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フジテレビ営業赤字33億円改善…広告93%回復と「脱・放送」戦略の真価

2026.02.17 2026.02.16 23:58 企業
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FCGビル(「Wikipedia」より)

●この記事のポイント
フジ・メディア・ホールディングスが2026年3月期の連結業績予想を上方修正し、営業赤字は従来105億円から72億円へと33億円改善した。背景には、2025年の不祥事後に進めたガバナンス改革と制作費の聖域なき見直しがある。今年1月の地上波広告取引社数は前年同月比93%まで回復し、スポンサー離れからの急反転が鮮明だ。さらに、TVerやFODを軸とした配信連動型のIP収益モデル、2026年サッカーW杯放映権を起点とするデジタル展開など、「脱・放送」戦略が加速。

 かつて「視聴率三冠王」として時代を象徴したフジテレビ。その看板は長らく色あせ、近年は「不動産頼み」「テレビ離れの象徴」とまで言われてきた。だが2026年、同社を巡る風向きが変わりつつある。

 フジ・メディア・ホールディングス(HD)が発表した2026年3月期の連結業績予想の上方修正は、その象徴だ。営業損益は72億円の赤字見込みと依然マイナス圏ではあるが、従来予想の105億円の赤字から33億円も改善。市場関係者の間では「想定以上の立て直し」との声が広がっている。

 その原動力は何か。キーワードは「広告の急回復」と「聖域なき構造改革」、そして「脱・放送」だ。不祥事という逆風を、結果的に組織改革のレバレッジ(梃子)に変えた点にこそ、今回の転換の本質がある。

●目次

「1月93%回復」が意味するもの…スポンサーはなぜ戻ったか

 2025年、フジテレビはガバナンスを巡る不祥事に直面し、スポンサー離れが加速。広告収入は急減し、業界内では「構造的低迷が決定的になった」との見方も少なくなかった。

 しかし、今年1月の地上波広告取引社数は前年同月比93%にまで回復。広告代理店幹部はこう語る。

「スポンサーが最も恐れるのは“説明不能なリスク”です。不祥事後の経営陣刷新とコンプライアンス強化、そして制作費の透明化が進んだことで、『リスク管理可能な局』という評価に変わりつつあります」

 重要なのは「視聴率が劇的に上がった」から広告出稿が戻ったのではない点だ。広告主が評価したのは、ガバナンス体制の可視化とコスト構造改革、つまり企業としての健全性である。戦略コンサルタント・高野輝氏は次のように指摘する。

「地上波広告市場は縮小傾向にありますが、完全に消えるわけではありません。問題は“誰に出すか”。リスクを抱えた局より、再生途上でも改革を明示できる局に広告は戻る。フジの回復はその典型例です」

 年内に取引社数100%回復の可能性も視野に入るなか、広告主との関係性は量より質へと再設計されつつある。

不祥事が突破口に…「昭和型テレビ局」の解体

 テレビ局における制作費や人件費の削減は、既得権益との衝突を伴う。とりわけ長寿番組やスターシステムに支えられた編成は「聖域」となりがちだ。だが今回の危機は、その聖域を一気に崩した。

 社内関係者によれば、「これまでのやり方では立ち行かない」という共通認識が、制作フローや外注構造の抜本的見直しを後押ししたという。制作費は単なる削減ではなく、「投資対効果」の徹底評価へと移行。放送単体で採算を取るモデルから、配信・二次利用を前提とした設計へと標準化が進む。

 TVerや自社配信サービスFODとの同時展開を前提に企画が立ち上がり、放送後の海外販売やIP展開まで含めた収益設計が行われる。

「日本のテレビ局は長らく“放送出し切り型”でした。今回の改革は、IP企業への転換を本気で進めるもの。制作費削減は目的ではなく、IP回収モデルへの構造転換が本丸です」(同)

 つまり、コスト削減は「筋肉質化」の一環であり、単なる守りではない。

W杯放映権に見る「攻めの投資」

 守り一辺倒ではない。2026年サッカーW杯の放映権獲得は、その象徴だ。

 放映権ビジネスは従来、「視聴率勝負」の消耗戦だった。しかし現在は、地上波を巨大なプロモーション装置と位置づけ、そこからデジタル広告、見逃し配信、有料コンテンツ、関連IP販売へと多層展開する戦略へと変貌している。

「W杯は単なるイベントではなく、トラフィックの爆発装置。地上波で認知を最大化し、配信でデータを取得し、IPで長期収益化する。テレビ局がプラットフォーム企業に近づくための試金石です」(同)

 放送事業で“種をまき”、デジタルで“刈り取る”。この循環モデルが機能すれば、放映権は赤字覚悟の象徴ではなく、戦略投資となる。

「不動産依存」からの脱却は本物か

 フジ・メディアHDの安定収益源は長年、不動産事業だった。お台場を中心とした不動産収益が、メディア事業の赤字を補完する構図が続いてきた。

 だが、メディア事業の収益改善が進めば、ポートフォリオは変わる。

「これまでのフジは“テレビ局を抱える不動産会社”と揶揄されてきました。メディア事業が改善すれば、企業価値評価の軸が変わる。IPやデジタル収益が持続的に伸びれば、バリュエーションは再評価される可能性がある」(同)

 もちろん、不動産の安定性は依然重要だ。しかし、メディアが再び成長エンジンになれば、グループ全体のリスク分散はより健全化する。

若年層の「テレビ離れ」という壁

 ただし、構造課題は消えていない。総務省の統計でも若年層のテレビ視聴時間は減少傾向にある。広告市場もデジタルシフトが加速する。

 ここで問われるのは「テレビをどう定義するか」だ。

「テレビというハードウェアは衰退しても、映像コンテンツ需要は減っていません。問題は配信基盤とデータ活用。IP企業へ転換できるかどうかが分水嶺です」(同)

 フジテレビの挑戦は、テレビ局の再生モデルそのものを問う実験でもある。

「解体的新生」は本物か

 不祥事は企業にとって致命傷になり得る。だが、組織の硬直を壊す触媒にもなる。

 今回の業績改善は、黒字化達成そのものよりも、構造改革が実行段階に入ったことを示す点に価値がある。広告93%回復は象徴であり、真の勝算はIP再設計とデジタル循環モデルの確立にある。

 とはいえ、楽観は禁物だ。放送市場の縮小は不可逆的であり、デジタル競争は熾烈だ。だが、不祥事を経て「放送を守る」のではなく、「放送を再定義する」方向へ舵を切った点は評価できる。

 フジテレビは今、テレビ局という枠を超え、「コンテンツ・プラットフォーム企業」への転換を賭けた勝負に出ている。

 2026年3月期の黒字転換が実現するか否かは一里塚に過ぎない。本当の試金石は、数年後、メディア事業がグループの価値を牽引できるかどうかだ。

 どん底を見た組織は強い、といわれる。フジテレビの“解体的新生”が一過性の反動か、それともテレビ業界再編の号砲となるのか。答えは、IPとデジタルの成長曲線が描く未来に委ねられている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=高野輝/戦略コンサルタント)