東京オフィス市場「供給23%減」の衝撃…空室率5%未満で賃料上昇圧力強まる

●この記事のポイント
森トラストの調査によると、東京23区の大規模オフィス供給は2026〜2030年で年平均87万㎡と過去20年平均(106万㎡)比23%減。特に2027年54万㎡、2028年71万㎡と「供給の谷」が発生し、空室率5%未満の逼迫環境下で賃料上昇圧力が強まる。超大規模ビル偏重や都心3区への供給集中により、中規模不足とエリア格差も拡大する構造が明らかになった。
東京のオフィス市場が、かつてない局面を迎えようとしている。森トラスト株式会社が2026年4月に発表した最新の「東京23区の大規模オフィスビル供給動向調査」によれば、今後5年間(2026〜2030年)の供給量は年平均で約87万㎡にとどまることが明らかになった。これは過去20年間の年間平均(106万㎡)の約77%という水準だ。
特に2028年の供給件数はわずか7件と、過去最低水準にまで落ち込むことが予測されている。空室率が5%を下回り「供給不足」の状態が常態化している現在、このデータが示すのは、一時的な需給のズレではない。東京という都市が抱える「構造的なオフィス不足」の本格化である。
すでにAクラスビルの賃料は高止まりを見せているが、2027年から2028年にかけて訪れる「供給の谷」において、賃料相場はどこまで押し上げられるのか。本稿では、最新データに基づき、企業のオフィス戦略を左右する「確定した未来」を読み解いていく。
●目次
- 「過去20年平均の77%」という数字の重み
- 2027〜2028年に来る「供給の谷」
- 「超大規模ビル偏重」が中堅企業を直撃する
- 「都心3区」への一極集中とエリア格差の拡大
- 見落とされがちな「中規模ビル不足」の深刻さ
- 賃料はどこまで上がるのか
- 企業が今すべきこと——「待ち」は最悪の戦略
「過去20年平均の77%」という数字の重み
2025年の供給量は約113万㎡と、前年比で76%増となる見込みだ。これだけを見れば、オフィス供給は順調に回復しているように映るかもしれない。しかし、視点を中長期に向けると景色は一変する。
森トラストの調査によれば、2026年から2030年までの5年間の総供給量は435万㎡。年平均に換算すると87万㎡となり、これは過去20年の平均値(106万㎡)を23%も下回る。
「2025年の大量供給でオフィス余剰が起きる」という一部の予測は、数字の上で明確に否定されたといえる。むしろ、2025年は「嵐の前の静けさ」ならぬ「枯渇前の最後のまとまった供給」に近い。現在のビル不足は、コロナ禍後の出社回帰による一時的な現象ではなく、今後5年にわたって続く構造的な問題であることがデータによって証明された形だ。
2027〜2028年に来る「供給の谷」
より深刻なのは、供給の「時期的な偏り」である。 2026年(112万㎡)と2029年(111万㎡)は100万㎡を超える供給が予定されているが、その間に挟まれた2027年は54万㎡、2028年は71万㎡と激減する。
この「供給の谷」こそが、最も需給が逼迫する危険地帯となる。
「2027年から2028年にかけては、竣工を予定しているプロジェクト自体が極めて少なく、選択肢が物理的に消失します。この時期に契約更改や移転時期が重なる企業は、貸主側(オーナー)の強気な条件を飲まざるを得ない『完全な貸主市場』に直面するでしょう。2025年から2026年の供給タイミングで動けるかどうかが、今後10年の固定費を左右する分岐点になります」(不動産アナリスト・伊藤健吾氏)
「超大規模ビル偏重」が中堅企業を直撃する
供給の「量」だけでなく「質」の変化も無視できない。2026〜2030年の供給において、延床面積20万㎡以上の「超大規模ビル」が占める割合は31%に達する。2000年代後半(2006〜2010年)にはわずか8%だったことを考えると、供給の巨大化がいかに加速しているかがわかる。
一方で、10万㎡未満のビル供給割合は、かつての63%から23%へと激減した。
これは何を意味するのか。外資系企業や国内大手企業が、Aグレードの大型フロアを竣工の数年前から「青田買い」で押さえてしまい、中堅・中小企業が適正なサイズで選べる物件が市場に出てこないという状況だ。中堅企業にとって、オフィス選びは「量的」にも「質的」にも、これまで以上に困難なものとなる。
「都心3区」への一極集中とエリア格差の拡大
エリア別の供給動向を見ると、さらに偏りが鮮明になる。今後5年の供給の約80%が都心3区(千代田・中央・港)に集中する。その中でも、具体的な集積エリアは「八重洲・日本橋・京橋」および「大手町・丸の内・有楽町」といった東京駅周辺の極めて限定的なゾーンに絞られている。
この結果、何が起きるのか。それは「勝ち組エリア」と「周辺エリア」の二極化だ。 都心3区外では新規供給がほとんどなく、既存ビルの老朽化が進む一方で、代替となる新築物件が現れない。企業の選択肢が狭まる中で、利便性の高い特定エリアへの需要集中が加速し、エリア間での賃料格差は過去最大級にまで広がる可能性が高い。
見落とされがちな「中規模ビル不足」の深刻さ
大規模ビルの陰に隠れて、より深刻な事態に陥っているのが「中規模ビル(延床面積5,000〜1万㎡未満)」の市場だ。
2026年の中規模ビル供給量は、わずか4.4万㎡と予測されている。これは過去10年の平均(9.8万㎡)の半分以下だ。 中堅企業の有力な移転候補となるこの規模帯において、これほど供給が絞り込まれるのは異例である。2027年には8.8万㎡まで回復する兆しがあるものの、2026年の一年間、中規模オフィス市場は「完全に枯渇」した状態に陥るだろう。
「中堅企業は、大企業のような巨額の移転予算を確保しにくい一方で、成長に伴う増床ニーズは高い。しかし、2026年にかけての中規模ビルの供給不足は、そうした成長企業の足を引っ張る要因になりかねません。築古ビルのリノベーション物件や、セットアップオフィス(内装付き)への転換など、新築にこだわらない柔軟な戦略が求められます」(同)
賃料はどこまで上がるのか
供給減に加え、オフィス市場には「三重苦」のコスト増が押し寄せている。
1.建設コストの増大: 資材高と人件費高騰により、新規ビルは高い賃料設定でないと採算が合わない。
2.管理運営費の維持: 電気代や清掃、警備などの維持管理費の上昇。
3.金利上昇リスク: 借入金利の上昇分を賃料に転嫁せざるを得ないオーナーの事情。
これらの要因は、オーナー側にとって賃料を引き上げる「合理的な根拠」となる。 これまで「高止まり」と言われてきた東京のオフィス賃料だが、森トラストの調査結果を鑑みれば、2027年の供給の谷に向けて「さらなる上昇」への圧力がかかることは避けられない。
ただし、無制限に上がり続けるわけではない。賃料が企業の負担能力を超えれば、地方への分散や、あるいは自社ビル取得、築古ビルのフルリノベーションといった「新築賃貸以外の選択肢」へ需要が逃げる。2028年以降は、こうした「脱・新築大規模ビル」の動きとのせめぎ合いによって、市場の均衡点が模索されることになるだろう。
企業が今すべきこと——「待ち」は最悪の戦略
本稿のデータが示す通り、2026年までの供給タイミングを逃せば、次の大きな供給波は2029年までやってこない。2027〜2028年の「空白の2年間」にオフィス戦略を立てようとしても、市場には選択肢がなく、高いコストを強いられるだけだ。
今、企業が取るべきアクションは明確である。
・早期の決断と長期契約: 2025〜2026年の供給物件をターゲットに、長期的な賃料固定を目指した契約交渉を行う。
・「周辺エリア」の再評価: 一極集中する東京駅周辺を避け、供給は少ないが賃料優位性のある周辺区の優良既存ビルを早期に押さえる。
・アセットマネジメントの視点: 賃貸にこだわらず、成長著しい企業であれば自社ビル取得や、リノベーション前提の物件取得も選択肢に入れる。
「もう少し様子を見れば賃料が下がるのではないか」という「待ち」の姿勢は、現在の供給データを見る限り、最もリスクの高い戦略だといわざるを得ない。
今回の森トラストの調査結果は、単なる予測ではない。建築確認や着工のタイミングを考えれば、2030年までの供給計画はほぼ「確定」したシナリオである。
東京のオフィス市場は、潤沢な供給によって流動性が担保されていた時代から、限られたプレミアムな空間を奪い合う「希少性の時代」へと移行した。この構造変化を理解し、データに基づいた先手のアクションを起こせるかどうかが、今後の企業の競争力を左右することになるだろう。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=伊藤健吾/不動産アナリスト)











