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オフィスは「ハコ」から「働き方のインフラ」へ…総務・人事・ITで進める拠点再編の手順

2026.10.25 05:55 2026.10.25 00:34 経済
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=松本祐樹/人事・労務コンサルタント

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●この記事のポイント
都心5区のオフィス空室率は1.85%(2026年9月)まで下がり、賃料も上がり続けている。一方で、企業の平均出社率は7割前後のまま動いていない。本稿では「全社出社か完全リモートか」の二択から離れ、都心ハブ・郊外サテライト・在宅の3層で拠点を組み直すCRE戦略を解説する。進め方は、社員の居住地の分析、固定費の変動費化、ABWと評価制度の見直しの3ステップで示す。

 東京都心5区のオフィス空室率は2026年9月時点で1.85%。賃料は上がり続けている。一方で、平均出社率は「7割前後」から動いていない。床は高くなり、席は毎日埋まるわけではない。このねじれをどう解くかが、いまの企業不動産(CRE)戦略の出発点になる。

●目次

「出社回帰」だけでは解けない問題

 海外では出社回帰の動きがはっきりしてきた。米アマゾン・ドット・コムは2025年1月から原則週5日出社に切り替えた。米マイクロソフトも2025年9月、週3日以上の出社義務化を発表し、2026年2月末から本社周辺の従業員を対象に順次導入している。

 ただ、日本の全体像は少し違う。国土交通省の「令和7年度テレワーク人口実態調査」(2026年3月公表)では、雇用型テレワーカーの割合は25.2%で前年度から0.6ポイント増えた。コロナ禍後に続いていた減少が止まり、「安定基調」に入ったというのが同省の見立てだ。ザイマックス総研の調査(2026年春)でも、完全出社の企業は24.8%にとどまる。「全員毎日出社」も「完全リモート」も少数派で、大半はその中間で試行錯誤を続けている。

 現場でよく聞くのは、どちらに振っても副作用が出るという話だ。出社を強めれば、近くに住めない人や育児・介護を抱える人から先に辞めていく。在宅に寄せれば、新人が誰にも聞けずに止まる。そこで問いたいのは、全員分の固定席を並べた本社に人を集め直せば、それで成果が戻るのか、ということだ。

 本稿では「出社か在宅か」の二択をいったん脱いで、拠点を機能ごとに分けて組み直す「マルチ拠点・サテライト型」の考え方と、その進め方を整理する。

なぜ「単一の巨大本社」は無理が出てきたのか

理由① 通勤を前提にすると、採用できる範囲が狭くなる

「都心の1拠点に毎日通える人」を条件にすると、採用できる人の地理的な範囲がそのまま上限になる。人手不足が続くなかで、育児・介護中の人材や地方に住む専門人材を最初から対象外にしてしまうのは、もったいない。

「従業員が辞める理由を聞くと、出社日数そのものより、『自分で選べないこと』への不満が大きい。通勤時間を少しでも削れる選択肢があるかどうかで、定着の様子はかなり変わります」(人事・労務コンサルタント・松本祐樹氏)

理由② 曜日ごとの稼働ムラが、固定費を重くする

 ハイブリッド勤務では、部署の定例会議が入る火曜から木曜に出社が寄り、月曜と金曜は空くという偏りが生まれやすい。ピークの日に合わせて席を用意すれば、それ以外の日は空席に賃料を払うことになる。三鬼商事によると、2026年9月の都心5区の平均賃料は1坪当たり2万3,985円で前月比338円上昇。空室率が2%を切る市場では、「床を広げて解決する」という選択肢自体が高くつくようになっている。

理由③ 機能が一か所に集まることのBCPリスク

 政府の中央防災会議は2025年12月、首都直下地震の被害想定を12年ぶりに見直し、死者最大約1万8,000人、経済被害約83兆円とした。本社に意思決定、システム、人員がまとまっているほど、そこが止まったときの影響は大きい。地震に限らず、広域停電や通信障害、感染症の流行でも同じことがいえる。

「ハブ&スポーク」型の3層モデル

 組み直しの軸は、「どこで働くか」ではなく「何のためにそこへ行くのか」だ。拠点を役割で分けると、おおむね次の3層に整理できる。

① ハブ(フラッグシップ)
主な役割    部署をまたぐ議論、新人の受け入れ、全社イベント、顧客対応
置き場所・形態 都心の主要駅周辺。個人席を減らし、会議室・共用スペースを厚くする

② スポーク(サテライト)
主な役割    日常業務、近隣メンバーとの少人数の打ち合わせ、集中作業
置き場所・形態 郊外のターミナル駅、社員の居住が多いエリア。
        自社拠点または外部のフレキシブルオフィス

③ ホーム(在宅)
主な役割    一人で完結する作業、オンラインの定例会議
置き場所・形態 自宅。通信環境や備品を手当てで支援する

 ポイントは、ハブを「席を並べる場所」から「集まる理由がある場所」に変えることだ。ザイマックス総研の同調査でも、今後「会議室スペース」を増やしたい企業は31.6%と最も多かった。面積を縮小したい企業でさえ、執務席は減らす一方、会議室や集中スペースは増やしたいという傾向が出ている。床の「量」より「中身」を入れ替える動きだ。

「ハブの面積を何割削るかを先に決めると失敗します。まず『そこで何をするのか』を決め、必要な会議室や共用エリアを積み上げていく。面積はその結果として決まるものです」(同)

拠点再編の進め方:3つのステップ

ステップ1 居住地と業務の「地図」をつくる

 最初にやるべきは、社員がどこに住み、どの路線で通っているかの把握だ。個人情報の扱いには配慮しつつ、居住エリアを最寄り駅や路線単位で集計すると、サテライトを置くべき候補駅はおのずと絞られてくる。同時に、部門ごとに「対面でないと進まない業務」と「一人で完結する業務」の比率を出しておく。営業や企画、開発でも、対面が要るのは週のうち一部という場合は少なくない。感覚ではなく数字で見ると、議論が早い。

ステップ2 固定の床と、借りる床を組み合わせる

 自社で長期契約する床は、ハブの中核機能に必要な分に絞る。日々の席や人員の増減に対応する分は、外部のフレキシブルオフィスや法人向けサテライトサービスの利用枠で受け止める。固定費の一部を変動費に置き換えることで、事業の拡大・縮小に合わせて拠点を増減しやすくなる。

 ただし、いまの東京は空室が極端に少なく、賃料も上がっている。既存の床を手放すと、将来同じ条件で借り戻せる保証はない。契約更新や移転のタイミングをにらみ、段階的に進めるのが現実的だろう。

「サテライトは置いて終わりではありません。利用データを3カ月、半年と見て、使われない拠点は閉じ、混む拠点は広げる。変動費化の価値は、この入れ替えのしやすさにあります」(不動産アナリスト・伊藤健吾氏)

ステップ3 ABWと評価制度をセットで変える

 オフィス内は、対面で議論するエリア、Web会議用のブース、一人で集中する席など、活動ごとに分ける。いわゆるABW(Activity Based Working)だ。ただ、レイアウトだけ変えても「上司が来るから自分も行く」という出社は残る。評価の軸を「どこにいたか」から「何を生み出したか」へ移す制度変更は、人事部門と組んで同時に進める必要がある。

期待できる効果と、見落としやすい課題

 うまく回れば、効果は大きく3つある。

不動産コストの適正化:都心の高い床に全員分の席を抱える必要がなくなる。浮いた予算をハブの質やサテライトの利用枠に回せる。

採用と定着:住む場所の自由度と、集まる場の価値を両方示せる。応募できる人の幅が広がり、生活の変化を理由にした離職も抑えやすい。

出社の意味がはっきりする:ハブに行く日は「誰かと話す日」になる。作業は近場や自宅で済ませ、対面の時間を議論や偶然の会話に使える。

 一方で、拠点が増えるぶんだけ管理は複雑になる。情報セキュリティの基準をどの拠点でも揃えること、労働時間や安全衛生の管理、交通費や在宅手当の制度設計など、総務・人事・情シスにまたがる課題が一気に出てくる。「拠点ごとにチームが分断される」という声も出やすいので、ハブに集まる日をチーム単位で揃えるような運用上の工夫が要る。

「新入社員や異動直後の人は、一定期間ハブで先輩と同じ空間にいることが大切です。分散はデフォルトにしつつ、立ち上がりの時期だけは意図的に集める。その使い分けが設計の要です」(松本氏)

オフィスは「ハコ」から「働き方のインフラ」へ

 ここまで見てきたように、拠点の組み直しは総務や管財部門だけで完結する話ではない。どこに人を集め、どこで散らすかは、人事制度やITの設計と切り離せない。CHRO(最高人事責任者)やCIO(最高情報責任者)を早い段階から巻き込み、経営テーマとして扱う企業ほど、手戻りは少なくて済む。

 今後を考えるうえで、生成AIの影響も無視できない。ザイマックス総研の同調査では、生成AIを業務で使っていない企業は10.4%にとどまった。定型業務が減り、企画や判断の比重が増えれば、一人で黙々とこなす作業は在宅やサテライトに、人と議論する時間はハブに、という振り分けはさらに進むと考えられる。必要な執務席の数やオフィスの役割も、それに合わせて変わっていくはずだ。

 全員を一か所に集めることを前提にしたオフィス観は、高度成長期から長く機能してきた。ただ、採用の難しさ、賃料の上昇、災害リスクという条件が重なるいま、その前提を一度疑ってみる価値はある。出社か在宅かを決めることより、自社にとって「集まる意味」を言葉にし、それに合わせて拠点を配置できるか。そこが、これからの競争力を分けていくだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=松本祐樹/人事・労務コンサルタント)

【主な参照データ・出典】
三鬼商事「オフィスマーケット」(2026年9月時点)
国土交通省「令和7年度テレワーク人口実態調査」(2026年3月24日公表)
ザイマックス総研「大都市圏オフィス需要調査2026春」(2026年7月30日公表)
中央防災会議 首都直下地震対策検討ワーキンググループ報告書(2025年12月)/読売新聞・時事通信ほか2025年12月19日報道
米マイクロソフトの出社方針(2025年9月発表)、米アマゾンの週5日出社(2025年1月開始):日本経済新聞・ロイター各報道

BusinessJournal編集部

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公開:2026.10.25 05:55