ビジネスジャーナル > 企業ニュース > オニツカタイガー、営業利益率39.6%

オニツカタイガー、驚異の営業利益率39.6%…ナイキ苦戦の裏でアシックスは売上1兆円

2026.08.20 06:00 2026.08.19 23:38 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=高野輝・戦略コンサルタント
オニツカタイガー、驚異の営業利益率39.6%…ナイキ苦戦の裏でアシックスは売上1兆円の画像1
オニツカタイガー公式オンラインサイトより

●この記事のポイント
アシックスは2026年12月期の売上高予想を1兆500億円(前期比29.5%増)へ上方修正し創業以来初の1兆円突破、株価も上場来高値5389円を更新。子会社オニツカタイガーは営業利益率39.6%の高収益。対するナイキは直営店売上が6%減、CEO交代など苦戦継続。両社の明暗を分けた戦略を解説。

 スポーツ用品業界の勢力図に、これまでにない逆転劇が起きている。

 アシックスは8月14日、2026年12月期の連結業績予想を上方修正し、売上高が創業以来初めて1兆円の大台を突破する見通しになったと発表した。修正後の売上高予想は1兆500億円(前期比29.5%増)、営業利益は1950億円(同36.8%増)、純利益は1200億円(同21.6%増)。上期(1〜6月)だけで売上高5344億円(前年同期比32.7%増)、純利益821億円(同53.3%増)と、中間期として初めて売上高5000億円を超え、あらゆる指標が過去最高を更新した。発表を受けて株価は一時前日比10.81%高の5389円まで急伸し、5月につけた上場来高値(5149円)をさらに更新。年間配当も38円から44円へ引き上げられた。

 一方、長年スポーツ用品業界の絶対王者として君臨してきたナイキ(NIKE, Inc.)は苦しい状況が続く。2026年5月期通期の売上高は464億ドルで実質横ばい(為替影響を除くと2%減)、直営店・自社ECを中心とする「ダイレクト」部門の売上高は177億ドルと前期比6%減(為替影響を除くと8%減)にとどまった。2024年9月には当時のジョン・ドナホーCEOが退任し、生え抜きのエリオット・ヒル氏が同年10月にCEOへ復帰するという異例の経営体制刷新にも踏み切っている。ヒルCEOは「長期的な成長に向けて事業の土台を立て直しているところだ」と説明するが、本格回復にはなお時間がかかるとの見方が市場では根強い。

 かつてナイキの黎明期にシューズを供給していた「元祖」とも言える存在のアシックスが、なぜこのタイミングで本家を猛追し、過去最高の業績を叩き出せているのか。その背景には、業界を覆った共通の逆風のなかで明暗を分けた戦略の違いと、アシックスが育て上げた「高収益ブランド」の存在がある。

●目次

「D2C偏重」に泣いたナイキ、「現場主義」を貫いたアシックス

 ナイキは2020年前後から、卸売(小売店経由の販売)を絞り込み、自社ECや直営店に販売を寄せる「D2C(Direct to Consumer)拡大戦略」を強力に推進した。中間マージンを排し利益率を高める狙いだったが、結果としてスポーツ専門店の店頭からナイキ商品が減り、競合ブランドが空いた棚を奪う形となった。加えて、スニーカーカルチャーやファッション性を重視した商品展開に力を入れすぎたことで、レトロモデルの供給過多を招き、2025年夏以降は自社EC・アウトレットで最大50%引きに踏み切るなど値引き販売が常態化。東洋経済オンラインの報道によれば、この価格崩れは競合の追随も呼び、スニーカー専門店の既存店売上にも影響が及んだという。ランナー向けの機能性開発が相対的に後手に回ったとの指摘も業界内では根強い。

 対照的にアシックスは、いわゆる「ガチランナー」に照準を合わせた高機能シューズの開発にリソースを集中させてきた。厚底カーボンプレートシューズ「METASPEED」シリーズはトップアスリートから市民ランナーまで支持を広げ、モデルチェンジを重ねながら競技性能を磨き続けている。同時にスポーツ専門店との関係を維持・強化し、実際に走るユーザーとの接点を地道に守り続けたことが、ブランドへの信頼につながった。

 なお、ナイキ自身も無策だったわけではない。2026年5月期の卸売部門売上高は275億ドルと前期比6%増加しており、専門店との関係修復に着手している姿勢は見て取れる。ヒルCEOが掲げる「スポーツ・オフェンス」戦略も、スポーツ専門店を含む卸売チャネルとの関係を立て直し、競技性能を軸にブランドを再構築する狙いを持つとされる。ただし直営店・自社EC部門の売上高は前期比6%減と落ち込みが続いており、D2C偏重からの軌道修正が業績数値に表れるまでには、なお時間を要する見通しだ。スポーツマーケティングに詳しい戦略コンサルタントの高野輝氏はこう指摘する。

「ナイキの躓きは戦略そのものが間違っていたというより、D2C化を急ぐ過程で専門店という”現場”との接点を失ったことが大きい。スポーツシューズは試着や専門知識に基づく提案の価値が依然として高いカテゴリーであり、アシックスはそこを疎かにしなかった」

「オニツカタイガー」という利益の怪物

 アシックスの好業績を語るうえで欠かせないのが、姉妹ブランド「オニツカタイガー」の存在だ。本格的な競技用・ランニング用シューズは「アシックス」ブランドが担う一方、オニツカタイガーはファッション・ライフスタイル領域へ完全に軸足を移し、ナイキやアシックス本体とは異なる市場で独自のポジションを築いている。2026年12月期上期のオニツカタイガー事業の売上高は895億円(前年同期比35.9%増)、営業利益率は39.6%(前年同期比3.2ポイント上昇)に達し、全地域で2桁以上の成長を記録した。この高収益性を評価し、アシックスは2027年1月1日付でオニツカタイガー事業を分社化する方針も明らかにしている。

 この圧倒的な高収益構造を支えるのが、大きく3つの仕掛けだ。

 第一に、脱・スポーツ用品価格である。値引き販売を極力行わず、パリのシャンゼリゼ通りや東京・新宿といった主要都市の一等地に旗艦店を構え、ハイブランド(ラグジュアリー)に近い価格帯・立ち位置を確立してきた。

 第二に、インバウンド需要と越境ECの組み合わせだ。円安を追い風に、訪日外国人がオニツカタイガーを土産として購入する動きが広がり、WWDJAPANの報道では免税売上比率が4割以上に達しているとされる。母国に帰国した後もECサイトで買い続けてもらう顧客ループを構築している点も特徴で、日本経済新聞クロストレンドは越境ECをテコにした顧客生涯価値(LTV)向上策を伝えている。

 第三に、直営店を中心としたブランドコントロールである。卸売比率を抑え、直営店・自社ECでの販売を軸にすることで中間マージンを圧縮し、高い粗利率を確保する構造を作り上げた。

「オニツカタイガーの強みは、機能性を競うスポーツ用品市場から距離を置き、”歴史”や”物語”を価値の源泉に据えた点にある。値引きに頼らないブランドは景気変動への耐性も高く、収益の安定装置として機能している」(高野氏)

「脱スニーカー依存」が分けた明暗

 ナイキが直面したのは、スニーカーブームの一巡とレトロモデルの供給過多という構造問題だった。特定カテゴリーへの依存度が高かった分、トレンドの反転がそのまま業績の重荷となった。

 これに対しアシックスは、「本格スポーツ(機能性)」を担うアシックス本体と、「ファッション性・高収益」を担うオニツカタイガーという、性格の異なる二つの柱を併存させることに成功している。一方がトレンドの影響を受けやすい局面でも、もう一方がそれを補う関係が築かれており、これが「売上1兆円・高い利益率」を同時に実現する基盤になっていると考えられる。むろん、インバウンド消費や為替は変動要素であり、円高局面や訪日客数の減速が業績に影響を与えるリスクは残る。ただし、専門性の高いランニングシューズという収益基盤と、プレミアムなライフスタイルブランドという収益基盤を併せ持つ経営体制そのものが、単一カテゴリー依存よりも外部環境の変化に強いポートフォリオであることは間違いない。

 もっとも、アシックスの快進撃がこのまま続くと決めつけるのは早計だろう。オニツカタイガーの収益性は円安とインバウンド消費の追い風に一定程度支えられており、為替が円高方向へ振れたり、訪日客数の伸びが鈍化したりすれば、成長率が調整局面を迎える可能性はある。また、ライフスタイルスニーカー市場では「オン(On)」や「ホカ(HOKA)」といった新興ブランドの存在感も増しており、プレミアム価格帯での競争が激化する余地も否定できない。一方のナイキも、卸売チャネルとの関係修復や競技性能を軸にした商品開発に着手しており、ブランド力そのものが失われたわけではない点には留意すべきだ。今後の焦点は、アシックスが二本柱の成長をどこまで持続させられるか、そしてナイキが「現場」との接点をどこまで取り戻せるかにある。

日本企業がアシックスの1兆円劇から学ぶべき「強みの再定義」

 アシックスの成長劇から読み取れる教訓は、大きく二つに整理できる。

 一つは、業界の巨人であるナイキの存在感に臆することなく、自社のコア技術である機能性開発を磨き続けたことだ。競技志向のランナーという「コアユーザー」を軽視せず、専門店という現場の接点を守り続けたことが、結果的にブランドへの信頼と業績の土台になった。

 もう一つは、自社が持つ資産――オニツカタイガーが持つ歴史的文脈――を正しく再定義し、値引きに頼らずプレミアム価格で売る勇気を持ったことである。流行や短期的な市場のトレンドに合わせて安易に価格を下げるのではなく、ブランドの物語性を武器に据えたことが、高い利益率という形で結実した。

 プラットフォームや一時の流行に乗るのではなく、自社ならではの強みを地道に磨き続けること。これこそが、為替や消費動向が目まぐるしく変化するグローバル市場を勝ち抜くための、遠回りに見えて最も確実な道筋なのかもしれない。ナイキも今回の苦戦を経て、自社の強みをどう再定義していくのか、今後の戦略転換が注目される。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=高野輝・戦略コンサルタント)

【主な参照データ】
アシックス「売上高1兆円」突破へ 今期業績予想を上方修正(WWDJAPAN.com)
アシックスが通期予想を上方修正 初の売上高1兆円台を見込む(fashionsnap.com)
アシックス、初の売上高1兆円超えへ 26年12月期予想を上方修正 オニツカタイガーなど人気(神戸新聞NEXT)
【決算解説】アシックス(7936)26Q2、売上高1兆円突破で株価も上場来高値!なぜ「オニツカタイガー」はここまで儲かるのか?(note/kabuya66)
【10%超の急伸】アシックス(7936)が上場来高値を更新(LIMO)
アシックスが急騰で時価総額4兆円目前(seventietwo)
「オニツカ」「オン」「ホカ」、人気スニーカーブランドの驚異のインバウンド比率に迫る(WWDJAPAN)
オニツカタイガー「越境EC戦略」 海外顧客のLTV向上、2つのカギ(日経クロストレンド)
NIKE, Inc. Reports Fiscal 2026 Fourth Quarter and Full Year Results(Nike公式)
〈スニーカー市場の異変〉ナイキ苦戦で値崩れ?決算が語る苦しい懐事情(東洋経済オンライン)
Nike CEO John Donahoe is out, replaced by company veteran Elliott Hill(CNBC)

BusinessJournal編集部

Business Journal

ポジティブ視点の考察で企業活動を応援 企業とともに歩む「共創型メディア」

X: @biz_journal

Facebook: @bizjournal.anglecreate

ニュースサイト「Business Journal」

公開:2026.08.20 06:00