幹部社員が女子アナウンサーを接待や懇親会の席などに同席させていた疑いが浮上しているフジテレビジョン。CM放送の中止を決めた企業が70社以上にまで増え、8割以上のCMがACジャパンの公共広告に切り替わった番組も出ている。テレビ局にとってスポンサー企業から得る広告収入は主要な収入源であるため、それが大きく落ち込めばフジテレビ、そして親会社のフジ・メディア・ホールディングス(HD)を頂点とするフジ・メディアグループ全体の経営が揺らぐ事態になるのではないかという見方も強まっている。だが、識者は「経営悪化は一時的なもので終わるのはまず間違いない」と指摘するが、その理由は何なのか。
フジテレビの番組にレギュラー出演していた中居正広さんと女性との間でトラブルが起きた会合に、同局の幹部社員が関与していた疑いが持たれている問題が、同局の経営を揺るがす事態に発展している。問題が報じられた当初、同局は「当該社員は会の設定を含め一切関与しておりません」と否定コメントを発表していたが、同局の港浩一社長をはじめ幹部社員が日常的に外部の関係者との接待の席にアナウンサーを同席させ、不適切な行為が行われていたとも報じられ、親会社フジ・メディアHDの大株主である米投資ファンド、ダルトン・インベストメンツなどから第三者委員会の設置による正式な調査などを要求される事態に発展。これを受け、港社長ら経営陣は17日、記者会見を実施したが、出席するメディアを記者クラブに加盟する社に限定し、会見の模様の映像の撮影を禁止。さらに、立ち上げる調査委員会を日弁連の定義に基づく第三者委員会の形態にはしないと説明したことを受けて疑問が拡大。
21日付けでダルトンは再度、フジHDに対して書簡を送付し、「ガイドラインに基づかない第三者委員会を発足させようとしていることは、真相隠蔽を意味する」「何故限られたメディアしか参加させなかったのか」「なぜ港社長は質問のほとんどに答えなかったのかという疑問が残りました」と同局の姿勢を問題視した上で、今週中にも映像撮影を許すかたちでの会見を実施することを要求している。これを受けフジテレビは27日にオープンなかたちで会見を開催すること、そして日弁連のガイドラインに準拠した第三者委員会を設置することを発表した。
17日の会見を受けて素早い対応を見せたのがスポンサー企業だ。会見翌日18日にはトヨタ自動車や日本生命保険など大手企業がフジテレビ番組でのCM放送の見合わせを発表し、この動きに追随する企業が続出。その数は現時点では70社以上に上っている。
出稿停止は長期化する可能性も
気になるのはフジテレビの経営への影響だ。2024年4~9月期の同局の売上高は1156億円、営業利益は5億200万円。主な収入である放送収入は番組内のCM放送枠の「タイム」が368億円、それ以外の「スポット」が343億円で計約712億円。1月は例年、4~6月期分の放送広告についてテレビ局とスポンサー企業が協議・契約をする時期だが、一連の不祥事で仮に4月から半年間、放送収入が得られなくなれば、700億円規模の売上減となり、赤字転落は必至だ。
「スポンサーがつかないとなれば新番組も始められない。これはイコール視聴率の悪い番組を打ち切れないということなので、視聴率面でも大きなマイナスの影響が生じる」(テレビ局関係者)
もっとも、フジ・メディアHD全体の売上高のうち、フジテレビが占める比率は約4割。そのほかにポニーキャニオンなどのコンテンツ事業、サンケイビルやグランビスタ ホテル&リゾートなどの都市開発・観光事業も展開しており、営業利益ベースではグループ全体の6割が都市開発・観光事業によるものとなっている。経済評論家で百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏はいう。
「フジテレビの持ち株会社であるフジ・メディアHDは、事業構造としては営業利益の半分以上に相当する年間195億円を不動産事業で稼いでいることは事実です。大手町のサンケイビルをはじめ、東京・大阪に優良な不動産を所有しているため、企業としての収益構造には余裕があります。一方でメディアコンテンツビジネスの主力であるフジテレビは、事業構造としてはスポンサー広告の売上収入を前提に番組コンテンツを制作しています。そこには営業コストが年間で2300億円もかかるので、スポンサー収入がゼロになってしまえば早晩テレビ放送は立ち行かなくなります。
今フジテレビが直面しているスポンサーの出稿停止は、短期的にはスポンサーの判断で予約した枠をACの広告に切り替えるかたちなので、実はフジテレビには契約どおりのスポンサー料が入ってきます。ただ今回の問題はかなり大きいため、出稿停止は長期化する可能性があります。ここがフジテレビの資金繰りに大きな影響をおよぼします。
仮に1クール、3カ月以上スポンサーがフジテレビを使わないといった事態が起きれば、フジテレビはあっという間に大幅な赤字に転落するでしょう。そこまで事態を大きくしないことが、企業を存続させるうえでは必須要件です。経営陣としては3月の第三者委員会の報告を機に、関係者の責任を明確にしたうえで対策を打ち出すことで、3カ月以内にスポンサーに戻ってきてもらえるように着地できるかどうかが大きなポイントになります」
スポンサーは段階的にフジテレビへの広告を再開する
では、フジテレビの分社化や破綻、フジHDの経営悪化というシナリオは現実にはあり得るのか。
「これは第三者委員会の報告内容次第でしょうが、よほどの不正が発覚しないかぎりはフジテレビが破たんするような状況には至らないでしょう。破たんのシナリオとしては、総務省が放送免許の停止に動くことや、フジテレビを強制的に新会社に営業譲渡させて一時的に国営化するような場合がケースとしては考えられます。そこまでの重い処分が下るのは、一部の関係者だけでなく、会社ぐるみで性犯罪に関与していたようなことが発覚するケースですが、その可能性は低いと考えます。
不正が一部の社員に限定されたかたちで事が決着すれば、スポンサーは段階的にフジテレビへの広告を再開するでしょう。実はこういったときのために、テレビ局はスポンサー企業幹部の子息と有力政治家の子息を大量に採用しています。経営悪化は一時的なもので終わるのはまず間違いないと考えます」
(文=Business Journal編集部、協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)