へ入社。2018年から現職。国内大手企業での新卒・中途採用の外部面接業務や人事向けセミナーなどを手掛ける。毎月1回、組織・人事に関わる人のためのオンラインコミュニティー『人事心理塾』を企画・運営。著書に『人材マネジメント用語図鑑』(ソシム)、『誰でも履修履歴と学び方から強みが見つかる あたらしい「自己分析」の教科書』(日本実業出版社)。
安藤 健 | 株式会社人材研究所

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