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フジテレビ、どん底から早くも回復&成長か…「失われた信頼」をどう取り戻した?

2025.11.13 2025.11.13 00:18 企業
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FCGビル(「Wikipedia」より)

●この記事のポイント
・フジ・メディアHDは広告回復と動画配信・不動産事業の伸長により業績予想を上方修正。財務体質も業界最高水準で、再成長の兆し。
・地上波依存から脱却し、「配信×IP×不動産」の三本柱による経営転換を進行。守りのコスト削減から選択的成長フェーズへ。
・広告市場の再構築と若手主導の制作改革により、フジテレビは“放送局”から“メディア総合商社”への変革を目指している。

 フジ・メディア・ホールディングス(以下、フジHD)は11月10日、2026年3月期連結業績予想を上方修正した。営業損益は従来予想より15億円改善の105億円の赤字、最終損益は185億円の黒字へと転じた。経営不祥事に伴うCM出稿減など逆風が続くなか、動画配信事業やIP(知的財産)ビジネスが堅調に伸びたこと、さらに広告収入が想定以上に回復したことが主因だ。

 とはいえ、フジテレビ単体では依然として厳しい。2025年度上期の売上高は前年同期比47.5%減の606億円、最終損益は301億円の赤字。キー局最下位とされてきたテレビ東京HDが同期間に売上799億円、純利益49億円を確保したことと比較すれば、単体ベースでのフジテレビの地盤沈下は明らかだ。それでも、連結ベースでは売上減は1%にとどまり、グループとしては一定の持ちこたえを見せた。

●目次

「広告の回復」は一過性か、それとも底打ちか

 広告市場は長らくテレビからネットへシフトしてきた。電通の「日本の広告費」(2024年版)によれば、テレビメディア広告費は前年比97.8%、一方でインターネット広告費は前年比113.4%と拡大を続ける。

 それでも、フジの広告出稿が回復した背景には二つの要因がある。

「第一に、地上波の広告信頼性。企業にとってコンプライアンスリスクを避けたい局面では、SNSや動画広告よりも『一定の編集基準を持つテレビ』に出稿するほうが安全だと判断する傾向が再び強まっています。

 第二に、タイムCM(番組連動型)の回復。特にドラマ枠やスポーツ中継枠では、リアルタイム視聴が維持されており、ブランド訴求効果を重視する広告主の戻りが見られます。

 ただし、単価の回復には時間がかかるので、キー局の広告営業関係者からは『枠自体は埋まりつつあるが、単価は以前より1~2割下げざるを得ない』との声も聞きます。フジの黒字化は、売上回復というよりコスト削減による“守りの黒字”であることを踏まえる必要があります」(戦略コンサルタント・高野輝氏)

収益の二本目:動画配信・IPビジネスの台頭

 フジHDのなかで、明るい材料とされているのが動画配信とIP活用だ。

「同社の動画配信サービス『FOD』は、会員数が2024年度に300万人を突破。売上は前年度比で2桁増を維持しており、TVerとの協業で広告型(AVOD)とサブスク型(SVOD)のハイブリッド収益モデルを強化しています。

 また、ドラマやバラエティ番組の海外向けフォーマット販売、人気コンテンツの二次利用(舞台化、グッズ化、YouTube配信)が増加。かつて“お台場発のヒットメーカー”として君臨したフジが、知的財産を再定義し収益化するフェーズに入ったといえます。

 特に2025年以降は、生成AIを用いた自動翻訳・字幕生成が進むことで、アジア市場への番組展開コストが急減。TBSがすでに中国・タイ・フィリピン向けに進出しているのに対し、フジは東南アジアを中心としたフォーマット輸出を強化しています」(同)

収益の三本目:不動産・ライツ事業が支える「地上波依存からの脱却」

 見逃せないのが、フジHD全体の安定収益源である不動産事業だ。

「台場・青海エリアを中心とした不動産賃貸・管理事業は、連結売上の約25%を占めています。特に『アクアシティお台場』『ダイバーシティ東京』などの商業施設は、インバウンド回復によりテナント収入が堅調に推移しています。

 フジサンケイビジネスアイなど新聞・出版関連を含むライツ事業も依然として黒字です。さらに2024年以降は、メタバース型イベントやVTuberコラボ番組など、放送外領域での収益モデルの実験が進んでいます」(同)

 これらの動きは、テレビ東京HDが早期に「IP・不動産の複合経営」に転じた成功例に近い。

業界全体:地上波の「構造的限界」

 テレビ業界全体では、視聴率と広告の構造的な乖離が進む。視聴率は世帯単位で下降する一方、TVerなどの同時配信を含む「総接触時間」は増加。つまり、“見ているのにカウントされない”視聴が増えている。

 この構造的課題に対し、広告主側では「テレビ×デジタル」の統合指標(クロスメディアリーチ)を重視する傾向が強まり、キー局各社はデジタル営業部門を強化。日テレHDは自社データ基盤「DTCプラットフォーム」を拡張し、TBSは「コンテンツプロデュースカンパニー」への転換を進める。

 こうしたなか、フジHDも「放送局」ではなく「メディア総合商社」への変革を打ち出している。

フジHDの財務構造を読む:「縮小均衡」から「選択的成長」へ

 フジHDの2025年3月期連結決算(実績)は以下の通り(IR資料より)。

 売上高    約6200億円(△1.2%)
 営業利益   約70億円(△35.6%)
 当期純利益  約125億円(+10.4%)
 自己資本比率 約77%(業界最高水準)

「この『自己資本比率77%』は極めて高いです。つまり、借入金依存度が低く、財務体力は健全。他方で、広告・番組制作費など変動費の圧縮が進んでおり、守りの経営への傾斜も明らかです」(同)

 投資家からは、「縮小均衡のなかで利益を出しているが、成長の芽が見えにくい」との評価がある一方で、動画配信や不動産の利益率向上により選択的成長が可能なポートフォリオ企業へと変わりつつある。

「再成長」のカギ:人材とデジタルの融合

 フジテレビは過去数年、番組制作費の抑制と同時に中堅層の退職が相次ぎ、「現場の若返り」が進んだ。その結果、FODオリジナルドラマやYouTube番組、TVer連携コンテンツなどで、20~30代プロデューサーの名前が増えている。社内データ分析部門(フジ・デジタルデザインラボ)も拡充され、視聴データ・SNS分析を基にした番組開発体制が確立しつつある。

「これはつまり、“お台場バラエティのノリ”を捨てずに、データとAIで磨き直すという方向性です。生成AIを活用したシナリオ補助、効果測定AIによるCMパフォーマンス最適化など、制作現場のデジタル化が静かに進んでいると考えられます」(同)

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「この比較で注目すべきは、フジだけが三事業をバランスよく持つ点です。他局が『放送×配信』に集中するなか、フジは『放送×配信×不動産』で固定費を支え、成長領域に投資できる余地を確保しているのです」(同)

 フジテレビは長く「視聴率の凋落」「お台場バブルの崩壊」と揶揄されてきた。だが、収益の多層化と財務の健全性を両立できている唯一のキー局でもある。

 もし、CM単価の完全回復がなくとも、動画配信や不動産収益で地上波の赤字を吸収できる体制が整いつつある。地上波を軸に据えた時代は終わった。しかし「テレビ=巨大な広告プラットフォーム」という構造は変わらない。

の構造を再設計し、次の10年を描けるかどうか――。フジHDの再成長は、「テレビ産業の再定義」の試金石となる。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)