将来の総理候補として国民を熱狂の渦に巻き込んできた小泉進次郎氏。昨年、フリーアナウンサーの滝川クリステルと結婚し、滝川の妊娠、そして自らは環境相として初入閣とトリプルで祝い事が重なった。しかし、その途端、過去の女性問題や政治資金不正支出疑惑などが次々と報じられ、あげく「ポエム発言」「セクシー発言」などが猛批判を受けている。ポスト安倍の筆頭候補という立場も怪しくなりつつある。
筆者がその背景や理由を分析していたところ、二十数年前に某政治家が熱狂を巻き起こしたもののそれが急速に冷め、ごく普通の政治家になった例を思い出した。それは今の小泉氏の置かれた状態にあまりに酷似している。
その政治家の名は衆院議員、船田元(はじめ)元経企庁長官だ。以下に小泉氏との酷似点を列挙していく。
共に世襲議員
・船田氏
当選12回。祖父は衆院議長で自民党副総裁、防衛庁長官も務めた大物政治家の船田中(なか)氏。父、譲氏は栃木県知事、参院議員を歴任。まさに世襲議員だ。そして船田家は、プロ野球の怪物、江川卓投手を輩出した作新学院の創始者一族という華麗なる一族でもある。
・小泉氏
当選4回。曾祖父は逓信大臣を務めた小泉又次郎氏。祖父は防衛庁長官を務めた小泉純也氏。そして父は小泉純一郎元総理だ。こちらも政界のサラブレッドだ。
共に30代で閣僚、将来の総理候補筆頭
・船田氏
25歳で衆院初当選を果たした船田氏も今から30年ほど前、「自民党のプリンス」と呼ばれた。宮澤内閣では戦後史上最年少(当時、39歳)で経済企画庁長官として初入閣。将来の総理候補と呼ばれた。
・小泉氏
政界入りした当初から、人気が高かった小泉純一郎元首相の子として、将来の総理候補としてもてはやされる。38歳とやはり30代で安倍内閣の環境相に抜擢される。
共にキャスターと結婚
・船田氏
96年、参院議員だった元NHKアナウンサーでキャスターの畑恵氏と不倫。当時新聞連載で話題になっていた渡辺淳一氏の性愛不倫小説『失楽園』にちなみ「政界失楽園」と称され、永田町内外を驚愕させた。結果、船田氏は長年連れ添った糟糠の妻と離婚、畑氏と再婚。その結果、地元の評判もガタ落ちで2度の落選の憂き目に。しかし、その後は復活、自民党内で憲法調査会長なども歴任した。
・小泉氏
19年8月、小泉氏は突然、フリーアナウンサーでキャスターも務める滝川クリステルと首相官邸内で結婚・妊娠を発表、永田町内外は政界プリンスの「デキ婚」に驚愕した。さらに、入閣。まさに登り竜のような勢いだ。
しかし、ここにきて勢いに陰りが出始めている。結婚後、過去の複数の女子アナとの交際、人妻との不倫疑惑。さらには、その費用に政治資金が使われたのではという疑惑さえも報じられる。加えて、大臣就任後の国際会議での意味不明な「セクシー」発言なども重なり、小泉氏への視線は厳しさを増した。
「TIME」に共に「世界の100人」に選出
米誌「TIME」は過去、さまざまな角度から「世界の100人」を発表してきた。
・船田氏
自民党離党後の1994年、バイオリニストの五嶋みどりさんとともにTIMEの「21世紀を動かす世界の100人」に選ばれた。
・小泉氏
TIMEは19年、「次世代の100人」に小泉氏を選んだ。ビジネス、エンターテイメント、スポーツ、政治、科学、健康などの領域において、未来を形作る人物を対象としての人選だという。
見習うべきは父・純一郎氏
こう見てくると、船田氏と小泉氏は、経歴があまりにも似ていることに驚かされる。まるで小泉氏が船田氏の後ろ姿を追いかけているかのようだ。そして、現在。当時の総理筆頭候補、世界政治を動かす可能性のあった船田氏の面影はない。もちろん政治家のなかで有能な議員であることは今も間違いないが、世界と日本を大きく変革させるリーダーとしてのパワーではなくなった。
こうなると小泉氏は、現状のままでは船田氏と同じく、“そこそこ魅力ある有能な一政治家”として終わる可能性もある。この危機を脱するには、小泉氏には何が必要なのか。自民党長老のひとりはこう言う。
「政治家として国民や人類のため理想をなしとげるパワーだ。そのためには多くの軋轢が生まれる。つまり理想の政治実現には、ときとして喧嘩してでも戦い抜くことが必要だ。今の進次郎君に多くの人がガッカリしているのは、八方美人になりすぎていることだ。父親、純一郎氏が多くの国民を魅了したのは、郵政民営化を唱え自民党の仲間とも喧嘩したからだ。自民党をぶっ壊すとも叫んだ。それが党内にも新たな仲間をつくり国民にも支持されたことを、進次郎君も学ぶべきだ」
国民は小泉氏にいまだに期待している。英紙タイムズは1月2日、今年注目のすべき世界の20人に小泉氏を選んだ。以下がその選評だ。
「顔は良いが独創的な考えを持たない世襲の政治家貴族か。それとも彼の世代で最も興味深く有望な政治家か。力量が試される年」
世界が注目している政治家であることは間違いない。
(文=田村建雄/ジャーナリスト)