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AIデータセンターの電力不足に挑む…住友商事、送電ロス3割減の炭素繊維電線を国内実用化へ

2026.09.10 05:55 2026.09.09 20:25 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=佐伯俊也/エネルギー政策研究家

AIデータセンターの電力不足に挑む…住友商事、送電ロス3割減の炭素繊維電線を国内実用化への画像1

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住友商事は出資先の仏エプシロン・コンポジット社の炭素繊維(CFRP)技術を活用し、送電ロスを最大3割減らす高機能電線の国内実用化を目指すと発表した。生成AI・データセンター急増で電力需要が都市部に偏在し送電網が制約となる中、既存鉄塔を活かした張り替えでロスと投資負担を抑える商社の新戦略を解説する。

 生成AIブームの裏側で、日本の電力インフラが静かに悲鳴を上げている。データセンターの新増設ラッシュにより、電力需要は特定地域で急激に膨らむ一方、送電網の増強はそのスピードに追いついていない。こうした中、住友商事は2026年9月、出資先である仏エプシロン・コンポジット(Epsilon Composite)社の炭素繊維技術を活用し、送電ロスを最大3割削減できる高機能電線の国内実用化を目指すと発表した。

 なぜ今、注目されているのは「発電量を増やすこと」ではなく、地味な存在である「電線」なのか。一見すると目立たないインフラ部材の技術革新に、巨大な経済インパクトと総合商社の新しい戦略が隠されている。

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なぜ送電網は限界に近づいているのか

AIとデータセンターの急増、そして再エネ拡大というダブルパンチ

 生成AIの普及に伴い、データセンターの電力需要は世界的に急拡大している。国際エネルギー機関(IEA)は、世界のデータセンターの電力消費量が2030年には2024年比でおよそ倍増し、日本の総電力消費量に迫る規模に達するとの見通しを示した。日本国内でも、電力広域的運営推進機関(OCCTO)の需要想定によれば、データセンターと半導体工場を合わせた最大需要電力は2025年度の47万kWから2034年度には約715万kW、電力量では2025年度の30億kWhから2034年度には440億kWhへと、いずれも十数倍規模に膨らむ見通しだ。

 問題は、この需要が全国に均等に広がるわけではないという点だ。データセンターは東京圏をはじめとする一部地域に集中する傾向があり、千葉県印西市のように、系統への接続可否をめぐって新規案件が10年待ちになっているとされる地域も出てきている。発電所を新設しても、そこから需要地まで電気を運ぶ「送電網」のキャパシティ不足が新たな制約になっているのだ。再生可能エネルギーについても同様で、地方や沿岸部で発電された電気が、送電線の容量不足によって十分に活用しきれないケースが指摘されている。

目に見えない巨大な経済損失——「送電ロス」とは何か

 送電線に電気を流すと、導体の電気抵抗によって一部のエネルギーが熱として大気中に逃げてしまう。これがジュール熱による送電ロスだ。東京電力パワーグリッドの発表では2021年度の送電ロス率は4.5%とされ、みずほ銀行の産業調査レポートは日本全体の送配電ロス率を約4.8%、年間ロス量を約435億kWh、原子力発電所6基分に相当する規模と推計している。日本の損失率は国際的に見ても低い水準にあるが、それでもこの規模の電力が「届く前に消えている」計算になる。

 ロスが大きいほど、需要地に届けるためにより多く発電する必要が生じ、コストとCO2排出の両方が上乗せされる。新規の発電所や送電鉄塔の建設には長い年月と巨額の投資が必要であるため、「新たに作る」以上に「届くまでの無駄を減らす」という発想への転換が、現実的な選択肢として注目され始めている。

なぜ炭素繊維なのか…電線を変える技術的ブレイクスルー

従来の「鋼芯電線」が抱えていた限界

 現在主流の架空送電線の多くは、中心に鋼(スチール)の芯を置き、その周囲をアルミニウムで巻く「鋼心アルミより線(ACSR)」という構造を採用している。鋼は強度を保つ役割を担うが、重く、大電流を流して発熱すると熱膨張で電線がたるみ、地面や樹木に接触する事故リスクが高まる。このため、送電できる電流には上限が設けられており、既存の送電網の容量は一定の余裕を持たせた設計にとどまっている。

炭素繊維強化プラスチック(CFRP)コアが変える発想

 鋼の代わりに炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を芯材に使うことで、この制約の多くを解消できる。CFRPは軽量かつ高強度で、熱による伸びが極めて小さいという特性を持つ。エプシロン・コンポジット社の技術を用いた電線ブランド「エプシロン・ケーブル」の情報によれば、同社のCFRPコア電線は従来型のACSRと比較して送電容量(アンペア容量)を最大で2倍に高め、送電ロスを最大30%削減できるとしている。すでに世界25カ国で8000km以上の導入実績があるという。

 もう一つの大きな利点は、電線自体が軽量なため、既存の送電鉄塔をそのまま使いながら電線だけを張り替える「リコンダクタリング(張り替え)」という手法で容量を増強できる点だ。海外の分析では、リコンダクタリングは既存インフラを活用できるため1〜3年程度で導入が可能で、投資回収も比較的短期間で見込めるとされる一方、新規の送電線敷設や発電所新設には長期の許認可と巨額投資が必要になる。日本国内でも東京製綱がCFRP系電線「CFCC」を早くから手がけてきた実績があり、炭素繊維を電力インフラに応用する発想自体は目新しいものではない。今回の住友商事の取り組みは、この技術をより大規模に、商社の事業スキームとして国内実用化に結びつける点に特徴があると言える。

「送電ロスの削減は、発電側の脱炭素化と並んで見落とされがちな論点です。既存の鉄塔を使い回せるリコンダクタリングは、用地取得や環境アセスメントのハードルを回避できる点で、日本のように新規の発電・送電インフラ建設が難しい国には相性が良い解決策だと考えられます」(エネルギー政策研究家・佐伯俊也氏)

自社開発に頼らない商社の強み

ディープテックへの出資というオープンイノベーション

 住友商事は2024年6月、CFRP成形メーカーである仏エプシロン・コンポジット社への出資参画を発表していた。同社は1987年創業、フランス・ボルドー近郊に生産拠点を持ち、航空機部品(Airbusなどへの供給実績)からエネルギー分野向けの長尺製品まで、幅広い分野にCFRP技術を展開してきた実績を持つ。住友商事が自らゼロから素材技術を開発するのではなく、世界に散らばる高度なディープテック企業をいち早く見出して出資し、事業化を後押しするという、総合商社らしいオープンイノベーション型の戦略が今回の取り組みの土台にある。

「素材の卸売り」から「インフラソリューション」への昇華

 住友商事の狙いは、炭素繊維という素材を電線メーカーに供給するだけにとどまらない。電線メーカーや電力会社を巻き込み、設計・供給・保守までを含めた「送電ソリューション」としてパッケージ化し、国内電力会社への提案・実用化を進めることを目指しているとみられる。将来的には、老朽化した送電網の更新需要が旺盛な米国や、電力需要が急拡大するASEAN市場など、海外展開の足がかりとする可能性もある。

データセンター・再エネ事業との相乗効果

 住友商事は再生可能エネルギー事業やデータセンター開発にも自ら関与している。高機能電線を自社が関わるこれらのアセットに組み込むことができれば、送電ロス削減によるコスト低減とCO2排出削減の両立という形で、事業全体の経済性とESG評価を高める相乗効果が期待できる。

「総合商社が素材メーカーへの出資を、単体の投資リターンだけでなく、自社の電力・データセンター事業のバリューチェーン強化に結びつけている点が興味深い構図です。素材から事業ソリューションへと価値を積み上げていく手法は、今後も他の商社が参考にする可能性があります」(同)

「地味な部材」が握るエネルギー問題の処方箋

 新規の発電所や送電網の建設が、用地確保や環境アセスメント、地域住民との調整などの面で難航しやすい日本において、既存インフラの「伝送効率化」は、比較的現実的な脱炭素・電力供給不足への処方箋の一つになり得る。もっとも、超電導電線のようにロスを9割以上削減できる技術も存在するが、冷却設備などに伴うコスト面の課題から普及には時間を要するとされており、CFRPコア電線は「今すぐ既存インフラで実行できる」現実解として位置づけられそうだ。

 ビジネスパーソンにとって示唆的なのは、「需要(AI・データセンター)」と「供給(発電)」の間をつなぐ「パイプ(送電)」という、見過ごされがちな領域に着目した点だろう。成熟した市場であっても、既存の仕組みの中の非効率や制約条件を見極めることで、新たな事業機会を見出せる可能性があることを、この事例は示している。もちろん、実用化に向けては電力会社側での実証や認証、コスト対効果の検証など、いくつかのステップを踏む必要があり、今後の進展を注視したい。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=佐伯俊也/エネルギー政策研究家)

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公開:2026.09.10 05:55