2019年の夏、日本を席巻した「タピオカドリンク」。熱狂的なブームから2年が経った今、タピオカはある意味で根付いたが、コロナ禍ということも影響してか、シャッターをおろす店も増えている。
では、タピオカに代わる新たなトレンドスイーツは現れるのだろうか。令和3年の「ポストタピオカ」を予想する。
チーズティーやバナナジュースが失速した理由
19年に巻き起こったタピオカブームを牽引していたのは、10~20代の女性たちだ。当時、彼女たちがタピオカに飛びついていた理由はなんだったのだろうか。
「ひとつは、タピオカのビジュアルやお店のロゴや内装などが凝っていてデザイン性が高く、いわゆる『SNS映え』が狙えたところでしょう。しかし、最大の理由はやはり『おいしいから』だと思います。実は、若者は味にシビアなんです。おいしくなければ、リピートしようとか友だちに勧めようとは思わないでしょうからね」
そう語るのは、YouTubeやツイッターなど数多くのSNSでグルメ情報を発信し、各種SNSの総フォロワー数が14万人を超える「へんてこグルメガイド」の運営者・矢崎智也氏だ。
「タピオカ専門店は設備投資も少なくて済みますし、オペレーションも簡単なので、飲食店のなかでも開業しやすいんです。そのため、ブームのときには爆発的に店が増え、業界が賑わいました」(矢崎氏)
こうしてタピオカ店が街中にあふれた後、次にブレイクするであろう「ポストタピオカ」と呼ばれる存在が次々に生まれた。「チーズティー」や「バナナジュース」が代表例だ。
「どちらもタピオカ専門店同様に出店しやすいですし、SNSで目を引く容器や内装などもつくれたはず。しかし、タピオカほどの人気は得られませんでした。その理由は、2つあると思います」(同)
ひとつ目は、軽食代わりにできないという点だ。
「タピオカドリンクは、好みの飲み物にタピオカをトッピングした商品です。タピオカの原料はイモの一種なので、意外と腹持ちします。一方、腹持ちするトッピングもなく、飲み物オンリーのチーズティーやバナナジュースでは、小腹を満たす役割は担えません」(同)
2つ目の理由は、味のバリエーションの豊富さだ。
「タピオカドリンクは定番の甘いミルクティー以外にも、フルーツ系飲料、烏龍茶やほうじ茶など、甘い飲み物以外でも楽しむことができます。こうした幅の広さは、男性や中高年層からも愛される理由といえるでしょう」(同)
メインターゲットである若い女性以外にも刺さったことで、タピオカは驚異的に大ヒットしたのである。
“ポストタピオカ”の本命スイーツとは
「味良し、見た目良し、種類も豊富」と三拍子揃ったスイーツは消費者が手に取りやすく、SNSに投稿もしてくれる。広告費をかけずとも自然と広まっていき、トレンドになっていくわけだ。そうして街中に店舗が増えることで、SNSをチェックしない人にもブームを実感してもらうことができる。
タピオカ専門店のように開業のハードルが低ければ、誰でも店を構えやすく、業界全体が賑わいやすい。こうした要素をすべて含んでいたことも、タピオカが大ヒットした理由として考えられるだろう。
では、タピオカブームが落ち着いた今、「ポストタピオカ」と呼べる次世代スイーツは登場するのだろうか。
「ポストタピオカの本命は『マリトッツォ』というイタリアの伝統的なスイーツです。ブリオッシュ生地の丸いパンに切れ込みを入れ、そこにあふれんばかりの生クリームとイチゴやオレンジなどの果物をトッピングするのですが、クリームや果物を変えることで豊富なラインナップを実現できます。出店しやすいという条件もクリアしているので、全国各地に専門店が増えていますし、『STARBUCKS RESERVE』や『DEAN & DELUCA』(期間限定)など、マリトッツォの取り扱いを始めたチェーン店も多いです」(同)
サンドされた大量の生クリームの側面に果物やチョコレートが飾られた光景は、SNS映えも文句なし。味についても、抹茶やあんこのほか、ロイヤルミルクティー、ラズベリーなど和洋のテイストが揃っているので、老若男女の心に刺さるはずだ。
「グーグルトレンドを見ると、マリトッツォは今年に入ってから一気に検索数が伸びています。コロナ禍の今はテイクアウトできるスイーツが人気で、マリトッツォはテイクアウト需要も満たしているため、注目を集めているのではないでしょうか」(同)
マリトッツォの対抗スイーツは意外な“野菜”
タピオカが持っていたブレイクの条件を満たしている上に、時流にも合っているマリトッツォ。ポストタピオカの本命にふさわしいが、対抗のスイーツはないのだろうか。
「マリトッツォに対抗できるポストタピオカスイーツというと、『焼き芋スイーツ』でしょうか。なかでも、焼き芋にアイスをのせた『焼き芋アイス』は見た目のインパクトが強く、SNS映えもします。焼き芋ならつくるのも簡単で、品種も豊富なので味のバリエーションも増やせます」(同)
実は、数年前から「品川やきいもテラス」という焼き芋のフェスが毎年開催されている(21年は新型コロナの影響で中止)。同フェスは非常に盛況で、各店の焼き芋が次々に売り切れるほどだったという。焼き芋自体が昔から日本人に馴染みのある食べ物なので、幅広い層に受け入れられやすいのだろう。
マリトッツォに負けず劣らず魅力が多い焼き芋スイーツだが、トレンドグルメとしての欠点がひとつだけあるという。
「焼き芋というと、やはり冬の食べ物というイメージが強いので、夏場は消費が落ち込む可能性があります。季節による煽りを受けやすい点を考慮し、ポストタピオカの本命はマリトッツォ、対抗は焼き芋スイーツとしました。とはいえ、今はあえて冷やして食べる焼き芋や焼き芋ドリンクなども登場してきています。今後の展開によっては、焼き芋スイーツが夏場でもヒットする可能性は大いにあると思いますよ」(同)
一方で、焼き芋スイーツにしかない魅力もある。
「さつまいもは野菜なので、健康的なイメージもあるでしょう。美容や健康にも良いというのは、女性に響くキーワードだと思います」(同)
現状ではマリトッツォがポストタピオカの本命としてトップを走っているが、食のトレンドは日々移り変わるもの。焼き芋スイーツが追い抜くかもしれないし、はたまた他のスイーツが現れ、台頭する可能性もある。いずれにせよ、あのタピオカのブームを超えるスイーツが現れるか否か。トレンドグルメ市場に注目だ。
(文=鶉野珠子/清談社)