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大量供給なのに賃料高騰の謎…東京・大阪のオフィスが示す、日本経済の”地殻変動”

2026.05.25 05:55 2026.05.24 23:38 経済
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=秋田智樹/不動産ジャーナリスト

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●この記事のポイント
大阪のオフィス平均賃料が2026年3月に、調査開始以来最大の上昇幅を記録。東京都心も26カ月連続上昇。大量供給下でも賃料が上昇する背景に、建設コスト高騰・Flight to Quality・人材獲得競争を分析。地方都市との二極化リスクにも迫る。

 4月9日、オフィス仲介大手の三鬼商事が発表したデータは、不動産市場関係者に強い印象を残した。同社が発表した3月の大阪市中心部のオフィスビル平均賃料は坪1万3069円で、前月比175円(1.36%)上昇し、調査開始以来最大の上昇幅を記録した。梅田地区に限れば前月比1.84%上昇の坪1万7755円と、さらに際立つ水準だ。

 4月時点では空室率も3.09%と、4カ月連続で低下が続いており、市場の逼迫感は数字にも明確に表れている。一方、東京都心5区では2026年3月時点の平均賃料が坪2万2302円と、26カ月連続で上昇を更新した。

 ここに一つの”パラドックス”がある。梅田・うめきた2期をはじめ、大阪では大規模オフィスビルの新設が相次いだ。通常であれば、供給増は価格を押し下げる。それがなぜ、こうも鮮明な賃料上昇として現れているのか。

●目次

「供給増=価格下落」という常識が崩れた理由

 背景には、需給を単純に量で捉えることのできない、構造的な変化がある。

コスト高騰による「床の値下げ限界」

 三鬼商事の小畑大太・大阪支店長は「オフィスの建設価格が高騰している。新規供給量は限定的な状態が続き、賃料が下がる要素は見当たらない」と説明する。資材価格の高止まりと建設労働者の慢性的な不足により、新築ビルの建設コストは過去10年で大幅に上昇した。デベロッパー側も採算ラインを維持するために、かつてのような値引き競争には応じにくい状況にある。

“量”より”質”を求める企業の行動変容(Flight to Quality)

 ハイブリッドワークが定着した今、企業にとってオフィスの意味は根本的に変わった。「社員が毎日通う場所」から「優秀な人材を引き寄せ、チームの創造性を高める場所」へと、その役割が再定義されつつある。人材獲得競争が激しくなる中で、採用を有利に進めるためにも、大阪市中心部の最新鋭ビルにオフィスを移す企業の動きが賃料の上昇圧力になっている。

 こうした動きは個別企業の行動にも具体的に現れている。クボタは本社移転の理由について「建築コストが高騰し、大型オフィスが供給されるタイミングという点も決め手になった」と説明しており、老朽化した複数のビルを集約する形で最新拠点へ移転した。

 ESG(環境・社会・ガバナンス)対応や耐震・BCP性能への要求が加わり、新築プレミアムビルに需要が集中する一方で、築古・旧耐震基準の既存ビルからは入居者が抜けていく「玉突き移転」が市場全体の平均賃料を押し上げているのだ。

関西固有の需要:万博・IR・インバウンドの相乗効果

 2025年大阪・関西万博の開催がもたらした経済的な波及効果、そしてその先に見据えられるIR(統合型リゾート)関連の需要は、関西圏への企業進出・移転を後押しした。インバウンド需要の本格回復に伴うホテル・観光・サービス業の拡大、DX推進を背景にしたIT企業の拠点開設など、複数の成長ドライバーが重なったことが大阪の独自性を際立たせている。

東京と大阪――何が同じで、何が違うのか

 今回の賃料上昇を「東京トレンドの遅れた模倣」と捉えるのは正確ではない。

 東京市場を牽引するのは、外資系企業や大手ITプラットフォーマー、旺盛なスタートアップの移転需要だ。麻布台ヒルズや渋谷エリアといった特定の「超高額物件」がけん引役となり、平均を引き上げる構図が続いている。

 これに対し大阪は、国内大手企業の拠点集約が中心的な需要源となっており、梅田・淀屋橋・本町といった伝統的な中心地での再開発とともに、関西全体の経済構造転換(製造業中心からサービス・IT・観光を含めた多角化)が需要の底上げに貢献している点が特徴的だ。グレードAオフィスに限れば、コリアーズ・ジャパンの調査では2025年第2四半期の梅田エリアの空室率は1.1%と極めて低い水準を維持しており、賃料も前期比2.7%上昇の坪1万6200円を記録している。

「大阪市場の特徴は、投機資金だけでなく、実業需要が賃料を支えている点にあります。東京の一部エリアのような金融マネー主導ではなく、国内企業の本社集約や事業再編が背景にあるため、市場変動耐性は比較的高い。特に関西では製造業本社の再編が進み、オフィスが“経営統合の器”として機能していることが重要です。コロナ禍では“オフィス不要論”も広がりましたが、実際には企業はオフィスを捨てなかった。むしろ“選別”が起きた。立地や設備が優れたオフィスへの集中が進み、逆に競争力を失った築古ビルとの差が拡大しています。これは単なる景気循環ではなく、オフィス市場の構造変化です」」(不動産ジャーナリスト・秋田智樹氏)

この波は全国へ波及するのか、それとも「二極化」か

 では今後、この上昇はどこまで広がるのか。二つのシナリオが対峙する。

シナリオA:地方中枢都市への波及

 国土交通省「主要都市の高度利用地地価動向報告」(2025年6月発表)によると、全国すべてのオフィス街で地価の上昇が1年以上にわたって続いている。名古屋では2026年4月時点で空室率3.61%(前月比▼0.21ポイント)、賃料も前月比プラスで推移している。人手不足が深刻な地方都市ほど、採用力強化のために「一等地の上質なオフィス」への移転需要が高まるという構造は、東京・大阪と本質的に同じだ。

シナリオB:大都市圏限定の容赦ない二極化

 一方、同じ「再開発」という文脈でも、市場の実態は都市によって大きく異なる。福岡市では「天神ビッグバン」などの政策的再開発が進む一方で、大規模オフィスの空室率が2026年に9.8%へと急上昇するという民間予測がある。前例のない大量供給が需要を一時的に上回るリスクを抱えており、企業誘致の成否が市場の行方を左右する局面だ。

 日本不動産研究所と三鬼商事の共同研究による予測では、東京市場は2026〜2027年に新規供給が少なく、空室率は低下を続け、賃料は前年比3%前後の上昇が継続する見通しだ。大阪も2026年以降は新規供給が限られ、空室率は2027年に2.3%まで低下し、賃料は前年比2%前後の上昇が継続するとみられている。

 実態は「どちらか一方」ではなく、「モザイク状の二極化」が同時進行する可能性が高い。新築の高品質ビルが満室に近づく一方、地方や周辺部の築古ビルでは空室率が上昇し賃料は軟化するという「市場の分断」が、今後さらに鮮明になることが予想される。

「コスト」から「競争力」へ――オフィスの意味が変わる時代

 今オフィス市場で起きていることは、単なる不動産市況の好不況サイクルではない。企業が「どこで、どのような場所で仕事をするか」という問いに、真剣に向き合い始めた結果としての需給変化である。

 賃料を「削減すべきコスト」として捉えてきた発想から、「人材獲得・定着・生産性に直結する投資」として位置づける企業が増えている。その流れの中で、都市とオフィスの「質」が企業の競争力を左右する時代が到来しつつある。

 大阪の調査開始以来最大の上昇幅は、その地殻変動の一断面に過ぎない。自社のオフィス戦略が次の時代の文脈に即しているか——今一度、問い直すべきタイミングが来ている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=秋田智樹/不動産ジャーナリスト)

秋田智樹

秋田智樹/不動産ジャーナリスト

1965年生まれ。国内大手ゼネコンを経てマンション、戸建てから大規模施設の企画・立案から関与し、詳細なデータに基づき分析も行う。

公開:2026.05.25 05:55