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コストコやイオンモール出店&高時給で募集→周辺の低賃金の小売・飲食業が採用難

文=佐藤勇馬、協力=西川立一/流通ジャーナリスト、マーケティングプランナー
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画像:「コストコ公式オンラインショップ」より

 アメリカ発の小売りチェーン「コストコホールセール(以下、コストコ)」が日本各地で時給1500円などの「高時給」でパート・アルバイトを募集。賃金相場の低い地方の小売店の経営者らが「人材確保が難しくなる」として嘆きの声を上げていると報じられて話題になった。経営者の立場からは「地方の賃金相場を破壊する」との意見がある一方、ネット上では労働者の視点から「時給1500円が高いという感覚がおかしい」「コストコの地方進出は低すぎた賃金を上げる “外圧”になる」という期待の声が上がっているようだ。

 話題となっているのは、「NEWSポストセブン」(小学館)が18日に配信した「全国各地でコストコ『高時給求人』の衝撃広がる 群馬の経営者は『時給1500円は無理』と嘆息」と題する記事。コロナ禍が明けても人手が戻らずに小売業と飲食業の人材不足が深刻化しており、営業休止や閉店に至る事例もあるが、記事によると群馬県でコストコが「時給1500円」で短期バイトを募集し、現地のガソリンスタンド経営者らが「時給1500円は無理だ。群馬県の最低賃金は895円、世界的企業の真似はできない」などと嘆いているという。

 実際、求人サイトで検索してみると、群馬県では業務スーパーが「時給905円~」、ドラッグストアが「時給895円~」、ラーメン店が「時給950円~」でパート・アルバイトを募集しており、コストコの時給とは550~600円ほどの開きがある。コストコは最低賃金883円の宮城県などにも進出しており、時給1500円などの報酬を提示する「高時給募集」が全国で猛威を振るい、各地で地元企業の人手不足が加速しそうだというのだ。

 コストコは世界展開するアメリカ発の会員制倉庫型スーパーで、1999年に福岡で日本第1号店を出店。生鮮食品から日用品、家電、家具、雑貨など幅広い商品を取り扱い、全体的に低価格で大容量の商品が用意され、試食やフードコートなども充実していることから家族連れからの人気が高い。今年4月時点で国内に32店舗を構え、2030年までに国内60店舗以上を目指すという。

 世界的企業であるコストコは従業員の待遇も「グローバルスタンダード」となっており、どこの店舗であろうとアルバイトの時給は少なくとも1200円からで、先述したように時給1500円で募集している場合も多く、地域によっては最低賃金や現地の時給相場を大きく上回る。

 最近は徐々に賃上げムードが世間に芽生えてきているが、今のところ地方には広がっていない。東京や大阪などの都心であればコストコと同レベルかそれ以上の時給を提示し、アルバイトの人材確保を競うことができる企業は少なくないが、低い賃金相場を前提に成り立っていた地方の小売り業や飲食業は太刀打ちできないというわけだ。

 実際、コストコのような外資系企業などの地方進出によって、地元企業が人材難に陥るケースはよくあることなのだろうか。流通ジャーナリストの西川立一氏に解説してもらった。

「そういった事例は実際によく見受けられます。コストコなどの外資系だけでなく、イオンやユニクロなどの国内大手企業もパート・アルバイトの時給水準が高いため、賃金相場が低い地方の中小チェーンや個人店では対抗するのが難しい。特に、イオンはイオンモール出店時にパートやアルバイトを大量に募集しますから、その地域の労働力を一気に持っていってしまいます」(西川氏)

 また、多くの小売店ではアルバイトやパートの昇給について“ブラックボックス化”していて具体的な決め事がないケースが大半だが、コストコは勤務期間によって自動的に時給が1800円まで上がるなど昇給のルールが明確化されており、パートの場合は時給2000円まで昇給する。福利厚生のプランも多様で、目的や勤務時間に応じてさまざまな働き方ができる。さらに、正社員登用にも積極的でやりがいの面でも充実しているという。そうした待遇面の事情について、西川氏はこのように説明する。

「やはり、外資系や大手はアルバイト・パートであっても昇給システムなどの待遇面がしっかりしている傾向は強いです。たとえば、マクドナルドはスキルの習熟度によって従業員がランク分けされ、それに応じて時給が上がっていき、制服や帽子もランクで変わるのでモチベーションが高まりやすい。外資系や大手が正社員登用に積極的なのも事実で、イオン系スーパーのマックスバリュ東北は私が取材に行った時にパート出身の女性店長がいました。ブックオフでは、パートから正社員、店長、役員、そしてついに社長となった橋本真由美さんの例もあります。ただ、誰もが大手で昇進や昇給を目指してガンガン働きたいというわけではなく、こぢんまりとした居心地のいい地元の中小チェーンや個人店で気楽に働きたいという人もいるので、それぞれ違った需要があるという見方もできます」(同)

 コストコなどの地方進出は、構図としては「大資本の進出によって地元企業が人材を奪われて衰退するかもしれない」という形になりそうだが、ネット上では

「人手不足は困るけど時給は上げたくないなんてワガママ言ってたら、コストコに人材持ってかれて当たり前」

「適正な賃金が払えない会社は払えるように企業努力すべきで、それができないなら淘汰されたほうがいい」

「地方の賃金水準は時代に合ってないから、コストコが外圧になって地方経済を変えてほしい」

といった好意的な声が相次いでいる。

 その一方で

「地域に密着した中小企業が人手不足で消えてしまうのでは」

「賃金相場が崩れて地方経済が混乱しそう」

などと危惧する人もいるが、全体的にはコストコの地方進出を歓迎する意見が多いようだ。

 かつて、イオンが全国各地に進出して地元の商店街を衰退させたことに批判が高まったことがあったが、コストコの進出については歓迎の声が目立つ。「外圧」でしか変われないといわれる日本において、外資系のコストコが地方の低い時給相場や閉塞感を打ち破ってくれるかもしれないという期待があるのだろう。

「まず前提として、もともと小売業や飲食業は賃金水準が低く、さらに正社員を少なくしてパートやアルバイトの比率をどんどん上げ、人件費を抑えることで成り立ってきたという歴史があります。ですから現状のままだと、地方企業が人手不足になっても簡単に時給を上げられないという事情は理解できなくはない。一方、コストコは倉庫型店舗で陳列の手間などが少ないので、店の大きさと比べると従業員がそれほど多くはなく、人件費がさほどかさみません。さらに、商品をメーカー直で仕入れているので低価格で販売しても利益が確保できますし、会員制なので年会費(税込4840円)の収入も大きい。そうした儲かるビジネスモデルを構築しているので、パートやアルバイトを高待遇で雇えるんです。儲かるビジネスモデルがあるから従業員の待遇に還元できるという部分は、ユニクロやイオンなども同じ構図です。そうした国内大手企業や外資系企業の地方進出が、低い賃金相場を前提にした小売業や飲食業のシステムをドラスティックに変えるきっかけになるかもしれないという期待はできます」(同)

 今後の小売業・飲食業のパート・アルバイト雇用について、西川氏はこのように見解を語った。

「少子化で労働力が減少していくのは間違いありませんから、最低賃金をもっと上げていかないといけませんし、働き手がしっかり生活できるだけの時給を払えない企業は淘汰されても仕方ない部分はあります。ひとつのやり方としては、人手不足を嘆いていても仕方ないので、AIの活用やDX化によって無人店舗化するなど、人をできるだけ使わないようにするという手段がありますが、これは相応の投資が必要なので地方の中小企業が実施するのは容易ではありません。ただ、弱肉強食で労働力を確保できずに地方企業が淘汰されたら、全国すべて外資系や大手チェーンばかりになってしまいますから、それでは多様性がなくてつまらないでしょう。その地域ならではの中小チェーンや味のある個人店が、地方に進出してきた外資系や大手企業とどうやって共存共栄を図っていくのか、これは非常に難しい今後の大きな課題といえます」(同)

 地方の小売業や飲食業は時給を上げることができずに人手不足で淘汰されていくのか、それとも「外圧」をきっかけにした変革によって生き残りを目指すのだろうか。

(文=佐藤勇馬、協力=西川立一/流通ジャーナリスト、マーケティングプランナー)

西川立一/流通ジャーナリスト、マーケティングプランナー、ラディック代表取締役

西川立一/流通ジャーナリスト、マーケティングプランナー、ラディック代表取締役

流通ジャーナリスト。マーケティングプランナー。慶応義塾大学卒業。大手スーパー西友に勤務後、独立し、販促、広報、マーケティング業務を手掛ける。流通専門紙誌やビジネス誌に執筆。流通・サービスを中心に、取材、講演活動を続け、テレビ、ラジオのニュースや情報番組に解説者として出演している。

Twitter:@nishikawaryu

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