AI時代、SaaSの強みは「データ」にある…化学産業で急成長するSotasの戦略

●この記事のポイント
化学産業向けSaaSを展開するSotasは、化学物質の法令調査やSDS(安全データシート)管理を効率化。吉元裕樹社長が、成長を支える営業体制、権限委譲の試行から得た経営判断、生成AI時代に構造化データを蓄積する意義を語る。化学品の検索・比較から購買までをつなぐ「Sotas ChemMart」の構想にも迫る。
「SaaS冬の時代」や「生成AIによるSaaS代替論」が世界中で叫ばれるなか、日本の巨大かつレガシーな巨大市場・化学製造業において、異次元の成長を続けるスタートアップが存在する。Sotas株式会社だ。
同社によると、事業開始からわずか4年目となる来期(27年9月期)、ARR(年間経常収益)15億円突破を見据え、2年後には60億円構想を掲げる。8月31日には、米国でSaaS企業を創業した福山太郎氏率いるRice Capitalからの資金調達を発表し、新サービス『Sotas ChemMart』の開発を加速している。
なぜ今、IT投資に慎重とされる化学・製造業界でこれほどの爆発的トラクションを生み出せるのか。生成AI時代におけるBtoBスタートアップの生き残り戦略、そして売上高10億円の壁を突破する経営論について、同社代表取締役社長の吉元裕樹氏に詳しく話を聞いた。
●目次
- 「3カ月で売上3倍」の圧倒的トラクション――壁を越える3つのシグナル
- 「100人まではトップダウンが最強」――スタートアップ界の「権限委譲神話」へのアンチテーゼ
- AI時代のSaaS論――「データレイヤーの覇者」が勝つ理由
- レガシー市場攻略――なぜ年200万円未満のSotasが「即決」されるのか?
- 未来構想――「Sotas ChemMart」で化学産業をプロダクトアウトからマーケットインへ
「3カ月で売上3倍」の圧倒的トラクション――壁を越える3つのシグナル
――創業から4年でARR15億円、2年後には60億円を見込むという異例の成長スピードです。PMF(プロダクトマーケットフィット)を確信した瞬間や、グロースが急加速したターニングポイントはどこにあったのでしょうか?
Sotas 吉元裕樹社長(以下、吉元):我々が「いける」と確信を持てたポイントは大きく3つあります。
1点目は「モメンタム(勢い)」です。特にクォーター・オン・クォーター(3カ月比較)で見たときに、売上が3倍ペースで伸びる時期がありました。スタートアップの急成長指標である「T2D3(5年で売上を約100倍にするモデル)」を圧倒的に超える数値を叩き出せたことが最初のシグナルです。
2点目は「売上の質」です。特定のエンタープライズ企業1社からの受託開発などで急拡大した売上は、真のPMFとはいえません。そうではなく、プロダクトそのものが広くマーケットに受け入れられ、複数の顧客から均等に収益があがる状態を作れたことです。
そして3点目が「再現性のある営業体制」です。シリーズAを超えるあたりまではファウンダー(創業者)が自ら営業したほうが早いですし、そうあるべきです。しかし、ファウンダー以外のメンバーが2名以上、安定して目標数値を達成できるようになった。この仕組み化ができた瞬間が、大きなターニングポイントでした。
【Sotasの急成長を支える3つの確信】
1. モメンタム:クォーター・オン・クォーターで売上3倍ペースの成長(T2D3への適合)
2. 売上の質 :特定企業の受託に頼らない、プロダクト自体の市場受容
3. 営業再現性:ファウンダー以外のビジネスメンバーによる再現性ある受注の確立
「100人まではトップダウンが最強」――スタートアップ界の「権限委譲神話」へのアンチテーゼ
――急激な事業成長に伴い、多くのスタートアップ経営者が「権限委譲」や「CXO層の採用」で壁にぶつかります。吉元社長はこの組織の壁をどう乗り越えていますか?
吉元:実はここ半年ほど、プライシングやビジネスサイドの意思決定を現場に権限委譲するテストを行ってみました。しかし、結論から言うと「一時的に成長スピードが少し鈍化する」という現実がありました。
日本のスタートアップ界隈では「早く権限委譲すべき」「CXOを揃えるべき」と言われがちですが、私は「組織が100人に達するまではトップダウンのほうが絶対に早い」と考えています。
株主から紹介を受けた米国での経験豊富なアドバイザーからも「日本はCOOを置くタイミングが早すぎる。米国では1000人規模までCOOを置かないケースもあり、トップダウンの推進力を知っている」と指摘されました。
大手企業の弱みは意思決定プロセスの長さです。逆にスタートアップ最大強みは「社長のひと声で即座に前進するスピード感」です。ミドル層のモチベーション向上とのバランスは永遠の課題ですが、対投資家に成長を約束する経営者としては、安易な権限委譲でスタートアップ特有の推進力を殺してはならないと痛感しています。
AI時代のSaaS論――「データレイヤーの覇者」が勝つ理由

――昨今、生成AIの台頭によって画面入力中心の「UI型SaaS」は不要になるといわれています。AI時代におけるSotasの優位性はどこにあるのでしょうか?
吉元:「AIによってSaaSが淘汰される」という議論がありますが、私は一部のホリゾンタル(業界横断型)SaaSに限った話だと考えています。
AIの台頭の一端は「UI/UXの拡張」です。画面の上層にあるアプリケーション層やエージェント層(ChatGPTやClaudeなど)は進化しましたが、最下層にあるのは「データレイヤー」です。
【吉元氏が考えるAI時代のレイヤー構造】
アプリケーション層(UI/UX) ← 生成AIによる拡張・代替が激しい
エージェント層(LLMを活用した業務実行)
データレイヤー(構造化データ) ← Sotasが競争優位の源泉と位置付ける領域
OpenAIやアンソロピックのような巨大AI企業は、膨大なコストをかけて汎用モデルを開発しているため、収益構造上、特定のニッチなバーティカル(業界特化)領域のディープなデータ収集まで、すべて自社で手掛けるのは難しいと考えています。
化学業界のような専門的で複雑な領域において、我々が業界シェアを握り、正しく構造化されたデータを集める「プロトコル(標準基盤)」になってしまえば、AI巨頭たちにとっても「Sotasからデータを買ったり連携したりするほうが得」という関係が作れます。
AI時代において、勝者になるのは最終的に「一次データを保持しているデータレイヤー」です。Sotasの各種SaaSは、そのデータを最も早く、正確に集めるための「ハウ(手段)」にすぎません。

レガシー市場攻略――なぜ年200万円未満のSotasが「即決」されるのか?
――IT投資に慎重といわれる中小の化学メーカーや商社が、こぞってSotasを導入する決め手は何ですか?
吉元:日本の法人は約350万社ありますが、化学物質に関わる事業者は約50万社に上ります。川上の大手化学メーカー(旭化成や三菱ケミカル等)には専門の化学者や法務チームがいますが、川下の自動車メーカーや電子部品、あるいは街の加工工場になると、化学物質の法令知識のボラティリティ(格差)が極めて激しくなります。
現在、労働安全衛生法の改正など化学物質の規制強化が急速に進んでおり、違反の疑いで送検され、社名や事案の概要が公表されるケースもあります。
我々の「Sotas化学調査」は、専門知識がない担当者でも厳格な法令チェックや適切なSDS(安全データシート)の依頼・管理を自動化できるサービスです。
費用は年間200万円を切る水準です。パートタイマーを1人採用して複雑な法規制を追わせるよりも、Sotasを導入するほうが遥かに安く、正確で、ISO対策のログも残る。この明確なROI(投資対効果)があるからこそ、業界問わず即決していただけるのです。導入後の作業時間は従来の7割減、取引先からの書類回収期間も「7日間から1.5日へ」と劇的な効果が出ています。
未来構想――「Sotas ChemMart」で化学産業をプロダクトアウトからマーケットインへ
――今後、単一のSaaSからどのようなプラットフォームへ進化していくのでしょうか? 新サービス『Sotas ChemMart』や未来の構想について教えてください。
吉元:これまでの化学産業は「良いものを作れば売れる」というプロダクトアウト思考でした。しかし今、汎用化学品から高付加価値な機能性化学品(スペシャリティケミカル)へのシフトが進むなか、市場の需要を捉えて開発するマーケットイン思考への転換が急務です。
そこで我々は、化学品調査・データベースに加え、取引やサンプル取り寄せを行うマーケットプレイス『Sotas ChemMart』をリリースします。
これにより、「調べる・比較する・購入する」というデータとマーケットの対話を促し、一連の体験をシームレスにつなぐプラットフォームへと進化させます。
【Sotasが描く統合データプラットフォーム構想】
「Sotas化学調査」 (法令・SDS管理)
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「Sotasデータベース」(物性・成分情報) ⇒ 【統合データプラットフォーム】
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「Sotas ChemMart」 (購買・取引市場)
日本の化学産業、特に半導体部材などのスペシャリティケミカルは世界シェア約5割を誇る最強の産業です。現場の人々が「どうせ俺たちなんか…」と自信を失うのではなく、データを通じて自分たちの技術の市場価値を実感し、誇りを持てる業界にしたい。Sotasは日本の強力なサプライヤー基盤を足がかりに、数年以内にグローバル市場とつながる世界最高峰の化学情報基盤を構築していきます。
――最後に、スタートアップの経営者やこれから起業を目指す方々へメッセージをお願いします。
吉元:スタートアップが終わる瞬間というのは、競合に負けた時でも資金が尽きた時でもなく、「創業者の情熱の灯火が消えた時」だと思っています。その時点でゲームオーバーです。
だからこそ経営者は、「なんとなく儲かりそうだから」という理由ではなく、自分が人生をかけて本気で火を燃やし続けられる市場・領域はどこなのかを突き詰めてほしい。
私にとってそれが「化学産業」でした。自分が心から興味を持ち、この業界を良くしたいと狂気を持ってコミットできる場所を見つけること。それこそが、スタートアップが困難を突破し、巨大なインパクトを生み出すための唯一無二の原動力になると信じています。
(取材・文=BUSINESS JOURNAL編集部)











