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木村誠「20年代、大学新時代」

有名企業への就職率トップは一橋大学…「圧倒的に就職に強い大学」が多い地方とは

文=木村誠/大学教育ジャーナリスト
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一橋大学の兼松講堂(「Wikipedia」より)
一橋大学の兼松講堂(「Wikipedia」より)

 秋口になると大学の就職データもまとまり、大学の就職力を探る雑誌の特集も目立つようになる。就職力の有力な指標は、昔から就職率であった。就職率といえば、就職者/就職希望者という算式が一般的であり、官庁などの就職率は今でもこの算式である。希望者のうち就職できた者の比率であるから、この方が一般的なイメージであろう。

 しかし、この就職希望者という数字があいまいで、昔ある女子大は“ここ数年就職率100%”を高らかに謳っていたが、その実態を調べると、希望の就職先に採用されず、やむなく家事手伝いになったケースなどは、その時点では就職希望者でなく、「分母から除外」されていたこともわかった。最近は大学を卒業したら就職が一般的なコースとなり、大学院進学などを除く卒業生数に比べて就職希望者が少なすぎる場合は、実態から遊離していると考えざるを得ない。

 よく、卒業近くになって就職率が急にアップする大学もある。これは最後の踏ん張りで就職者が増えたということもあろうが、実態としては、就活シーズンが終わり、やむなく就職そのものを断念したり、そのまま留年して就職希望者から外れてノーカウントになることにより、結果として就職希望者でなくなり、就職率が上がったケースも少なくないようだ。

 このように、就職希望者という数字は、イマイチ客観的データの基礎としてはあてにならないのだ。

 そこで、『大学通信』は実就職率という指標を採用している。就職者/(卒業者-大学院進学者)という算式である。これなら分母が客観的な数字で、大学側の恣意的な要素は少なくなる。私が2014年に出した『就職力で見抜く!沈む大学伸びる大学』(朝日新書)の就職力データも、この実就職率である。

圧倒的に強い中部地方の大学

 2022年の『大学通信』の実就職率ベスト10(卒業生1000人以上)を見ると、中部地方(新潟県、富山県、石川県、福井県、山梨県、長野県、岐阜県、静岡県、愛知県)の大学が圧倒的に強い。1位の金沢工業大学(実就職率97.7%)、2位の愛知工業大学(97.5%)、3位の福井大学(96.7%)、5位の名城大学(95.5%)、8位の名古屋工業大学(94.4%)、9位の中部大学(94.4%)といった具合だ。

 中部地方の大学で、実に6割を占めている。中学地理で習った日本三大工業地帯の一つである中京経済圏の底力を発揮しているのだ。

 理工系大学のみならず、名城大学や中部大学など私立総合大学も健闘している。国立の福井大学は就職に強いことで有名で、その就職セクションの活躍ぶりが地元NHKのテレビドラマになったほどである。実質的に国立大(1000人以上)では、実就職率ナンバーワンだ。

 自分のキャリアプランの中に“地域貢献”があるならば、このように地方で就職力のある大学をセレクトすることも考えられよう。

 ちなみに東京大学は、この就職率データの収集に協力していない。

有名企業400社への実就職率ランキング

 ただ、実就職率では就職できる力は測れるが、名の知れた安定した企業に就職したい大学生や受験生には「必ずしも大学の就職力の指標として、その学生の希望を十分に反映していないのではないか」という声もある。

 それを視野に入れてか、『大学通信』では有名企業400社に絞った各大学の実就職率2022年版も打ち出している。その有名企業の選出の基準は、日経平均株価指数の採用銘柄や、会社の規模、知名度、大学生の人気企業ランキングなどを参考にしている。

 そのベスト10では、前述の実就職率で8位の名古屋工業大学が同じく8位(34.8%)につけており、量質ともにトップクラスといえそうだ。同じ中部地方の豊田工業大学も40.4%で全国3位。こちらはトヨタ系列の大学だから当然、という見方もある。

 この有名企業実就職率のトップは一橋大学で50.8%。昨年まで50%を超えていた東京工業大学は41.8%で2位をキープしたものの、前年の54.0%から急落している。

 この有名企業実就職率ランキング2022年版で30%を超えているのは、上記4大学を除いて、慶應義塾大学(39.3%)、東京理科大学(37.1%)、九州工業大学(36.8%)、電気通信大学(35.1%)、大阪大学(33.3%)、国際教養大学(32.7%)、名古屋大学(32.2%)、早稲田大学(31.5%)である。

 以上のような有名大学の就活生でも、有名企業に就職できるのは4割以下なのだ。さらに問題なのは、この有名企業の就職率が2020年から2022年までの3年間で全般的に低下傾向にあることだ。

 コロナ禍の影響で採用人数を抑える企業が多かったから、と一応の原因は推定できる。しかし、その底流には、今までの終身雇用を前提とした「新卒大量一括定期採用」の雇用システムから、ゆるやかではあるが中途採用を増やすなど、個々の職務能力や実績を評価する「ジョブ型雇用への転換」があるといえるのではないか。そうだとすれば、これからも新卒一括採用の人数が復活する可能性は高くない。

ジョブ型雇用で採用にも変化の波が

 今まで日本企業の雇用は、職種別採用(ジョブ型採用)ではなく、学校卒業時に職種を限定せずに入社する「就社」が一般的だった。ひとたび一般企業に入ってしまえば、あまり希望職種に関わりなく職場に配属され、キャリアアップしていくのが一般的である。

 ところが、ジョブ型雇用社会では、企業が社員を雇用するとき、あらかじめ職務を明確に定める職種型雇用が一般的となる。そうなれば、その労働者のジョブに係る遂行能力こそが問題となる。2022年8月に開かれた中央教育審議会大学・分科会のヒアリングに対して、経団連は「今後の5年間ほどを見通した採用の傾向としては、①既卒者の採用を増やす、②多様な人材を確保するため、新卒者・既卒者を問わず、職種別・コース別、ジョブ型採用などの多様化、複線化を進めていく」と応じた。

 もちろん、ジョブ型雇用が社会に広がっても、企業が学生を採用するときに能力・スキルの指標として学歴を重視することはなくならないだろう。ただ、それでも受験生の大学選びの基準が、学力偏差値重視の「その大学に入れるかどうか」という現状より、就活の際に「その大学で身につけた専門知識や能力・スキルがどれだけ評価されるか」になる可能性が高い。

 就活でも「旧帝大系や早慶ならどこでも強い」と思われがちであるが、他の大学でも、意外と特定の職種に強いところも多い。

 たとえば、今人気の「社会福祉士」で見ると、人数では日本福祉大学通信教育部が圧倒的に多く、他に日本社会事業大学なども多いが、合格率では愛知県立大学(45人、71.4%)、大分大学(31人、88.6%)、東京家政大学(27人、77.1%)などが注目に値する。このように、自分のキャリアプランに合わせた事前のリサーチが欠かせない。

 かつては慶應義塾大学ならどの学部でもよい、という受験生が多くいたが、そのような動機での受験は、これからは将来設計の上でロスが多い作戦になるだろう。しっかりしたキャリアプランを立て、その実現可能性の高い大学を選ぶことが大切になる。

木村誠/大学教育ジャーナリスト

木村誠/大学教育ジャーナリスト

早稲田大学政経学部新聞学科卒業、学研勤務を経てフリー。近著に『ワンランク上の大学攻略法 新課程入試の先取り最新情報』(朝日新書)。他に『「地方国立大学」の時代–2020年に何が起こるのか』(中公ラクレ)、『大学大崩壊』『大学大倒産時代』(ともに朝日新書)など。

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