「速さを競わない」スバルが、開発期間を4割縮める理由…トヨタが2割出資でも「アリーン」は使わない

●この記事のポイント
SUBARUは2026年10月18日、ソフトウエア定義車両(SDV)を20年代後半に投入し、次世代車の開発期間を約4割短くする方針を示した。中核は米AMDと共同開発した半導体を載せた制御統合ECUで、全車種に順次搭載していく。開発面では試作のデジタル化や並行開発を進め、部品共用率は50%に引き上げる。本記事では、組織と取引先に求められる変化、品質とサイバーセキュリティの課題を整理する。
SUBARU(スバル)は10月18日、栃木県佐野市の研究実験センターで報道陣向けに開発戦略の説明会を開いた。ソフトウエア定義車両(SDV)を2020年代後半に投入すること、次世代車の開発期間を今より約4割短くすることが、その場で示された。
水平対向エンジンと運転支援システム「アイサイト」。スバルは機械と制御の作り込みで評価を固めてきたメーカーだ。四輪駆動の走破性と安全性能は北米で支持を集め、熱心なファンは「スバリスト」とも呼ばれる。規模で勝負せず、特定の価値に絞って選ばれてきた会社と言っていい。そのスバルが開発の進め方そのものを変えると言っている。発表の中身と、それが社内や取引先に何を求めることになるのかを整理したい。
●目次
説明会で示されたこと
ロイターなどの報道によると、SDVの中核になるのは新しく開発した「制御統合ECU(電子制御ユニット)」だ。これを全車種に順次載せていく。アイサイトと、「走る・曲がる・止まる」に関わる車両制御をこのECUでまとめ、購入後も無線通信によるソフト更新(OTA)で機能を高めていく。ECUの核になる半導体は米AMDと共同開発した。
両社の協業は2024年4月に発表されたもので、AMDのSoC(システム・オン・チップ)に、ステレオカメラの認識とAI推論を担うスバル独自の回路を組み込む。2025年11月には、この独自回路について機能安全規格「ISO 26262」の認証も取っている。
柴田英司常務執行役員は「使えば使うほど、どんどん車自体が良くなっていくことを狙う」と話した。次世代アイサイトは社内で開発した認識AIを載せ、オプション価格は現行の「アイサイトX」と同じくらい(実質10万円程度)に抑えたい考えだという。
なぜ今なのか
背景はいくつかある。まず業績だ。2026年3月期の営業利益は401億円にとどまった。米国の追加関税やBEV(バッテリーEV)関連の費用が響いた。連結販売台数は89.6万台で、そのうち79.3万台が海外。北米に大きく依存する、年間100万台に届かない規模のメーカーである。研究開発に使える人も予算も限られている。2027年3月期は営業利益1500億円への回復を見込むが、4〜6月期は426億円と前年同期比で4割強減った。販売台数の減少や販売奨励金の増加、原材料高が重なっている。足元の収益が楽ではないなかで、次の世代への投資を続けなければならない。
次に競争環境。中国勢はおよそ2年という短い周期で新しいEVを出し、運転支援やコネクテッド機能を上げてきた。従来の日本メーカーのモデルサイクルとはテンポが違う。
もう一つはトヨタの動きだ。スバルに約21%出資するトヨタは、自前のソフト基盤「アリーン」を新車に載せ、2030年までに世界で売る全車種をSDVにする計画を掲げる。ただスバルは今のところアリーンを採用する計画はないとしている。独自の制御統合ECUを選んだのは、アイサイトと車両制御という「スバルらしさ」の中核を自分たちで握っておきたい、という判断と読むのが自然だろう。
開発資源を安全と走りに集中させ、それ以外の「協調領域」はパートナーに任せる。説明会で示されたのはそういう線引きだった。
4割短縮は何を変えるのか
短縮の手段は大きく二つ。一つは試作工程の多くをデジタルシミュレーションに置き換えること。もう一つは、設計、実車検証、量産準備を順番に進めるのをやめ、並行して進めることだ。部門や取引先に設計を順々に引き渡していたやり方を改め、同じ場所・情報・目標を共有するチームで開発する体制に移す。車種間の部品共用率を50%に引き上げ、生産性を今の2倍にする目標も掲げた。
注意したいのは、スバルが実車での検証をなくすとは言っていない点だ。乾保常務執行役員は「仮に開発期間が若干長くても、しっかり市場の要望に応えていく柔軟性を持ちたい」と述べている。短さそのものを競うより、浮いた時間を最後の作り込みに回したい、というのが会社側の説明である。
「並行開発で一番難しいのは、仕様が固まらないまま次の工程が動き出すことです。手戻りを防ぐには、シミュレーションの精度を上げることと、どの段階で何を決めるかのルールを事前に詰めておくことが欠かせません。4割という数字より、意思決定の仕組みをどこまで作り直せるかを見たほうがいいと思います」(自動車アナリスト・荻野博文氏)
社内に求められること
これまでの自動車開発は、車体やエンジンといったハードが先にあり、ソフトはそれに合わせて作られることが多かった。SDVでは順序が逆になる。どの機能を後からどう更新するかを先に決め、それに耐えるハードを用意する。
この転換は技術だけの話ではない。実車で何度も確かめてから世に出す文化は、スバルの安全への信頼を支えてきたものでもある。そこに、出荷後も改良を重ねる前提のソフト開発を組み合わせる。評価制度や役割分担も見直しを迫られるはずだ。渡森孝有執行役員は「失敗を学びとしつつ挑戦できる環境」を維持したいと話している。
「機械系の技術者とソフト系の技術者では、品質の考え方も仕事の区切り方も違います。どちらかに合わせるのではなく、両方が同じ指標で評価される仕組みがないと、チームを一つにしても実際には分業のままになりがちです。ソフト人材の採用競争は業種を越えて激しく、育成を含めた投資を何年続けられるかが問われます」(同)
取引先に及ぶ影響
完成車メーカーの開発の進め方が変われば、部品メーカーの仕事も変わる。試作の回数が減れば、試作品の製作で収益を上げてきた企業には影響が出る。並行開発のもとでは、部品メーカーも早い段階から設計に加わり、デジタルデータでやり取りしながら短い期間で答えを出すことが求められる。
一方で、これを「下請けの崩壊」と一括りにするのは早い。スバルは取引先も含めて一つのチームで開発する体制を、まず自社開発のEVで進めている。初期から関われる企業にとっては、提案の幅が広がる面もある。CAE(コンピューターを使った解析)や3Dデータを扱える体制を持っているかどうかで、明暗が分かれやすくなる、と見るほうが実態に近い。
また、半導体やソフトを手がける企業の存在感が増すのは確かだ。AMDとの共同開発はその表れと言える。ただしスバルは半導体の一部やECUの内製も進めており、すべてを外部に任せるわけではない。
「中小のサプライヤーにとって、試作の減少は短期的には痛手です。ただ、設計段階から参加できれば単価や付加価値の考え方も変わります。デジタル対応への投資を一社で抱えきれないなら、地域の同業や大手Tier1との連携を早めに考えておくべきでしょう」(同)
課題は品質とサイバーセキュリティ
SDVは、ソフトの不具合やサイバー攻撃という、これまでとは違うリスクを抱える。国連規則のUN-R155(サイバーセキュリティ)とR156(ソフト更新)は、日本や欧州で型式認可の要件になっている。OTAで機能を足すほど、更新の管理や検証の負担は増える。「後から良くなる」ことと「後から不具合が入らない」ことを両立させる体制づくりは、発表された数字以上に時間がかかる可能性がある。
価格も課題だ。高性能の半導体やAIはコストを押し上げる。スバルはEV、ハイブリッド車、ガソリン車で電子プラットフォームを共通にし、部品点数を減らして吸収するとしている。量で戦えないメーカーが、共通化と内製の組み合わせでどこまで価格を抑えられるか。最初のSDVが出たときの値付けで、ある程度は見えてくるだろう。
その先にあるのが、SDV時代の「スバルらしさ」をどう定義し直すかという問いだ。これまでは購入した時点の走りや安全性能が評価の中心だった。今後は、衝突回避や運転支援の性能が年を追って上がっていくか、走りの味付けを後から磨けるかといった、持ち続ける間の体験も比べられるようになる。会社側は次世代アイサイトで、衝突回避と、高度な運転支援「レベル2++」を視野に入れた機能を両輪で開発するとしている。ハードの作り込みで積み上げてきた信頼を、ソフトの継続的な改善にどうつなげるかが試される。
日本の製造業にとっての意味
ソフトで価値を上げる。開発を速める。取引先との関係を組み直す。スバルが直面しているのは、規模の大小を問わず日本の製造業の多くが抱えている課題でもある。
スバルは自社EVの投入を2029年以降に延ばし、市場を見極める姿勢も見せている。無理に速さだけを追わず、得意な領域に資源を寄せる。その方針が組織と取引先にどう浸透していくのか。20年代後半に出てくる次世代車が、最初の答えになる。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=荻野博文/自動車アナリスト)
【主な参照データ・出典】
(参考)ロイター「スバル、20年代後半にSDV投入、開発期間も4割短縮」(2026年10月19日)、ニュースイッチ「開発・生産効率2倍に挑む…スバル“らしさ”追求」(同20日)、SUBARU IR「直近の業績および見通し」、SUBARUニュースリリース(2024年4月19日、2025年11月21日)











