京都大学・大阪大学・神戸大学・同志社大学・立命館大学・関西大学・関西学院大学の7大学が参加する「関西7大学フェスティバル」が、毎年開催されている。コロナ禍の2021年は8月にオンラインで開催され、それぞれの大学・入試情報を集めた特設サイトが公開された。そして、各大学の理事・副学長などによるパネルディスカッションがライブ配信され、関西地区だけでなく全国の受験生に向けてPRしたのである。
この「国立大」京阪神トリオ(京都・大阪・神戸の各大学)と「私立大」関関同立が、全国に通用する「関西圏のブランド大学」であるという自負であろう。しかし、その定評も、大阪府立大学と大阪市立大学の統合で、学生数などスケールで国公立大全国ナンバー3、公立大では同ナンバー1となった大阪公立大学の登場と、「早慶近」を自称する近畿大学の拡大戦略で危うくなりつつある印象だ。
それにしても、大阪府立大と大阪市立大の統合には驚いた。「維新の大阪都構想の大学版」であることは誰もが予想できるが、一方で「連合赤軍のリーダーであった森恒夫と、よど号ハイジャック集団のリーダー田宮高麿が属した、日本赤軍の根城と言われたあの市大がねえ……」という全共闘世代も多かったのではないだろうか。当時、大阪市立大は「関西ブント」が学生運動を主導していたからだ。
ともかく大阪外国語大学を統合した大阪大といい、今回の大阪公立大といい、何でも大きくすることがお好きな「大・大阪」の土地柄が表れているようだ。
また、大阪公立大は、大阪府立大OBで阪神電気鉄道取締役会長、株式会社阪神タイガースオーナーの藤原崇起氏からのメッセージ「開学に寄せて」を公式HPで公開するなど、広報活動も盛んだ。
それに比べて、京都勢は孤高を行くかのような印象だ。京大と同志社大は、それぞれ関西で国立・私立トップの立ち位置は揺るぎそうにない。ただ、「どっぷり大阪」の関西大や大阪府茨木市に学部キャンパスを置く立命館大などは、大阪公立大や近畿大の影響をもろに受けそうだ。
激動する関西圏の私立大学の動きを探ってみよう。
人気トップの関西大は外国人学生を大幅増へ
入試偏差値などから言えば「同立関関」あるいは「同関立関」でもよさそうなのに、なぜ「関関同立」なのか。実は、半世紀も前に大阪にあった予備校の関係者が、大阪府にある関西大の評価を高めるために「関西大をトップにした関関同立」を定着させたとも言われている。やはり「大・大阪」の自負心が反映されているのかもしれない。
確かに関西大は関西圏の受験生には人気があり、「志望したい大学」では関関同立でトップである。関西圏の国公立志向の強い受験生や、同志社大・立命館大・関西学院大の受験生にとっても、関西大をまず志望校に加えたい、ということであろう。
また、人口の多い大阪府下の私大で難易度ナンバー1という地の利も大きいと思われる。さらに、OBに桂文枝(6代目)など落語家が多いことも、地元の人にとって親しみを感じさせる校風なのであろう。
建学の精神も「正義を権力より護れ」とかっこよい。首都圏の明治大学や法政大学と同じように法律学校がルーツで、校風も似ている。最近、外国人学生を9000人に増やすというビジョンを掲げた。実現すれば3人に1人が外国人学生になり、キャンパスの雰囲気も大きく変わるだろう。当然、2025年の大阪・関西万博も視野に入れた戦略に違いない。
2021年1月に包括連携協定を締結している大阪府立大・大阪市立大・関西大の学長から、新型コロナウイルスに関する共同メッセージが発信されている。関西大の前田裕学長は大阪府立大工学部OBで、2021年10月に学長に就任後、大阪府立大を来訪して辰巳砂昌弘学長と懇談している関係だ。共に大阪府下にある大阪公立大と関西大は密接な関係にあるといえよう。
学部別では、外国語学部が人気上昇中。入学定員が他の学部と比べ少ないせいか、偏差値も学内で一番高い。伝統のある文学部も卒業生が多く、西日本では教員も目立つので受験生の人気を集めている。ただ、化学生命工学・環境都市工学・人間健康などの学力偏差値は緩やかに上昇中であるが、さらに伸びている近畿大の猛追を受けている。
関西学院大は理工系人気を先取りで学部再編
国際都市・神戸の街並みを見下ろす高台、南欧イメージの緑豊かな西宮市上ヶ原の地にある関学キャンパスは、ミッション系だけに女子学生に人気で、今まで文系大学のイメージが強かった。
しかし、2021年に理工学部を大きく再編して注目された。従来の理工学部を理学部、工学部、生命環境学部、建築学部と拡充再編し、さらにその理工系と総合政策学部を連携させた。建築を除く理工系新学部と総合政策は、2年目の2022年入試でも志願者が増加した。人気は根強い。
これらの4学部は上ヶ原ではなく、神戸三田キャンパスにある。理工系学部が多いキャンパスだけにやや堅い雰囲気かと思いきや、上ヶ原同様に南欧風の赤い屋根の白っぽい校舎で明るいイメージだ。これなら理系女子もモチベーションが保てそうな学び舎である。校舎の屋上に天体観測ドームを置いたり、企業と共創する場としてオリジナルマイボトルでSDGsを実践する「BiZCAFE」を設置して、関学らしい雰囲気を醸し出している。
さらに、上ヶ原にある文系学部でも7科目の共通テスト方式を2022年入試で新たに採用したことから、国公立大受験生の併願先として人気を集め、関関同立で志願者増トップとなった。
こうした学部再編の動きの背景には、今まで関学が多くの卒業生を送り出してきたメガバンクなどの金融機関が、近年はAI(人工知能)などの影響により採用人数を縮小する傾向がある。関学も伝統の強みに安閑としていられないという危機意識を反映しているのであろう。理工系人気を先取りした学部再編の動きとともに、AI教育を全学的に実施することも、伝統に安住しない関学の姿勢の表れといえよう。
女性学長の同志社大はダイバーシティを重視
同志社大の創立者、新島襄の「弱者の友になれ」は、現在の貧困対策の原点になる言葉であるが、同時に新町校地の建物の壁面に刻まれている「諸君ヨ、人一人ハ大切ナリ」はダイバーシティ(多様性)重視につながる。
この言葉は、新島が1885年(明治18年)に同志社英学校創立10周年の記念式典の式辞の中で、「思わず」発した。新島の留守中に、ある学生が重大な問題を起こして退学処分を受けた。新島がその学生の将来を嘆き悲しみ、涙ながらに感極まって口走った言葉であった。つまり、ある学生個人を想起しての具体的な言葉であり、上から目線の人生訓とか、単に理想の教育を語るスローガンではない。
お茶の水女子大学OGである植木朝子学長の存在も、同志社大のこのダイバーシティを体現しているかのようだ。多様性を重視する方針は、他学部の科目を選択できる副専攻制度にも表れている。たとえば、法学部生で医療裁判に関心があれば、生命医科学部の科目が受講できる。
また、2021年9月にできた同志社大初の教育寮である「継志寮」は、留学生2名、国内学生3名の5名を1ユニットとして、1フロアに16ユニット80人が居住して共同生活を送るシステムになっており、ダイバーシティ・キャンパスの具現化を牽引する。
こうした独自の学風は同志社大の大きな魅力で、偏差値を比べても関関同立の中でも頭一つ抜けた感じだ。複数合格者の入学選択先の調査では、関西圏で併願して複数の私大に合格すると、同志社大に進む受験生が多い。
だから、関西圏で第一志望の国公立大が不合格だったら同志社大に入る心構えができている受験生も多い、と言われる。入学する際の納得感が強いのだ。入試問題の傾向も記述問題が多く、個別試験で記述問題のウエイトが高い難関国立大受験生にとっては取り組みやすい面もあるのだろう。
学力偏差値でいえば、グローバル・コミニュケーション学部に伝統の法・経済・商が続き、おおむね首都圏の上智大学や明治大と同格で、関関同立の中では全般的に難易度が高い。
「京都の大学」イメージ転換を図る立命館大
立命館大といえば、10年前までは大学入試改革の旗手として名を知られ、関東地方の高校の先生の間でも評判だった。まさに入試の多様化の先駆者で、A方式から複数の方式があり、その方式間で学内併願できるため、延べ志願者数は多くなった。
その成果か、現在の学部学生数は関関同立の中で唯一3万人を超えている。学部数も、他の3大学が13~14学部なのに対して16学部と多い。といっても、ユニークなのは、びわこ・くさつキャンパスに設置される「食マネジメント学部」ぐらいだが……。ここ数年は改革疲れも出てきたのか、おとなしい印象だった。
しかし、今やいよいよ再始動か? という印象だ。2024年に映像と情報理工の2学部を大阪いばらきキャンパスに移転させて、IT企業などのノウハウを活用する「ソーシャルコネクティッド・キャンパス」を構想中だ。
同キャンパスには、教職員・学生が地域の人と一緒に進めるコミュニティ共創プロジェクトがある。その一つ「育てる里山プロジェクト」は、キャンパスに自然の山を再現する楽しい取り組みだ。立命館大は、2018年に大阪府と9分野にわたる連携と協働のための包括連携協定を締結している。こうした環境要因も上記構想の背景にあるのだろう。
また、最近の立命館大はアントレプレナー(起業家)対策にも熱心だ。大学発ベンチャーも60社と、私大では東京理科大、早稲田大、慶應義塾大に次ぐ全国4位と高い実績だ。国立大の地域貢献や外部資金稼ぎにシフトした大学発ベンチャーとは違って、自由な発想で社会課題を策定し、その問題解決を導くイノベーション人材による起業への期待は大きい。
入試では、立命館大もグローバル系の国際関係学部の学力偏差値が高く、総合心理学部が続く。総じて、関西学院大とほぼ同格の難易ランクだ。2022年入試では、薬学部が志願者57%増となったのが目立つ。全国的な薬学部人気を背景に、薬学科と創薬科学科の併願ができるようになったことが大きく影響していると思われる。また、過去、有名だった1、2科目の少数科目入試は、2月入試ではなくなった。入試方式も整備されつつあるようだ。
(文=木村誠/大学教育ジャーナリスト)