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東京でロボタクシー本格始動へ…ウーバー・日産vsウェイモ・トヨタの主導権争い

2026.08.19 06:00 2026.08.19 01:30 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=荻野博文/自動車アナリスト

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●この記事のポイント
2026年後半、東京でウーバー・日産・ウェイヴ・日の丸交通が自動運転タクシーの試験運行を始める。日産リーフにウェイヴのAI Driverを搭載し、日の丸交通が運行管理を担う体制だ。同時期に都心7区で展開するウェイモ・日本交通・GO陣営との「四つ巴」構図が、モビリティ産業の主導権争いを日本で本格化させる。

 米ウーバー・テクノロジーズとタクシー大手・日の丸交通(東京都文京区)は8月、日産自動車と英新興企業ウェイヴ・テクノロジーズが開発する自動運転タクシーについて、2026年後半に東京都内で試験運行を始めると正式発表した。今年3月に日産・ウェイヴ・ウーバーの3社が結んだ協業の覚書を土台に、実際の運行を担う主体として日の丸交通が加わり、体制がようやく固まった形だ。

 一方、東京の路上ではすでに2025年4月から、米ウェイモ・業界最大手の日本交通・配車アプリ大手GOの陣営が、都心7区でジャガー製の自動運転車両約25台を走らせている。ウェイモは2025年4月末にトヨタ自動車と、自動運転の新たな車両プラットフォーム開発を含む戦略的パートナーシップに合意しており、両社の協業は当面は個人所有車向け技術など米国市場が中心とみられるものの、将来的にトヨタの製造力・資本力がウェイモ陣営に加わる可能性も取り沙汰されている。

 つまり東京は今、「ウーバー・日産・ウェイヴ・日の丸交通」対「ウェイモ・日本交通・GO、そして将来的にはトヨタ」という、世界的に見ても異例の直接対決の舞台になりつつある。これは単なる自動運転技術の実証実験ではない。モビリティ産業の主導権を巡る争いが、日本という「世界で最も複雑な道路環境」の一つを舞台に、本格的に始まったサインだと捉えるべきだろう。

●目次

なぜ日産は自前主義を捨てたのか

 日産は長年、自動運転技術の自社開発にこだわってきたメーカーの一つだ。しかし今回の枠組みでは、車両の製造に専念する一方、自動運転の「頭脳」にあたるAIシステムは、英国の新興企業ウェイヴの「AI Driver」を採用した。ウェイヴの技術は、高精度地図(HDマップ)への依存を最小限にとどめ、カメラ映像を中心とした実世界の走行データからAIが学習し、未知の環境にも適応していく「エンドツーエンド型」の自動運転方式が特徴だ。新型「日産リーフ」をベースに、米エヌビディアの自動運転向けプラットフォーム「DRIVE Hyperion」を組み合わせた試作車は、2026年3月に公開されている。

 体制としては「車両(日産)×AI(ウェイヴ)×配車(ウーバー)×運行(日の丸交通)」という分業構造になっており、各社が得意領域に特化することで、開発コストと時間を分散させる狙いがうかがえる。自社単独では自動運転AIの開発競争で後れを取りかねないという判断を、外部連携によって一気に挽回しようとする戦略ともいえる。ウーバーにとっても今回は同社にとって初の自動運転タクシー事業であり、ロンドンを含む世界10都市以上への展開構想の中に、東京が組み込まれている格好だ。

 対するウェイモは、自社開発のセンサースイート(カメラ6台、レーダー、LiDARなど)を搭載したジャガー製EVを用い、米国主要都市で蓄積してきた走行データと安全性の実績をそのまま東京に持ち込む「垂直統合型」のアプローチを取る。ウェイモが公表する米国での実績によれば、人間ドライバーと比較して衝突回避性能が92%、物損事故が82%それぞれ改善したとされる。トヨタとの提携も加われば、自社技術に製造パートナーの生産力が乗る形になり、ウェイモ陣営の総合力はさらに増す可能性がある。

「エンドツーエンド型のAIは開発期間を大幅に圧縮できる半面、判断の根拠がブラックボックス化しやすいという課題がある。日本特有の狭い生活道路や変則的な交差点で、どこまで安全性を説明できるかが問われるだろう。一方のウェイモは十年以上かけて積み上げてきた走行データという実績で勝負できる強みがある」(自動車アナリスト・荻野博文氏)

運転手不足解決のカギは自動運転ではなく職種転換?

 自動運転タクシーへの期待が高まる背景には、日本のタクシー業界が直面する深刻な人手不足がある。業界関連の統計では、タクシー乗務員数は2019年比で約2割(約6万人)減少し、2023年時点で約23万人まで落ち込んだ。現役乗務員の平均年齢は60歳前後とされ、今後5〜10年で大量退職が見込まれる。2025年度のタクシー・ハイヤー事業者の廃業・倒産件数は102件と前年の1.6倍に増えており、需要はコロナ禍前の水準まで回復している一方で、供給力の低下がむしろ深刻化しているのが実情だ。

 こうした状況のなかで自動運転タクシーが目指すのは、「運転手をゼロにすること」というより、既存ドライバーの役割そのものを変えることだといえる。日の丸交通が担う運行体制では、当初は東京の交通事情を熟知した同社のベテラン乗務員が「セーフティドライバー」として同乗し、車両の挙動を監視しながら、AIの学習データを提供する役割も担う。将来的には、運転操作そのものよりも、車両の遠隔監視や異常時対応、車両基地でのオペレーション管理といった、いわば「モビリティエンジニア」的な業務へのシフトが想定される。

 日の丸交通は1950年創業、東京23区や武蔵野市・三鷹市を地盤とする老舗の大手グループだ。同社は2023年からUberの電気自動車フリート(テスラ・モデルYなど100台超)の運行実績を持ち、過去にはロボット開発企業ZMPとの提携で自動運転タクシーの実証実験にも参加している。業界最大手の日本交通がウェイモ陣営に加わる一方、日の丸交通は「ウーバー連合の運行拠点」という立ち位置を選び取った格好であり、規模で勝負するのではなく、運行ノウハウという専門性で存在感を示す戦略と読める。

「タクシー会社の生き残り戦略として、自ら車両を運転して収益を得るビジネスから、車両運用のノウハウそのものを外部プレーヤーに提供するビジネスへの転換は理にかなっている。セーフティドライバーの待遇や労働環境が改善されれば、人材確保の面でも好循環が生まれる可能性がある」(同)

勝つのは「完璧なAI」か「泥臭い現場の可動率」か

 ロボタクシー事業の採算性を左右する最大のボトルネックは、実はAIの技術的完成度以上に、地味な運用インフラにあるとの指摘は業界内で根強い。急速充電、センサーの清掃、悪天候時の対応、事故やトラブル発生時の現場急行――こうした「泥臭い」オペレーション能力こそが、車両を止めずに稼働させ続けられるかどうかを決め、最終的な事業の採算ラインを左右する。

 日本の道路運送法では、旅客の有償運送は国土交通大臣の許可を受けた事業者でなければ行えないと定められている。この規制構造により、ウーバーのようなプラットフォーム企業は単独で配車・運行事業を営むことができず、必ず認可を受けたタクシー事業者と組む必要がある。ウーバーが日の丸交通という認可事業者と密接に連携せざるを得ない背景には、こうした法的な必然性がある。逆に言えば、ウーバーの配車マッチング技術と日の丸交通の現場運行力を密結合させた陣営は、車両の「稼働率」という極めて実利的な指標で、ウェイモ・日本交通陣営を追い上げる余地を持つ。

 もっとも、ウェイモ陣営も日本交通という大手事業者を運行パートナーに据えており、現場の運用力そのものが劣っているわけではない。両陣営とも「認可事業者との連携」という同じ制約条件の中で戦っている点は共通しており、最終的な優劣は、AIそのものの完成度よりも、東京という複雑な道路環境でどれだけ安定して車両を稼働させ続けられるかという、地道な運用力の差によって決まる可能性が高い。

「東京の道路は幅員が狭く、路上駐車や自転車も多い。広い道路で磨き上げた米国仕込みのAIが、そのまま通用するとは限らない。むしろ日々の車両メンテナンスや緊急対応の体制構築の巧拙が、事業の実質的な優劣を分けるはずだ」(同)

タクシー業界の解体と再構築

 自動運転時代のタクシー会社は、「自ら車両を走らせて運賃を得る会社」から、「モビリティインフラの運用を代行する事業者」へと役割を変えつつある。日の丸交通がウーバー・日産・ウェイヴ連合の運行拠点として選ばれたことは、その転換を象徴する出来事だと言える。

 2026年後半に東京で始まる試験運行は、当面は限定的な規模でのスタートになる見通しだ。しかし成功すれば、人手不足に悩む日本の他地域や地方都市における交通インフラ再編の、決定的なプロトタイプになり得る。ウェイモ・日本交通・GO陣営との「四つ巴」の実証実験がどちらに軍配を上げるにせよ、その帰趨は、日本のタクシー業界全体の未来像を占う試金石となるだろう。今はまだ、両陣営とも安全性の検証段階にあり、どちらか一方の優劣を性急に断じることはできない。読者としては、今後発表される走行データや事故報告、そして実際に街なかを走る車両の姿を、冷静に見届けていく視点が求められる。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=荻野博文/自動車アナリスト)

【主な参照データ】
・Uber、ロボタクシー試験運行の運行パートナーとして、日の丸交通と合意(Uber Newsroom)
・Wayve、Uber、日産がロボタクシーでの協業を発表(日産ニュースルーム)
・Uber Partners with Hinomaru Kotsu for Robotaxi Pilot Deployment in Tokyo(Uber Investor Relations)
・東京で自動運転タクシー実現へ Waymoと日本交通、GOが車両テスト開始(Impress Watch)
・米Waymoの世界展開は東京から(EE Times Japan)
・トヨタとWaymo、自動運転の普及を加速する戦略的パートナーシップの枠組みに合意(トヨタ自動車)
・Uber Names Tokyo Robotaxi Operator: Japan’s Taxi Law Left It No Other Choice(Tech Times)
・日の丸自動車グループ(Wikipedia)
・タクシー業界の2026年問題(廃業・倒産件数、乗務員数の推移など)
 

荻野博文/自動車アナリスト

国内外の自動車メーカーで設計・デザインを研究。特に欧州の自動車市場に詳しい。海外の展示会場にも足を運び、現地で最新の情報を仕入れている。

公開:2026.08.19 06:00