殻に円い孔の空いたアンモナイト標本も展示されている。面白いのは、その孔が「V字型」に並んでいるものがあること。これは、V字型の吻部をもつ海棲爬虫類の歯型ではないか、とみられている。すぐそばに、その海棲爬虫類の頭骨模型が展示されているのもわかりやすい。もっとも、この孔については、必ずしも海棲爬虫類の仕業と特定されているわけではない(このあたり、展示でも解説されている)。
個人的に秀逸だと思った演出は、出口間際の「大量絶滅」に関する展示。有名な6600万年前の大量絶滅に関して「何が起きていたのか」を「椅子取りゲーム」で解説している。これは、教科書や図鑑などの制作に携わる人々に、ぜひご覧いただきたい展示だ。
筆者が相田氏に「マニアックでいいので、個人的なこだわりを教えてください」と尋ねたところ、相田氏はニヤリと笑って「最大・最小・最古・最新をそろえることができたことです」と答えてくれた。
企画展の入り口に「世界最大のアンモナイト」として直径2mの標本が展示されている。その迫力は、まさに「圧巻」といえるだろう。「最小」はというと、顕微鏡サイズの「幼殻」がある。また、岩手県から見つかった「日本最古のアンモナイト」があり、そして、北海道から見つかった「日本最新」すなわち「絶滅直前のアンモナイト」がある(こちらは異常巻きだ)。会場内に点在しているので、訪問の際にはぜひ、チェックされたい。
また、古生物に興味のある方は、会場入り口にいきなり肉食恐竜の化石が展示されていることに違和感を抱くかもしれない。海の動物である「アンモナイト」をテーマとしているのに、海棲動物ならいざ知らず、なぜ陸の動物である「恐竜」がいるのか、と。
実は、ここにも博物館側の思惑がある。会場を出たら、入り口近くのエレベーターで2階へ。2階に着いたら右へ進んでみよう。そこはガラス張りとなっており、マリン・セメンタリーが展示されている空間を見ることができる。視線は、ちょうど飛行する翼竜の高さだ。ガラス張りの足元を見ると、そこに恐竜がいる。つまり、その場から会場を見下ろすと、恐竜時代の“海岸空間”が再現されているのだ。
茨城博の名物「動くティラノサウルス」
さて、2階に上がったら、そのまま常設展示コーナーに足を運びたい。茨城博といえば、知る人ぞ知る「動くティラノサウルス(Tyrannosaurus)」の展示だ。1994年の開館以来の名物といえる。
この名物が、今年3月にリニューアルされた。今、“流行の”羽毛を生やしたティラノサウルスの成体と幼体が復元されており、トリケラトプス(Triceratops)と対峙している。報道などでは、この“羽毛ティラノ”が注目されることが多いが、担当学芸員の加藤太一氏に話を聞いたところ、「植物や哺乳類もお見逃しなく」と返ってきた。
展示の奥に湖があり、実はその湖からの距離に基づいた植生が反映されている。モクレンの花があるのは、恐竜時代にすでに被子植物が繁栄していたことを物語るものだ。展示をよく見ると、数種類の哺乳類がいることに気づく。これは主として21世紀になってからの知見に基づくもので、ティラノサウルスのいた時代、すでに哺乳類の繁栄もあったことを物語っている。
『白亜紀の生物 上巻』 海では、アンモナイト類が大繁栄の時代を迎えます。 今回は、アンモナイト類をはじめとする無脊椎動物のために、たっぷり1章分もうけてあります。 北海道や淡路島から産する魅惑的なアンモナイトたちの姿を、存分にご堪能ください。 もちろん、恐竜やアンモナイト類以外の生物も多数紹介してあります。