石油元売り「最高益ラッシュ」の正体…ガソリン高騰で元売りが儲かるカラクリ

●この記事のポイント
ENEOS・出光興産・コスモエネルギーHDの2026年3月期は軒並み大幅増益、INPEXも自社株買い1400億円を発表するなど絶好調に見える。だがその実態は原油高による「在庫評価益」という会計要因が中心で、ガソリン需要自体は減少基調。補助金制度や川上・川下の構造差、SAF・水素へのシフト戦略まで数字で読み解く。
2026年8月現在、日本のガソリン価格は全国平均で170円前後の高値圏にあり、家計や物流業界からは悲鳴が上がり続けている。ところがその一方で、石油元売り各社の決算は軒並み好調だ。
2026年3月期の連結決算を見ると、業界最大手のENEOSホールディングスは純利益が前期比14.4%増の2587億円、出光興産は同65.2%増の1719億円、コスモエネルギーホールディングス(HD)は同28.4%増の740億円と、いずれも大幅増益で着地した。ENEOSは2027年3月期についても、JX金属株式の売却益を織り込み、前期比60.4%増の4150億円という強気の予想を発表している。
石油・天然ガス開発を手がけるINPEXも負けていない。2026年12月期上半期の純利益は前年同期比17.7%増の2631億円と、上半期として過去最高を更新。通期予想も5100億円(前期比29.5%増)へ上方修正したうえ、上限1400億円(発行済み株式総数の4.3%)の自社株買いと増配を同時に打ち出した。
生活者がガソリン代の高さに苦しむ中、「なぜ石油企業だけがこれほど儲かっているのか」「この好業績は本当に実力によるものなのか」——そう感じる読者は少なくないはずだ。この違和感の正体を、決算の仕組みと業界構造の両面から読み解いていく。
●目次
- 好決算の正体は「在庫評価益」という会計上の特殊要因
- ガソリン価格が下がらないのに元売りが儲かる理由
- 川上のINPEXと川下の元売り3強、原油高の意味は違う
- 元売り3強、脱ガソリン依存の生き残り戦略
- 投資家・生活者はどこを見ればよいか
- 数字の裏側と構造変化を見極める
好決算の正体は「在庫評価益」という会計上の特殊要因
からくりの中心にあるのが、「在庫評価益」と呼ばれる会計上の効果だ。石油元売り各社は、原油や石油製品の在庫を主に総平均法などで評価しているため、原油価格が上昇する局面では、過去の安い時期に仕入れた在庫の帳簿価額が実質的に切り上がり、売上原価が抑えられる形で利益が押し上げられる。実際、ENEOSの2026年3月期決算でも、石油製品ほかセグメントの営業利益は前年同期比3431億円増の2924億円となったが、このうち在庫影響を除いた実質的な営業利益は3002億円で、在庫要因が業績のブレの主因であることが決算資料自体からも読み取れる。
背景にあるのは、中東情勢の緊迫化による原油調達コストの上昇だ。原油高が製品価格に強く反映されたことで、各社の収益改善に直結した。裏を返せば、これは「ガソリンがたくさん売れたから儲かった」という単純な話ではない。実際、国内の石油製品需要は自動車の低燃費化などを背景に構造的な減少局面にあり、ENEOSの販売数量も国内向けは伸び悩んでいる。
この構造は諸刃の剣でもある。原油価格が下落局面に転じれば、積み上がった評価益は一転して「在庫評価損」となり、本業の採算が堅調であっても決算上は大幅減益・赤字転落となり得る。実際、出光興産は2027年3月期から国際会計基準(IFRS)に移行したうえで、純利益予想を750億円と、2026年3月期実績(1719億円)から大幅に切り下げて開示した。原油価格が段階的に下落するとの前提に立てば、在庫評価益が剥落するためだ。コスモエネルギーHDも同様に、原油安を見込んで減益を想定している。エネルギー業界の決算分析に携わるアナリストは、次のように指摘する。
「石油元売りの決算を見るときは、純利益や営業利益といった表面上の数字だけでなく、在庫評価損益を除いた実質ベースの利益を必ず確認すべきだ。在庫評価益は原油価格の変動に応じて増減する会計上の振れ幅であり、事業そのものの競争力を示す指標ではない」(エネルギー政策研究家・佐伯俊也氏)
ガソリン価格が下がらないのに元売りが儲かる理由
もう一つ押さえておきたいのが、価格抑制策とのねじれだ。長年ガソリン価格に上乗せされてきた「当分の間税率(旧暫定税率、25.1円/L)」は2025年12月末に、軽油引取税の同税率(17.1円/L)も2026年4月に、それぞれ廃止された。これに加えて、中東情勢の急変を受けた「緊急的激変緩和措置」が現在も継続しており、政府は基準価格(当初170円)を超えた分の全額補助に加え、代替調達コスト分の「調整単価」を月次で上乗せする形で価格急騰を抑えている。この補助金は元売り各社に交付される仕組みであり、店頭価格の急騰を防ぎながらも、原油高局面では元売り側の精製・販売マージンが確保されやすい構造になっている。
もっとも、この基金の原資には限りがある。財源には2026年6月の補正予算で新設された「中東情勢等対応予備費」などが充てられているが、政府は2026年9月をめどに目安価格を170円から175円へ引き上げる見直し案を検討中とされ、実施されれば実質的な補助は縮小に向かう。加えて、自動車の燃費向上や人口減少、EVシフトにより、国内の石油製品需要そのものは長期的な縮小トレンドにある。短期的に高収益が続いても、市場縮小という構造問題は解決されていない。
川上のINPEXと川下の元売り3強、原油高の意味は違う
同じ「原油高」という追い風でも、上流(資源開発)と下流(精製・販売)とでは意味合いがまったく異なる。INPEXのような資源開発企業にとって、原油価格の上昇は販売価格の上昇を通じてほぼそのまま増益に直結する、いわば「実質的な追い風」だ。これに対し、ENEOSや出光興産、コスモエネルギーHDのような川下企業の増益は、前述の通り在庫評価益による「会計上のかさ上げ」の性格が強く、原油安局面では逆回転するリスクを抱えている。
INPEXが1400億円もの自社株買いに踏み切った背景には、資本市場からの評価に対する危機感がある。上田隆之社長は決算説明会で、原油価格の上昇局面にもかかわらず株価がむしろ下落していることに触れ、「成長戦略が頓挫したわけでもないのに、これは割安ではないか」との認識を示した。世界的なESG・脱炭素圧力にさらされる化石燃料企業として、有望な再生可能エネルギー投資先を急拡大させることが容易ではないなか、手元資金を資本効率(ROE)の改善と株主還元に振り向ける経営判断とも読み取れる。
元売り3強、脱ガソリン依存の生き残り戦略
需要縮小を見据え、元売り各社は「非石油事業」の育成を急いでいる。象徴的なのが持続可能な航空燃料(SAF)だ。コスモエネルギーHDは堺製油所で国内初となる国産SAFの大規模生産をすでに開始し、坂出物流基地への投資判断も控える。出光興産は徳山事業所で2026〜28年にかけて建設を進め、2030年に50万キロリットルの供給体制を目指す。業界最大手のENEOSは和歌山製造所で40万キロリットル規模の投資を計画し、三菱商事との連携やe-SAF(合成燃料)開発でも先行する。このほか、出光興産は全固体電池材料などの高機能材分野、コスモエネルギーHDは風力発電を中心とする再生可能エネルギー事業にも力を入れており、各社の戦略には明確な色分けが見られる。
「石油元売りにとって規模の大きさで競う時代は終わりつつある。今後は非石油事業でどれだけ利益率の高い事業ポートフォリオを組めるかという、質的な競争のフェーズに入っている」(同)
投資家・生活者はどこを見ればよいか
個人投資家がこれらの銘柄を検討する際は、単年度の純利益や増益率の派手さに引っ張られず、少なくとも次の3点を確認したい。第一に、各社が決算資料で開示する「在庫影響を除いた実質利益」の推移。第二に、来期以降の業績予想の前提となっている原油価格シナリオが、上昇・横ばい・下落のいずれを想定しているか。第三に、非石油事業(SAF・水素・再エネ・高機能材など)の売上・利益に占める比率がどのように変化しているかである。ROEやPBRといった資本効率指標も、株主還元の背景を理解するうえで参考になる。
一方、ガソリンや軽油を日常的に使う生活者にとっては、暫定税率の廃止や補助金の動向が店頭価格に直結する。補助金の原資となる予備費には限りがあり、政府が9月をめどに基準価格の見直しを検討していることを踏まえると、中東情勢が落ち着かない限り、当面は「税は下がったが原油高で相殺される」という状態が続く可能性がある。制度と市況の両方を分けて見る視点が、家計防衛の面でも有効だろう。
数字の裏側と構造変化を見極める
石油・エネルギー各社の好決算を「実力による絶好調」とだけ捉えるのは早計だ。表面上の純利益の背後には、原油価格の変動によって振れる在庫評価損益という会計上の特殊要因が大きく作用しており、除在庫ベースの実質利益や、川上・川下という事業構造の違いを見極める視点が欠かせない。
今後の焦点は、原油高・補助金による「利益の追い風」が吹いている間に、各社がどれだけ迅速にSAFや水素、再生可能エネルギーといった次世代事業へ投資を振り向けられるかにある。需要縮小という長期トレンドは変わらない以上、次世代事業へのシフトが遅れれば、いずれ「見せかけの好決算」は市場からの厳しい評価に転じかねない。エネルギー各社にとっての本当の生存競争は、これからが本番といえるだろう。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=佐伯俊也/エネルギー政策研究家)
※本文中の決算数値は2026年5月・8月時点の各社開示資料および報道に基づく。ガソリン補助金・税制の運用は2026年8月時点の情報であり、今後変更される可能性がある。











