秋篠宮家の長女、眞子さまとの結婚行事が延期になっている小室圭さんは、10歳のときに父親を自殺で亡くし、その1週間後には父方の祖父が、そして約1年後には父方の祖母も自ら命を絶ったと、「女性セブン」(3月21日号/小学館)で報じられた。
この報道が事実とすれば、祖父は長男を失った喪失体験によって、祖母は夫と長男を相次いで失った喪失体験によって憔悴し、心身ともに限界状況に陥って自ら死を選んだと考えられ、後追い自殺の可能性もある。
私の精神科医としての長年の臨床経験から申し上げると、家族や恋人を自殺で亡くした後、悲痛な喪失体験をなかなか乗り越えられず、自殺を防げなかったという罪悪感やあのときこうしていたら自殺に追い込まずにすんだのではないかという後悔から、うつ病になる方が少なくない。喪失体験に対する反応としてのうつ病なので、精神医学では「反応性うつ病」と呼ぶ。
一方、小室さんの父親は、仕事が多忙を極めたうえ経済問題を抱えたせいで弱ってしまったらしい。この経済問題は、息子の圭さんの教育費を捻出しなければならなかったことに加えて、妻の両親と一緒に住むための二世帯住宅を建てる計画もあったことによって深刻化したようなので、やはり「反応性うつ病」を患っていたのではないか。
うつ病は、生まれながらの素質の比重が大きい「内因性うつ病」と環境やライフイベントなどの外的要因の比重が大きい「反応性うつ病」に大別される。もっとも、素質と外的要因のどちらか一方だけで発病するわけではない。たいてい両者の相互作用によって発病するのであり、どちらが大きく影響しているかというだけの話である。
また、自殺する前に本人が精神科を受診してうつ病と診断されたわけではなくても、うつ状態になっていたことは十分考えられる。というのも、WHO(世界保健機関)が刊行した「自殺予防 -カウンセラーのための手引き」によれば、「自殺により命を絶つ人の 90%は精神疾患をもち、60%がそのときにうつ状態であったと推定されている」からだ(注)。
自殺の家族歴
以上のことから、小室さんの父親も祖父母も少なくともうつ状態だった可能性が高い。この点で、小室さんは自殺の家族歴を抱えているといえる。なぜならば、WHOは、先ほど紹介した文書の中で、「全ての自殺が遺伝と関連しているわけではなく、遺伝性を決定付けるような研究にも但し書きがある」として「自殺は遺伝する」という俗説を正しながらも、同時に「しかしながら自殺の家族歴は、特にうつ病が多発する家族においては自殺行動の重要な危険因子のひとつとなる」と述べているからである。
自殺の家族歴は、精神医学では喪失体験や苦痛な体験、経済問題や精神疾患などと並んで自殺の危険因子(自殺につながりやすい因子)とみなされる。しかも、小室さんの場合、司法試験に合格できないとか、破談になるという喪失体験に直面する可能性がまったくないわけではない。そのため、自殺の防御因子(自殺を防ぐ因子)を人一倍増やすことを心がけるべきだろう。
防御因子になるのは、良好な対人関係、支援してくれる人の存在、信頼できる人に相談できることなどである。小室さんがニューヨークで困ったことがあったら相談できる良き友人に恵まれ、支援を受けられるよう、切に願う。
(文=片田珠美/精神科医)
(注)もっとも、「自殺企図者や既遂者は、すべて精神疾患を患っている」という俗説は誤りであるとして、WHOは「自殺予防 -カウンセラーのための手引き」の中で次のように述べている。
「自殺行動は、破壊的行動、攻撃的行動に加えて、うつ病や物質乱用、統合失調症や他の精神疾患と関連付けられている。しかしながら、この関連性は過度に評価されるべきではない。これらのそれぞれの精神疾患の相対比率は場所ごとに多様性があり、精神疾患が明白でない事例もある」
参考文献
WHO 「自殺予防 -カウンセラーのための手引き」河西千秋・平安良雄監訳、横浜市立大学医学部精神医学教室、2007年