前回に続き、今回も博物館の企画展を紹介しよう。今回のテーマは、おそらく誰もが一度はその名を聞いたことのある古生物「アンモナイト」だ。茨城県坂東市のミュージアムパーク茨城県自然博物館(以下、茨城博)で6月11日まで開催中の「アンモナイト・ワールド」をレポートする。
実はタコやイカの仲間だったアンモナイト
昔から、知名度のある古生物として「恐竜」「三葉虫」「アンモナイト」が挙げられることが多い。恐竜はもとより、三葉虫もアンモナイトも、その言葉から、なんとなく姿が想像できることだろう。アンモナイトについては、漠然と「ぐるぐると巻いた殻を持つ恐竜時代の海洋動物」と認識している方も多いのではないだろうか?
そもそも、アンモナイトとはどのような動物なのか? 簡単にいえば、タコやイカの絶滅した仲間だ。殻を持ち、その殻の内部はいくつもの部屋にわかれ、その部屋の内部の体液量を調整することで浮力を制御していたと考えられている(潜水艦の上昇・沈降と同じである)。
一見すると、巻貝やカタツムリなどの殻に似ているように見えるかもしれないが、「内部にいくつもの部屋がある」という点は、巻貝やカタツムリにはない特徴である。また、タコやイカのように多数の腕を持っていたと考えられてはいるが、これまでにそうした軟体部の化石は発見されていない。
「アンモナイト」という言葉は固有の種を指した名前ではなく、「アンモナイト類」というグループの名前である。ちょっと堅苦しい話をすると、アンモナイト類は「頭足類」というグループに属している。この頭足類というグループに、タコ類やイカ類、オウムガイ類などが属する。
少しややこしいが、この頭足類のなかに「アンモノイド類」というグループがあり、そのなかに「アンモナイト類」が分類される。アンモノイド類はしばしば“広義のアンモナイト類”とも呼ばれ、アンモノイド類のことを「アンモナイト類」と呼ぶことも多い。今回の企画展でも、「アンモノイド類=アンモナイト類」が採用されている。この記事でも、以降はこの見方を採用して話を進めよう。
古今東西のアンモナイトが世界から集結!
アンモナイト類は、とても大きいグループだ。その種数は1万種を超えるといわれている。この数がどれだけ大層かといえば、たとえば、みなさんがよくご存じの恐竜類がざっくりと約1000種である。つまり、アンモナイト類では恐竜類の10倍以上の種数が報告されているのだ。アンモナイト類は今から約4億年前に登場し、約6600万年前に大半の恐竜類とともに姿を消した。
今、茨城博にはそんな膨大なグループのなかから、古今東西のさまざまな標本がやってきている。
まず、目をひくのは、縦2m以上、横3m以上の空間に“敷き詰められた”アンモナイト群集の標本だ。ひとつのアンモナイトが数十cmほどの大きさがあるのに加え、多くがほぼ水平に近い角度で並んでいる。「マリン・セメンタリー」と呼ばれる化石群集で、大型のアンモナイトの殻を中心に構築された文字通りの「海の墓場」である。
『白亜紀の生物 上巻』 海では、アンモナイト類が大繁栄の時代を迎えます。 今回は、アンモナイト類をはじめとする無脊椎動物のために、たっぷり1章分もうけてあります。 北海道や淡路島から産する魅惑的なアンモナイトたちの姿を、存分にご堪能ください。 もちろん、恐竜やアンモナイト類以外の生物も多数紹介してあります。