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AI半導体の“爆熱”を誰が冷やすのか…8兆円データセンター冷却市場、日本勢の逆襲

2026.07.27 05:55 2026.07.26 22:35 経済
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=岩井裕介/半導体アナリスト・経済コンサルタント

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●この記事のポイント
生成AIの普及でデータセンターの消費電力の4割を冷却が占める中、液冷・液浸冷却への転換が加速。出光興産の冷却油、TDKのFabric8Labs買収、ニデックのCDU増産、三菱重工の液浸システムなど、日本企業が8兆円規模の冷却インフラ市場に参入する動向を解説する。

 生成AIの爆発的な普及により、世界のデータセンター(DC)が悲鳴を上げている。原因はNVIDIA製に代表されるAI半導体の異常な発熱だ。日本経済新聞によれば、データセンター設備の消費電力のうち約4割を冷却が占めるとされ、従来の空冷(エアコン)ではもはや冷やしきれない領域に達しつつある。

 この排熱・電力不足問題の解決策として急浮上しているのが「液冷」技術だ。日経は7月23日、TDKや出光興産をはじめとする日本の異業種企業が相次いで参入する「データセンターの冷却8兆円市場」の活況を報じた。なお、この8兆円という規模観は冷却装置単体ではなく、データセンターを支える周辺設備・関連事業全体を含めた市場規模の試算であり、海外調査会社が算出する「データセンター冷却市場」単体の予測(数千億〜1兆円台規模とする推計もある)とは前提が異なる点には留意したい。市場調査の定義によって数字に幅があること自体が、この分野がまだ発展途上であることの証左ともいえる。

 本稿では、AIインフラを陰で支える「冷却」というテーマを軸に、日本企業の技術力と勝算を整理する。

●目次

AIは世界を止めるのか——「消費電力の4割が冷却」の衝撃

 画像処理半導体(GPU)の性能向上に伴い、1ラックあたりの発熱量は増加を続けている。海外の市場調査会社Precision Reportsの分析では、AIワークロードの拡大によりサーバー1台あたりの熱出力は6割増加したとされ、ラック密度が30kWを超える案件も珍しくなくなった。こうした高密度環境では、空気を送り込むだけの空冷方式では熱源に追いつけず、熱暴走によるシステムダウンのリスクが高まる。

 データセンター運営各社にとって、電力コストは経営を左右する変数だ。冷却効率を1%改善するだけで、大規模施設では年間の電気代に無視できない差が生まれる。ここに、空気を冷やすのではなく熱源へ直接冷却水を通わせる「水冷(direct-to-chip)」や、サーバーごと絶縁性の液体に沈める「液浸冷却」への転換が急速に進む背景がある。

 液浸冷却は電気を通さない冷却油にサーバーを浸すことで、空気の約30倍とされる熱伝達率を実現し、冷却に必要な電力を大幅に削減できるとされる。KDDI、三菱重工業、NECネッツエスアイの3社が2023年に行った実証実験では、液浸冷却により冷却用消費電力を94%削減し、データセンターの電力使用効率(PUE)で1.05という高水準を達成したと発表されている。

「もはや冷却は付帯設備ではなく、AIインフラの性能そのものを規定する主役になった」と、半導体アナリスト・経済コンサルタントの岩井裕介氏は語る。

「GPUの性能競争がいくら進んでも、熱を捌けなければ計算資源はフル稼働できない。冷却技術のボトルネックがAI開発全体の天井を決めてしまう時代に入った」

なぜ石油・電子部品大手が参入するのか——異業種が集まる理由

 液浸冷却の普及に伴い、脚光を浴びているのが冷却油だ。出光興産は2025年4月、データセンター向け液浸冷却油「IDEMITSU ICFシリーズ」を発売した。同社は高引火点でありながら低粘度という相反する性能を両立させた製品を開発し、空冷と比べて冷却に要する電力を90%以上削減できるとしている。同社は10年後に年間25億円の売り上げを目指すと公表しており、石油精製で培った基油の精製・添加剤技術を、データセンターという新市場に転用した格好だ。

 電子部品大手のTDKも2026年6月、米国のスタートアップ企業Fabric8Labsを最大4億ドル(約640億円)で買収すると発表した。同社が持つ独自の金属3Dプリント技術「ECAM」を用いることで、半導体チップに密着させる冷却部品(コールドプレート)内部の流路構造を高精度に作り込み、冷却液との接触面積を最大化できるという。TDKはこの技術をデータセンター向けの熱制御部品として数年以内に市場投入する計画で、従来培ってきた受動部品技術を液浸冷却システム向けにも展開している。

「AI半導体そのものを作る競争は米国勢が圧倒的優位にあるが、『どのAIサーバーが勝っても必ず必要とされるインフラ』を押さえる戦略は、極めて堅実な市場ポジション取りだ。素材・化学・精密加工という日本企業が伝統的に強みを持つ領域と、冷却という物理的な課題の相性は良い」(岩井氏)

冷やす技術は日本の“お家芸”か

 データセンター冷却のサプライチェーンには、精密加工・空調・素材化学など、日本企業が強みを持つ技術が数多く関わっている。

●ニデック 水冷装置(CDU)、モーター技術
タイ工場でCDU生産能力を拡大し、2026年には最大300kWの新型In-Rack CDUの量産を計画。日本経済新聞によれば、水冷装置事業の売上高を2030年度までに現状の3倍超となる1000億円規模へ引き上げる目標を掲げる

●出光興産 液浸冷却油
2025年4月に「IDEMITSU ICFシリーズ」を発売。石油精製の技術を冷却油の低粘度・高引火点設計に応用

●TDK 熱制御部品、受動部品
2026年6月に米Fabric8Labsを買収し、コールドプレート向け金属構造体や液浸冷却対応の受動部品を展開

●三菱重工業 液浸冷却システム、フリークーリング
KDDI・NECネッツエスアイと液浸データセンターの実証を重ね、PUE1.05を達成。2023年には米ZutaCoreに出資しダイレクトチップ液体冷却にも参画。2026年7月には米エヌビディアとAIデータセンター技術での提携も報じられている

●キッツ 産業用バルブ
国内バルブ最大手として、半導体製造装置向けバルブに加えデータセンター分野への投資を発表。タイ工場に新棟を建設し供給体制を強化

●ダイキン工業 空調・液冷システム
世界的な空調機メーカーとして、空冷から液冷までを包括的に提供できる体制を持つ

 これらの企業に共通するのは、AI半導体そのものの開発競争には直接参加せず、「AIが動き続けるための物理的基盤」というポジションを取っている点だ。半導体の世代がどう変わっても、発熱への対処という課題は残り続けるため、参入企業にとっては比較的息の長い需要が見込めるという見立てもできる。

 一方で、楽観だけはできない。米シュナイダーエレクトリック(Motivairを約8.5億ドルで買収)や米Vertivなど、海外の設備大手も液冷分野への投資を加速させており、競争は世界規模だ。日本企業各社にとっては、技術力に加えて生産能力の拡大速度や海外顧客への供給体制構築が、今後の勝敗を分ける鍵になるとみられる。

泥臭いが確実な「インフラ需要」を見極める

 AI半導体市場は米エヌビディアが強い存在感を放つが、それを物理的に支える冷却分野では、日本の素材・精密加工・化学メーカーが裏方として存在感を発揮する余地が広がっている。华やかな「AI銘柄」の陰で進む、地味だが着実な「熱対策・冷却インフラ」への投資動向は、AI産業の成長を測るもう一つの指標になりうる。

 ただし、各社の市場規模見通しには前述の通り幅があり、また液浸冷却における長期的な流体の互換性や、既存データセンターの改修コストといった導入障壁も指摘されている。冷却技術の転換は不可逆的な流れではあるものの、そのペースや恩恵を受ける企業を見極めるには、今後も個別企業の技術発表や受注動向を継続的に注視する必要があるだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=岩井裕介/半導体アナリスト・経済コンサルタント)

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公開:2026.07.27 05:55