正月恒例の一大イベント、箱根駅伝(東京箱根間往復大学駅伝)が今月2~3日に開催されるが、レースの行方に加えて注目されるのが、選手たちが着用するランニングシューズのメーカー別シェア争いだ。大手スポーツ用品販売・アルペンが運営する「ALPEN GROUP MAGAZINE」の調査・発表によれば、21年の大会では出場ランナーのうち95.7%、ほぼ全員がナイキのシューズを履いていたが、昨年(24年)大会ではナイキのシェアは50%を割り42.6%まで低下。一方、アシックス(24.8%)、アディダス(13.8%)、プーマ(8.7%)、ミズノ(2.2%)のシェアが上昇。加えてスイスの「オン」、米国デッカーズ・アウトドアの「ホカ」、米国の「ブルックス」など箱根駅伝“初登場”組も現れるなど、熾烈な戦いが繰り広げられている。果たして今年はどうなるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
箱根駅伝で選手に使用されるシューズとしては、かつては国内メーカーであるミズノとアシックスが多かったが、勢力図を大きく変えるきっかけとなったのが2017年にナイキが発売した「ズーム ヴェイパーフライ 4%」の登場だった。それまで日本では薄底シューズが主流だったが、この商品は反発力を生むためにカーボン製プレートをソール内に入れた厚底シューズといえる形状。世界のレースでこれを着用した選手たちが相次いで高い成績を出し始めたことを受け日本でも利用する選手が増え、箱根駅伝でも厚底シューズが主流に。21年の大会ではナイキの着用率が95.7%に上った一方、ミズノは1.4%、アディダスは1.9%に下落し、アシックスにいたってはゼロという結果となった。
これに危機感を抱いた国内勢は新商品の開発や各大学のチームとの連携強化などに注力。アシックスは21年により機能性、そしてアスリート一人ひとりのポテンシャルを引き出すことを重視した「METASPEED(メタスピード)」を発売し、ランナーから高い支持を獲得。箱根駅伝でも徐々にナイキとのシェア差を縮めつつある。
売上とブランドイメージへの影響
スポーツシューズメーカーにとって箱根駅伝とは、どのような重みをもつ存在なのか。スポーツライターの小林信也氏はいう。
「箱根駅伝でどれだけ多くの選手に使用されたのかは、各メーカーのシューズのみならずウエアなど他ジャンルの商品の売上に大きな影響を与えるだけではなく、ブランドイメージにも響いてきます。21年の大会でナイキが9割以上のシェアを取った際には『ナイキだけが優れている』というイメージが広がり、ゼロになったアシックスはランニングシューズが同社にとって代表的な商品であり、かつグルーバルに展開して日本を代表するスポーツシューズメーカーであっただけに、大きな危機を迎えることになりました。箱根駅伝の常連校などの強豪チームは、チーム単位でメーカーと契約してシューズ以外にもウェアをはじめさまざまな用具の提供を受けていますが、当時はチームがナイキ以外のメーカーと契約しているにもかかわらず選手の強い意向でシューズだけはナイキのものを着用するという動きが広がりました。
その後、国内メーカーは巻き返しを図るべく、より日本人選手の走り方や体の特徴に合うシューズの開発に取り組み、徐々に箱根駅伝でナイキからシェアを奪っていきました。チーム側としても、契約しているメーカーのシューズを選手たちが着用してくれたほうが何かと都合が良いため、メーカー側とチーム側の意向がうまく合致した面も要因としてはあるかもしれません」
国内のランニングシューズ市場は拡大傾向にあるとされ、エヌピーディー・ジャパンの調査によれば、23年1~3月のランニングシューズ市場規模は376億円。年間1000億円を超える大きなマーケットだ。それだけにメーカー各社は国民的イベントともいえる箱根駅伝には力を入れざるを得ない。では、今年の箱根駅伝ではどうなるのか。
「正直なところ、わかりません。ですが、アシックスがかなり力を入れていることもあり、シェアとしてはナイキが低下してアシックスが上昇、あわよくば逆転の可能性もゼロではないという見方もあるようです」(シューズ販売チェーン関係者)
ナイキ、業績が不調
米ナイキは今、経営的に厳しい状況に追い込まれている。もともと同社は世界のスポーツシューズ市場では後発組であり、ドイツのアディダスやプーマに後塵を拝していたが、北米プロバスケットボール(NBA)選手だったマイケル・ジョーダンとの契約を機に1984年にド「エア・ジョーダン」を発売。これが世界的ヒット商品となりナイキは一躍、スポーツシューズ市場トップの座に躍り出た。さらに87年に発表した「エアマックス」も商業的に大きな成功をおさめ、日本でもランナー以外の人々の間でもファッションアイテムとして崇められ一大ブームとなった。
だが、ここ数年は成長が鈍化。24年6~8月期決算の売上高は115億ドルで前年同期比で約10%減、純利益は10.5億ドルで同28%減。時価総額は3年前と比較して約半分の水準となっており、業績不振を受けて昨年10月には前CEOのジョン・ドナホ氏が退任し、後任にエリオット・ヒル氏が就任した。
「ナイキはコロナ前から自社で運営する直販店やECサイト上での売上比率を上げることに力を入れる一方、過度な値下げ販売を回避するために商品を扱う他社の小売店やECサイトの選別を強めていました。これによってナイキのコアなファン以外の消費者がナイキの商品に触れる機会が減ったことで販売数量が減った可能性が考えられます。また、現在はマス向けの商品の拡販に力を入れる一方で、高価格で利幅が大きいと思われる『エアジョーダン』などのブランド性の高い商品の取り扱いを減らしているといわれており、それも減収減益につながっているかもしれません」(シューズ販売チェーン関係者)
(文=Business Journal編集部、協力=小林信也/作家・スポーツライター)