フォード、シャオミとの合弁報道が示す真意…欧米・日本勢のEV戦略にも影響か

●この記事のポイント
米フォード・モーターが、中国の小米(シャオミ)やBYDとEV生産に関する合弁会社設立を協議しているとの報道が波紋を広げている。EV部門「Model e」は2025年に約80億ドル(約1.2兆円)の純損失を計上し、黒字化は2029年の見通し。背景には、中国勢の圧倒的な電池内製化、低コストサプライチェーン、SDV(ソフトウェア定義車両)開発力がある。フォードが中国企業のOSや電池技術を取り込めば、価格競争力は向上する一方、技術主導権喪失のリスクも抱える。欧州勢のEV戦略後退、日本のトヨタ・ホンダの中国協業拡大も含め、自動車産業の主権が「エンジン」から「ソフト」へ移行する構造変化を分析する。
かつて世界の道路を支配したデトロイトの巨人が、いまや中国テック企業との連携を模索している――。
米フォード・モーターが、中国の小米(シャオミ)やBYDとEV(電気自動車)生産に関する合弁会社設立を協議しているとの報道は、単なる業務提携の話ではない。そこに透けて見えるのは、自動車産業の主役がハードウェアからソフトウェアへ、そして欧米から中国へと移ろうとしている構造転換だ。
本稿では、フォードの経営状況、提携の損得、欧州勢の苦境、そして日本メーカーへの波及までを多角的に検証する。
●目次
数兆円規模の赤字が迫る「自前主義」の限界
フォードのEV部門「Model e」は、戦略転換に伴う特別損失を含め、2025年通期で約80億ドル(約1.2兆円)の純損失を計上。さらに今後3年間で数兆円規模の追加投資を予定しているが、黒字化の見通しは2029年前後とされる。
背景には、以下の構造的問題がある。
・EV価格競争の激化(テスラ・中国勢の値下げ攻勢)
・電池コストの高止まり
・ソフトウェア開発の遅れ
・EV需要の減速
自動車アナリストの荻野博文氏は次のように語る。
「フォードの問題は資金不足ではなく“時間不足”です。中国勢は5年でEVとソフトの統合モデルを完成させたが、欧米勢は同じことに10年かかる構造にある」
つまり問題は資金力ではなく、開発スピードと統合能力だ。
EVは「走るスマホ」へ
シャオミはスマートフォンで培ったOS開発力、ユーザーインターフェース設計、サプライチェーン統合能力を武器にEV市場へ参入。初の量産EV「SU7」は価格とデジタル体験の両立で注目を浴びた。
EVの価値はもはや航続距離や加速性能だけではない。OTA(無線アップデート)、車内エコシステム、アプリ連携、AI音声アシスタント、データ活用といった「体験価値」が差別化の核心になっている。
フォードがシャオミやBYDと組むメリットは明確だ。(1)中国式の超効率サプライチェーン導入、(2)電池内製ノウハウ活用、(3)SDV(ソフトウェア定義車両)開発の加速、(4)低価格EVの迅速投入である。一方で、OS・ソフト主導権の喪失、技術空洞化、ブランドの“外装化”といった大きなリスクがある。
「もしOSを中国側に握られれば、フォードは“車体を作る企業”に後退しかねない。スマホ業界でハードメーカーがOS企業に従属した構図と同じ現象が起きる可能性がある」(荻野氏)
欧州勢の崩れたEV神話
フォードだけが苦しんでいるわけではない。独フォルクスワーゲンは巨額のEV関連引当金を計上し、メルセデス・ベンツは2030年完全EV化目標を事実上修正。GMもEV戦略縮小で特別損失計上している。欧州はEV政策で先行したが、需要減速と価格競争で苦境に陥った。
「欧州勢は“環境規制が市場を作る”と考えたが、最終的に市場を支配したのはコストとソフトだった。中国勢はそこを徹底的に磨いた」(同)
米政界では対中強硬姿勢が続く一方、中国企業が米国内で生産・雇用を創出する形態については一定の容認論もある。100%関税で輸入EVを遮断しつつ、現地生産型合弁を通じて技術を取り込む――。これは1980年代に日本メーカーが辿った道を逆再生する構図だ。
「米国は製造業雇用を守ることを優先する。中国企業が資本と技術を持ち込み、米国内で生産するなら政治的許容度は高まる」(同)
つまり、フォードは地政学的“抜け道”を利用しようとしている可能性がある。
日本勢に突きつけられた「究極の選択」
フォードの動きは、日本メーカーにも深刻な問いを投げかける。
1. ハイブリッド優位は続くのか
トヨタはハイブリッド車(HEV)で好調を維持している。しかし、中国式低価格EVが北米で量産されれば、構図は変わる。
3万ドル前後の高機能EVが普及すれば、価格帯が重なる可能性がある。だが、「ハイブリッドは過渡期の最適解だが、SDV時代の最終解ではない。ソフトで差をつけられれば価格競争に引き込まれる」と警鐘を鳴らす。
2. SDV競争の遅れ
シャオミの強みは「デバイス統合」。スマホ・家電・車が一体化する体験設計は、日本メーカーが最も苦手とする領域だ。トヨタやホンダもソフト開発を強化しているが、デジタル企業との文化差は大きい。
3. すでに始まる中国との連携
実際、日本勢も中国企業と協業を進めている。
トヨタ:BYD技術活用EV展開、中国IT企業とAI連携
ホンダ:CATL・華為技術との協業深化
つまり「自前主義」はすでに揺らいでいる。
自動車産業の主権はどこへ
内燃機関時代、自動車の価値はエンジン性能だった。EV時代、価値の中心は電池とソフトウェアへ移った。その両方で中国企業は優位にある。フォードがシャオミやBYDと組むことは、単なるコスト削減策ではない。それは「産業主権の再配分」に踏み込む行為である。
「EVは製造業というよりデータ産業に近い。OSを握る企業が利益の大半を取る構造に変わる可能性が高い」(同)
フォードが中国勢と組めば短期的な競争力は回復する可能性がある。しかし長期的には、ブランドが“殻”になり、中身は中国製という構図も想定される。
これはフォードだけの問題ではない。欧州も、日本も、同じ問いに直面している。自前で遅れて沈むか、中国と組んで主導権を一部手放すか。あるいは独自のソフト基盤を構築できるかーー。
100年に一度の変革と言われたEVシフトは、いまや最終局面に入った。「誰が車を作るのか」ではなく「誰が車を制御するのか」。その問いへの答えが、次の10年の覇者を決める。
フォードの選択は、単なる経営判断ではない。それは自動車産業の地図を書き換える分水嶺である。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=荻野博文/自動車アナリスト)











