日立製作所は2023年度の採用計画(1200人)について、経験者採用と新卒採用をそれぞれ600人と同数にし、ジョブ型採用(職務内容や必要なスキルを明確に特定して採用する手法)の比率を95%にすると発表した。新卒採用600人のうち500人が技術系で、そのすべてがジョブ型採用、残りの事務系100人のうち職務内容を限定しないオープンコースでの採用は60人のみとなる。日立は学生向けのインターンシップでもジョブ型を導入しており、22年度は600人を受け入れ、140人に内々定を出したが、インターンシップの募集要項のジョブディスクリプション(職務内容・必要なスキル)が専門的かつ高度であることも注目されている。コロナ後を見据えて企業が採用人数を増やしつつあるなか、応募する側には高い専門知識・スキルが求められつつある実態が浮かんでくる。
日立製作所をはじめとする日本の大手企業では、これまで「新卒一括採用」、職務を定めずに採用する「メンバーシップ型雇用」が一般的であった。
「2000年代頃までは、メーカーだと理系の学生は大学・大学院で所属する研究室が各企業に持つ推薦ルートを使って入社し、文系の学生は学部生の場合は3年次の秋頃から興味のある企業に片っ端からエントリーシートを提出して筆記試験や面接を受け、自分がどんな仕事をするのか決まらないまま入社するというケースが一般的だった。経験者採用も『中途採用』という呼ばれ方をされ、少数派という位置づけだった」(大手電機メーカー課長)
例えば日立製作所の15年度の採用計画をみてみると、全体で800人のうち経験者採用は150人のみ。全体の2割にも満たないが、前述のとおり23年度はその比率は5割におよぶ。さらに同社はジョブ型採用をインターンシップでも導入。そのジョブディスクリプションをみると、
「素材メーカのデータ駆動型研究を加速するために、画像データからの特徴量抽出し、予測モデルを作成」(「ジョブの内容」)
「『素材・エネルギー産業』の顧客に対してIT×OT×プロダクトを組み合わせた価値創出のためのシステム開発」(同)
「Pythonの機械学習ライブラリ(scikit-learnなど)を用いたデータ分析経験があること(目安:1年以上)」(「必要/あれば望ましいスキル」)
「MATLAB/Simulimkを利用した経験」(同)
など、専門的な知識・スキルを有していることが求められている。
「企業の採用人数が増加しているのは事実だが、その内実をみると、経験者採用が増えていたり、新卒でも理系学生や専門的な知識を持つ学生へのニーズが高まっている一方、文系で特定分野の専門知識がないような学生は以前と比べて就職は厳しくなっているという印象を受ける。インターンシップに参加して経験に箔をつようにも、そもそもウリとなるスキルや知識がないと参加できないという羽目になる。文系の学生は大学1年次から強い危機感を持ったほうがよい」(マーケティング会社役員)
日立製作所が導入するこうした採用形態は、日本では主流なのか。人事ジャーナリストの溝上憲文氏に聞いた。
「採用直結型インターンシップ」が主流に
――現在、日本企業の採用においてジョブ型採用は主流なのか。
溝上氏 ジョブ型採用はそれほど多くはない。なぜなら入社後の人事異動の権限を会社が持ち、さまざまな仕事を経験させて育成しようという考えが日本企業の主流である。ただし、学生が入りたい配属先の希望に沿うために、ジョブ型インターンシップを実施する企業は徐々に増えている。会社としてはインターンシップで職務の適性を見極めて、初期配属先を決める手段に活用している。
――インターンシップでも応募者に専門的な知識・スキルを要求することは一般的なのか。
溝上氏 日立の大卒採用数は技術系(理系)採用が圧倒的に多い。これまでも理系学生は専攻分野を中心に、ある程度、ジョブ型採用をしてきているが、技術分野の細分化や会社が目指すビジネスモデルを明確にしている企業では、理系を中心に、より専門的なスキルを求める傾向が強くなっている。例えばトヨタ自動車は従来、機械工学系の学生を求めていたが、EV(電気自動車)関連で電子工学系の学生を求めるようになっている。
――インターンシップでの評価は、どれくらい実際の採用に結びついているのか。
溝上氏 インターンシップに参加した学生を優先的に採用する「採用直結型インターンシップ」が今の主流になっている。また25年卒の学生から、インターンシップでの学生情報を採用活動に利用することが解禁された。今後は、よりインターンシップ参加者の内々定率が高くなるだろう。すでに大手住宅メーカーでもインターンシップ参加者が採用数の半分近くを占めている。
(文=Business Journal編集部、協力=溝上憲文/人事ジャーナリスト)