今、フードデリバリーサービスの大手「Uber Eats」を支える配達員たちの苦境が如実に表れてきている。自宅にいながら飲食店の料理を配達してくれるサービスとして、ここ数年で急速に定着したUber Eats。そのため配達員の需要は高そうだが、SNS上には配達員たちの嘆きの声が多数みられ、「何頼んでも1500円くらいするから注文がない」「時給は1時間で600円くらいまで下がっている」というものまでみられる。そこで今回は、税理士法人Five Starパートナーズの代表税理士であり、税理士YouTuberとしても活躍している田淵宏明氏に、Uber Eats配達員の苦しい現状について解説してもらった。
物価高騰と脱コロナ禍で需要ががくんと下がった
アメリカのウーバー・テクノロジーズが2014年8月に世に送り出したサービスであるUber Eats。日本ではUber Japanが16年よりサービスを開始し、今では広く普及している。
「20年から新型コロナウイルス感染症が大流行し、ステイホームの風潮が強まったことで、日本でもUber Eatsの存在感が一気に高まりました。サービス開始の翌年である17年時点では加盟している飲食店は1000店舗ほどで、18年には3500店舗、19年には1万店舗を超えるなど順調に伸びていましたが、当時はまだ知る人ぞ知るという程度の知名度だったと思います。ですがコロナ禍を経た22年までに、一気に加盟店数が15万店以上にまで増えたのです」(田淵氏)
SNS上での書き込みのように、需要が減ってきているという現状はあるのだろうか。
「落ち込みの度合いを示す明確なデータはないので、私の所感になってしまうのですが、確かにかつてほどの需要はなくなりつつある印象です。一番大きな理由は、コロナ禍が落ち着きを見せはじめ、外食需要が回復してきたことにあるでしょうね。これまでUber Eatsは、外食したいけど感染リスクが怖いという動機で利用されていた面がかなりあるので、そんな動機がなくなり始めた影響は大きいはず。
もうひとつの理由として、料理価格の上昇もあるでしょう。これは提供している飲食店にかかわる問題なのですが、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で、小麦などの原材料費が高騰し、それらを運ぶための物流コストも上がってしまっています。そのため飲食店側も料金を上げざるをえず、それまではUber Eatsで頼めるメニューはだいたい1000円前後が多かったのですが、今や多くが1300円前後。これに加えて、実質所得低下で消費者のお財布の紐も堅くなっている影響も考えられます」(同)
ほかにもUber Eatsを追い詰める現実があるという。
「もともと日本では、宅配サービスの『出前館』がUber Eatsと競合していましたが、コロナ禍を経て『menu(メニュー)』や『Wolt(ウォルト)』など、競合他社が増加してしまいました。今でもUber Eatsが最大手で、他社はその牙城を崩すには至っていませんが、それでも消費者を取られてしまっているのは確かでしょう」(同)
不透明な報酬形態と下がり続ける需要が苦境を招く
では、Uber Eatsの配達員たちはどのような報酬形態になっているのか。
「配達員はUber Eatsと個人事業主として契約を結ぶので、賃金は固定給ではなく歩合制の報酬という形が取られています。その内訳は、20年ごろまでは飲食店の料理を受け取った時点でカウントされる『受け取り料金』、客に渡した時点でカウントされる『受け渡し料金』、1km毎の配達距離で加算される『距離料金』があり、そこからUber Eats側の手数料10%を差し引いた額が1件分の報酬。だいたい1件の配達で500円~650円ぐらいが相場になっていました。
しかし21年5月ごろから新たな料金体系が導入され、『基本金額』と『配達調整金額』、そして人気の配達エリアや需要が高い時間帯で配達した場合、1.1倍や1.4倍など一定の割合で増額する『ブースト』と呼ばれる仕組みを合わせた計算方式に置き換わっています。この改定により、現在は1件の配達で300円~350円ぐらいが相場になっているようです」(同)
1件の配達の相場も大きなポイントだが、問題は時給換算した場合の報酬額だろう。暇を持て余すことなくテンポよく配達件数をこなせるかどうかも重要になってくるはずだ。最盛期で需要が高かった頃は、配達を多くこなすことで時給換算2000円前後を得る配達員もいたようだが、SNS上には時給が600円くらいにまで下がっているとの声もみられる。
「現在、Uber Eats配達員の報酬の内訳は未公開なので、平均値を出すのは非常に困難なのですが、SNS上などでUber Eats配達員と思われる方たちが日々の売り上げを報告していたりするので、それらを観察すると概ね時給の平均は800円前後と思われます。
Uber Eatsは配達員に対してこれまで何度も基本料金の引き下げを行っており、労働者組合と衝突する事態を引き起こしています。19年には『距離料金』を150円から60円に引き下げたほか、21年には『距離料金』をどんなに走っても一律300円にすると発表し、配達員たちから強い反発を受けた過去がありました。それに加えて、需要低下で注文が減ってきている現状を踏まえると、時給換算で600円前後になってしまうというケースも決して少なくないでしょうね。
もちろん日々の配達件数や諸条件で変動はありますが、いずれにしても現在の東京都の最低賃金である1072円を大きく下回っていると考えられますので、決して儲かる仕事とはいえないでしょう」(同)
自分のライフスタイルに合わせて自由に働けるというメリットもあるだろうが、時給換算800円程度、悪いときでは時給換算600円程度しか稼げないとなると、そのデメリットの大きさを看過することはできないだろう。では、今後Uber Eatsの配達員として食べていくのは厳しくなっていくのだろうか。
「Uber Eats配達員で生計を立てていくのは厳しくなっていく可能性は十分あり、不安は大きいでしょう。需要低下で今後、Uber Eats側が報酬額の設定をまた改悪するかもしれませんので、油断はできません。ですが、Uber EatsはEatsと銘打ちながらも、近年のフード注文需要の低下を受けて、コンビニやスーパーの日用品や雑貨も取り扱うようになっています。飲食店と違って日用品であれば価格の高騰の影響も受けづらいので、フードデリバリー以外の消費者のニーズが高まれば、また報酬も高くなってくるかもしれません」(同)
新型コロナウイルスの流行が追い風となってブームになったからこそ、コロナ禍が落ち着いてきた今、サービスの真価を問われているのかもしれない。