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木村誠「20年代、大学新時代」

東京都立大学を上回る“マンモス”大阪公立大学の誕生で関西の受験勢力図は激変か?

文=木村誠/教育ジャーナリスト
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大阪市立大学1号館(「Wikipedia」より)

 愛知県の大村秀章知事リコール事件で、日本維新の会の県議会議員が事務局長を務め、大阪府の吉村洋文知事が当初はリコール運動にエールを送っていたこともあって、維新との関係が話題を呼んでいる。また、維新は大阪都構想に関して行った2回の住民投票で多数を取れず、計画は頓挫している。

 そんな中、大阪府立大学と大阪市立大学の統合による大阪公立大学(仮称)の設立は実現に向かって進んでいる。「大阪大学(大阪ビジネスパークの将来構想・大阪大学ASEANキャンパス構想など)+大阪公立大のインバウンド留学生・外国人研究者」戦略を連想させる。世界レベルでのアカデミックの拠点を目指していると思われる。

 また、授業料を実質無償化する制度などで大阪府が展開している大阪府子ども総合計画を基盤とする「こども囲い込み戦略」で、優秀な子どもの進学の受け皿として大阪公立大を考えている、ともいわれる。近隣の兵庫県・奈良県・和歌山県などは大阪への交通の便が良いだけに、中学や高校などの「優秀な子どもを大阪府に持っていかれる」ことを恐れていることは想像に難くない。

東京都立大を上回るマンモス公立大に

 大阪公立大は2022年度に開学予定だが、1法人2大学のアンブレラ方式でなく、2大学の教育研究組織の完全統合へと進む。新キャンパスは大阪城横の森ノ宮に建設される予定で、都心回帰の狙いがあると思われる。今後、維新が大阪の地方選挙で負け、知事や市長の座を明け渡すことになっても、この統合は進むであろう。ただ、大阪市大のOBからは、母校消失だと残念がる声も聞く。

 大阪市大は、旧三商大と言われた商学部と、附属病院と連携する医学部が知られている。伝統があり、世界ランキングでも大阪府大より高い。ただ、石原慎太郎元東京都知事が改組設立した首都大学東京のように、政治家に振り回されるのが公立大学の宿命である。大阪市大も抗することができなかったのではないか、という見方もある。ちなみに、首都大学東京は2020年4月から旧名の東京都立大学に戻った。

 一方、大阪府大は2005年に旧大阪府立大学、大阪女子大学、大阪府立看護大学の3大学を統合して生まれた。ただ、その前は、工学部・農学部・教育学部を擁する浪速大学から1955年に大阪府立大学へと名称変更した経緯がある。そのため、看板学部は工学域(2012年に学域制)と生命環境科学域の獣医学類といわれる。特に獣医学部は関西には大阪府大にしかなく、北海道の北海道大学と西の大阪府大と並び称される。ただ、大自然をバックにした北の大地と大都会の難波の獣医では、受験生に与える印象は違うようだ。

 大阪都構想が実現していれば大阪都立大学というべきかもしれないが、東京都立大をはるかに上回るマンモス公立大が生まれることになる。両大学とも、日本経済新聞の地域貢献度では上位ランクに入る。特に、他の公立大に比べて地元企業との連携が進んでいる。ただ、すべての公立大は法人化してから、地方財政が逼迫している折、運営費交付金は国立大学法人と同様に大幅に減っている。

 大阪府大、大阪市大ともに大幅な人件費削減と学部の再編統合を進めてきたが、自ずから限界がある。そこで両大学が統合すれば、学部・教育のスケールメリットが生まれ、旧帝大系がほとんどの基幹大学に迫るレベルになる。教員数や学生数では、公立大ではダントツの1位になる。医学部のない東京都立大に差をつけることができる、というわけだ。

 当面、1法人で「関西圏で神戸大学を抜くこと」をファーストステップにする。スケールの面では、神戸大をターゲットにするのはそれほど難しいことではない。ただ、偏差値で神戸大を抜き去るには、大阪府だけでなく近県の優秀な受験生を集める「関西圏の学力レベルの高い学生の囲い込み戦略」が不可欠になる。

 将来、大阪大と大阪公立大が統合することになれば、大阪の知的インフラは大きく整備されて、成長戦略の要となる。それが、大阪都構想のひとつのキーポイントだったのではないだろうか。都構想は崩れても新大学は誕生し、それは関西圏の受験地図を大きく変えることは間違いない。

関西圏の受験地図はどう変わるのか?

 2022年以降はコロナ禍から抜け出しているであろう、という想定の下に、関西圏の受験地図はどう変わりそうか、予測してみたい。

 受験生やその保護者にとって、コロナショック(家計上の経済的打撃)、コロナ前の大学イメージの変貌、首都圏のコロナ災害イメージなどの影響は大きい。基本的に、「わざわざ関西から首都圏の早慶などを受けに行く学生」は減るという予想は共通している。長期的には、本社機能の一部を淡路島に移転させている人材派遣大手のパソナグループのように大企業の東京離れが進行し、就活でも必ずしも東京有利とは言えなくなりつつある。さらに、首都圏の私立大学の定員抑制策は今後も続くであろう。

 コロナ禍によるオンライン授業は今後も一定程度定着し、対面授業との「ハイブリッド大学教育」の拡大で、下宿生よりも自宅生を選ぶ受験生の比率は今後高まるとみられ、それも東京離れを加速させる可能性がある。

 以上を背景に、大阪府の「学力レベルの高い学生の囲い込み戦略」は「大阪大または大阪公立大(第一志望群)」と「関西大学・近畿大学・立命館大学(OIC)(併願校)」を軸に展開しそうだ。

 そのため、旧来の「関関同立」「産近甲龍」の括りは解体していきそうだ。同志社大学は偏差値的には頭一つ抜けており、京都大学の併願校として不動の地位を築いている。『陰謀の日本近現代史』の保坂正康氏、多方面の言論活動で活躍する佐藤優氏、『永遠のゼロ』の百田尚樹氏(中退)など多彩な論客のOBが活躍し、今や「西の慶應」というより「東の東大×早稲田、西の京大×同志社」のイメージが定着した。その意味では、大阪公立大の影響は少なそうだ。

 その点で、同じ京都の立命館大は、グループ全体で総額25億円という桁違いのコロナ支援策で話題を呼び、大阪いばらきキャンパス(OIC)で大阪府との連携を強めている。ただ、昔ほどの元気はないとの声も……。

 大阪府吹田市の関西大は、大阪府大・大阪市大との3大学連携を強化している。関関同立の中ではいまいち印象が薄かったが、これを機に挽回の可能性あり。

 ミッション系の関西学院大学は、どうしても「港町・神戸のある兵庫県の私学」の印象がぬぐい切れない。注目された社会起業学科などの学部・学科新増戦略が功を奏するか。

「産近甲龍」への影響は

 次に「産近甲龍」を見てみよう。

 京都産業大学はクラスター発生の影響を引きずっているようだが、龍谷大学とともに新学部や学部改組などで真価の発揮が期待される。両大学とも地味であるが、学びの特色はむしろ着実な印象を受ける。しかし、地理的にも大阪公立大の併願候補からは外れる可能性は高い。

 甲南大学は企業経営者の2世が多く、御曹司大学のイメージが強いが、推薦・一般とも志願者が減り、コロナ禍で地元化が進んでいる。自宅生比率が圧倒的に高まっていることは想像に難くない。やはり、大阪公立大の余波は受けそうだ。

 その点、全国の私大の中でも例年志願者数トップの近畿大は「早慶近」のキャッチフレーズを打ち出すなど意気軒高。大阪府とのつながりも強く、大阪公立大の誕生では、自民党の世耕弘成参議院議員(創立者家系)と維新との関係でどう動くか、医学部があるのが強みであるが、大阪市大医学部との連携がプラスと出るか、マイナスと出るか。読みにくい要素は多い。

 京大の受験生にはそれほど影響はないが、神戸大、関西学院大、甲南大などは、大阪公立大という強力ライバル登場でどうなるか。奈良、和歌山など近県からの受験生も集めるだろう。

 とりわけ、手厚い授業料無償化制度の恩恵を受ける生徒・保護者がともに大阪府内に在住する受験生は、関西大・近畿大・立命館大(OIC)など大阪府内での併願率が増加して、影響を受けそうだ。

(文=木村誠/教育ジャーナリスト)

木村誠/大学教育ジャーナリスト

木村誠/大学教育ジャーナリスト

早稲田大学政経学部新聞学科卒業、学研勤務を経てフリー。近著に『ワンランク上の大学攻略法 新課程入試の先取り最新情報』(朝日新書)。他に『「地方国立大学」の時代–2020年に何が起こるのか』(中公ラクレ)、『大学大崩壊』『大学大倒産時代』(ともに朝日新書)など。

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