鉄鋼は3年ぶり好決算、GM・フォードはコスト最大7千億円増…米製造業が直面する「素材インフレ」

●この記事のポイント
米国の熱延鋼板価格が約4年半ぶりの高値となり、ヌーコアなど米鉄鋼大手は3年超ぶりの好決算を記録した。一方、GMとフォードは2026年の原材料コスト増が2社合計で最大45億ドル(約7000億円)に膨らむ。データセンター需要や関税、日本製鉄とトヨタの鋼板値上げを手がかりに、素材と自動車の力関係の変化を読み解く。
米国の鉄鋼大手が、この3年あまりで最も良い四半期決算を相次いで出した。関税で輸入品が減ったところに、AI向けデータセンターや電力インフラの建設が重なり、鋼材価格は過去1年で5割上がった。一方、その鋼材を大量に使う自動車大手は、原材料高で今期のコストが膨らむ。GMとフォードの2社合計で最大45億ドル(約7000億円)。同じ米国の製造業で、なぜこれほど風向きが違うのか。決算の数字を手がかりに、素材と完成品の間で起きている力関係の変化を整理する。
●目次
- 同じ四半期で分かれた明暗
- 鉄を欲しがるのは、もう自動車だけではない
- 「売れ筋」の大型車ほど、素材高を受けやすい
- 日本は「好況なき値上げ」、日鉄の決算に映る温度差
- 素材を押さえる力が、競争力の源泉になる
同じ四半期で分かれた明暗
数字から見ていく。日本経済新聞によれば、GMとフォードは10月28日までに、鋼材など原材料の高騰による2026年12月期のコスト上昇が2社計で最大45億ドルになると明らかにした。7月末時点の想定から約13%の上振れだ。
フォードは10月28日の決算で、通期のコモディティ(原材料)コスト見通しを約20億ドルから約25億ドルへ引き上げた。理由として挙げたのは、中東の紛争、銅と鋼材の値上がり、燃料費、半導体価格だ。GMはその約1週間前の10月20日、中東情勢を受けた銅・鋼材・軽油の高騰で、通期コストが4億ドル上乗せされると説明した。ポール・ジェイコブソンCFOは「ここ約10週間でかなりのインフレが起きた」と語っている。
ここで注意しておきたいのは、最大45億ドルが「鋼材代」だけの数字ではない点だ。銅や半導体、物流費も含む。ただし日経は、影響が大きいのは鋼材だと報じている。
一方の鉄鋼側。米鉄鋼最大手ヌーコアの7〜9月期の純利益は13億ドルで、会社は「3年以上ぶりの最高の四半期」と位置づけた。レオン・トパリアンCEOは、入社31年で最も強い需要環境だと述べた。業績不振が続いていたクリーブランド・クリフスも、同期に約2年ぶりの最終黒字を確保している。
ただし、自動車大手が赤字に陥っているわけではない。GMの7〜9月期の純利益は33億ドルで、前年同期の2倍を超えた。フォードの中核利益も約27億ドルと微増だ。問題は「稼げていない」ことよりも、稼いだ利益のうち素材の売り手に回る分が増えていることにある。GM株は決算発表当日、200億ドルの自社株買いを発表したにもかかわらず、一時8%を超えて下落した。市場が見ていたのも、このコストの行方だ。
クリフスのセルソ・ゴンサルベスCFOは決算説明で、顧客はいま「価格より数量の確保に関心がある」と述べている。自動車向けに限った発言ではないが、買い手が値段より量を優先する局面では、価格交渉の主導権は売り手に寄りやすい。長く「大口の買い手」として交渉を有利に進めてきた自動車大手にとって、素材の調達環境は確実に変わりつつある。
鉄を欲しがるのは、もう自動車だけではない
米国の鋼材価格はどこまで上がったのか。米スチールベンチマーカーのデータでは、10月12日時点の米国の熱延鋼板価格は1トン当たり1310ドル。約4年半ぶりの高値だ。日経はその背景として、トランプ政権の高関税政策と、AIの普及に伴うインフラ需要の2つを挙げている。
需要の中身は、ヌーコアの決算説明が具体的だ。データセンター向けが受注残全体の約15%を占める。そのほかに同社が挙げたのは、半導体・IT機器関連、ガス火力や原子力などの発電所、LNG輸出基地、電力網、造船、防衛だ。製鋼部門の出荷量は720万トン超と3四半期連続で過去最高を更新。トパリアン氏は、2026年が同社史上3番目に良い年になるとの見方を示した。
供給側の事情もある。ヌーコアによれば、米国の鉄鋼完成品の輸入は前年比13%超減った。関税で安い輸入品が入りにくくなり、旺盛な国内需要を国内勢が取り込んでいる格好だ。
電力インフラで話題になりやすいのが、変圧器の鉄心に使う方向性電磁鋼板だ。米IEEE Spectrumは、この鋼材を半導体に例えている。作れる会社が通常の鋼材よりはるかに少なく、世界の主要メーカーは日本と韓国に偏る。米国内の生産拠点は1カ所しかない。欧州でも域内生産の縮小と輸入の急増を受け、欧州委員会が2026年9月、この鋼材の輸入最低価格を引き上げる暫定措置を提案している。変圧器の供給が追いつかないなかで、素材の確保は各国の政策課題にもなってきた。
「自動車向けの薄板は量がまとまる上客ですが、品質要求が厳しく、年間契約で価格も固定されがちです。建設やエネルギー向けがこれだけ伸びると、鉄鋼側は自動車以外にも売り先を持っているという前提で交渉できる。その差は大きい」(証券アナリスト・堀野剛志氏)
もっとも、鉄鋼大手が自動車を軽んじているわけではない。クリフスの北米自動車向け出荷は2023年7〜9月期以来の高水準だった。ヌーコアも自動車向けの新しいめっきラインを10月に稼働させ、建設中のウエストバージニア州の新工場ではGMのSUV向け外板用鋼板を受注している。需要先が増えたことで、自動車は「唯一の大口顧客」から「有力な顧客の一つ」へと位置づけが変わりつつある、と見るのが実態に近い。
「売れ筋」の大型車ほど、素材高を受けやすい
自動車側には、もう一つ構造的な事情がある。稼ぎ頭が大型車だということだ。
GMは、トランプ政権下の規制変更を受けてEVの生産拡大を大幅に抑えた。その一方で、平均販売価格は5万2000ドルと前年を上回っている。会社側は、大型トラックや高級車への堅調な需要を理由に挙げた。つまり、利益を支えているのはフルサイズのピックアップやSUVだ。
こうした車は車両重量が2トンを超えるものが多い。車体が大きく重ければ、1台に使う金属の量も当然増える。素材の単価が上がれば、その影響は重い車ほど大きくなる。利益率の高い車種ほどコスト上昇も受けやすいという、やや皮肉な構図である。
ただし「大型車=鉄の塊」と単純化すると実態を見誤る。フォードの主力「F-150」は車体外板にアルミを多用しており、同社は2025年、アルミの主要調達先であるノベリスの工場火災で大きな減産を強いられた。今回のコスト増も、鋼材に加えて銅や半導体、燃料が絡んでいる。大型車が受けるのは、鉄だけでなく金属素材全般の値上がりだと考えた方がよい。
「大型トラックは値付けに余裕があるので、ある程度は価格に転嫁できます。ただ、車両価格はすでに高い水準にあり、金利次第では需要が鈍る心配もある。素材高をどこまで値上げで吸収するか、各社は難しい判断を迫られています」(自動車アナリスト・荻野博文氏)
経営陣の発言にも慎重さがみえる。GMのメアリー・バーラCEOは、2027年は26年を上回るという見方を維持しつつ、その前提として「顧客の需要が強いままで、素材や物流などのコスト圧力が和らぐこと」を挙げた。フォードのシェリー・ハウスCFOも、27年の中核利益は26年とおおむね同水準との見通しを示している。素材市況が足元の業績を左右する変数になったことを、両社とも隠していない。
日本は「好況なき値上げ」、日鉄の決算に映る温度差
日本に目を向けると、様子はかなり違う。
トヨタ自動車は日本製鉄との交渉を踏まえ、2026年度下期(10月〜27年3月)に部品メーカーへ供給する鋼板の価格を、上期比で1トン当たり1万2000円程度引き上げる。引き上げは4年ぶりだ。トヨタは部品会社向けの鋼材もまとめて買い付ける「集中購買」をとっており、その価格は鉄鋼業界で「ひも付き価格」の指標として注目される。日経は、今回の値上げの理由を原料高と報じている。
日本の値上げは、米国のような需要主導ではない。それを示すのが、日本製鉄が8月4日に公表した2026年度の業績見通しだ。
区分(実力ベース事業利益) 5月時点 8月時点 増減
国内 4700億円 3800億円 ▲900億円
海外 2300億円 3200億円 +900億円
うちUSスチール 1000億円以上 1800億円以上 +800億円
出典:日本製鉄「2026年度第1四半期決算」説明資料
国内は原燃料高を販売価格に全ては転嫁しきれず、中東情勢の影響も加わって下方修正となった。その減少分を、米国で価格上昇の恵みを受けるUSスチールが埋めている。同じ企業の決算のなかに、日米の温度差がそのまま表れている。
日本の自動車大手にとって、米国の素材高は他人事ではない。北米の工場では現地の鋼材を使うからだ。カナダからの鉄鋼・自動車輸入への米関税が27年1月1日に引き上げられる予定について、ホンダの幹部はロイターのイベントで「壊滅的」になりうると警告した。
「日本では、鉄鋼と自動車が半年ごとに価格を詰める慣行が根付いています。鉄鋼側は脱炭素への巨額投資を抱え、自動車側も高品質な鋼材を国内で確保し続けたい。一方的な力関係ではなく、互いの事情を数字で示して納得を得る交渉へと、ゆっくり変わってきているように見えます」(同)
中小型車やハイブリッド車を主力とする日本勢は、1台当たりの素材量という点では、大型車への依存度が高い米系より影響を受けにくい構造だとは言える。ただし日本勢も北米では大型SUVやピックアップを販売しており、関税や素材高の影響がどの程度になるかは、今後の決算で確認していく必要がある。
素材を押さえる力が、競争力の源泉になる
今回の明暗から読み取れるのは、付加価値の配分が少しずつ変わっていることだ。完成車メーカーが部品や素材を安く調達し、利益の大きな部分を手にする。その前提は、買い手が少なく売り手が多いという需給の上に成り立っていた。AIや電力インフラという新しい大口需要が生まれ、関税で輸入も絞られた。前提が崩れれば、力関係も動く。
ただ、この状態がずっと続くとは限らない。追うべき変数は少なくとも3つある。
1.通商政策の行方。カナダとの関税交渉や米メキシコ間の合意次第で、鋼材と部品の調達コストは大きく変わりうる。
2.供給力の増強。ヌーコアはウエストバージニア州の新工場を27年初めから本格的に立ち上げる。ここ数カ月は、韓国などからの輸入も再び増え始めている。
3.需要の持続力。米国では、許認可や人手不足、変圧器など電気設備の不足でデータセンター計画の遅延も指摘されている。
自動車大手にとっては、市況の反転を待つだけでは不十分だろう。素材メーカーと複数年で数量と価格を決める長期契約、新工場への初期からの参画、そして車体構造や素材構成の見直し。GMがヌーコアの新工場から外板用鋼板を調達するのも、そうした関係づくりの一例と読める。半導体でも今夏、GMとフォードがマイクロンと長期の供給契約を結んだ。調達の物差しが「値段を下げる」から「必要な量を確保する」へ移っている。
「鉄は国家なり」という言葉がある。そのままの復活とまでは言えない。ただ、基幹素材を安定して手に入れられるかどうかが、完成品メーカーの競争力を左右する時代に入ったことは確かだろう。今回の決算は、そのことを数字で示したものだといえる。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=荻野博文/自動車アナリスト)
【主な参照データ・出典】
Reuters(MSN配信)「Ford’s third-quarter core profit ticks higher despite rising commodity costs」2026年10月28日
AFP(MSN配信)「Solid GM results overshadowed by latest jump in commodity costs」2026年10月20日
MarketBeat(Yahoo Finance配信)「What Nucor (NUE) Said on Its Q3 Earnings Call」2026年10月27日
24/7 Wall St.「Nucor’s CEO Says He’s Seeing the Strongest Steel Demand in His 31 Years at the Company」2026年10月29日
Manufacturing Dive(Yahoo Finance配信)「Cleveland-Cliffs posts ‘strongest’ quarter in three years: CFO」2026年10月20日
日本製鉄「2026年度第1四半期決算説明資料」2026年8月4日
IEEE Spectrum(AOL配信)「Transformer Steel Becomes a Trade Flashpoint in Europe」2026年10月15日
Stacker「Tech companies need more data centers. So why are nearly half of all planned projects delayed or canceled?」2026年10月19日










