幹部社員が女子アナウンサーを接待や懇親会の席などに同席させていた疑いが浮上しているフジテレビジョン。同社の港浩一社長ら経営陣は17日、記者会見を実施したが、出席するメディアを記者クラブに加盟する社に限定し、会見の模様の映像の撮影を禁止した点や、立ち上げる調査委員会を日弁連の定義に基づく第三者委員会の形態にはしないと説明した点、外部関係者との懇親会での女性社員への不適切な行為の存在を明確に否定しなかった点などに批判が寄せられている。会見を受けトヨタ自動車や日本生命保険、NTT東日本などスポンサー企業が相次いで広告出稿を止めることを表明。市場関係者の間では親会社フジ・メディア・ホールディングス(HD)の上場廃止も取り沙汰されているという。幹部社員による問題のある行為や慣習、コンプライアンス不備などが原因で上場廃止となる可能性というのは、あるものなのか。
フジテレビは番組にレギュラー出演する中居正広さんが女性との間でトラブルを抱えていることを2023年6月の段階で把握していたが、中居さんが出演する番組を継続させていた。中居さんと女性とのトラブルが起きた会合に同局の幹部社員が関与していたと報じられている点について、フジテレビは公式サイト上で「当該社員は会の設定を含め一切関与しておりません」と否定コメントを発表していたが、会見で「会合があって問題が起きた当日は職員の関与がないということかもしれないが、女性と中居さんを引き合わせた前段で、何か接待を促すような関与がなかったのか」という質問に対し、港社長は「当該の会については関与を明確に否定します。それ以外に関して、どういういきさつだったかは、我々もまだ分かりません」と回答。被害にあった女性が証言している、中居さんとの会合にフジテレビ幹部社員が関与していたとする内容と食い違っていると指摘されると、港社長は「調査委員会に委ねられる事案」として回答を避けた。
このほか、港社長自身が過去に外部の関係者との接待の席に女子アナウンサーを呼んで同席させていたという報道については「アナウンサーとかいますし」「基本、自由参加」などと説明。社員が女性とタレントを2人きりの状態にして接触させることが常態化しているという報道については、「私はそういうことはなかったと、信じたいと思います」「調査委員会に委ねたいと思います」と述べた。
「フジテレビ経営陣の誤算は大きく2つ。港社長をはじめ管理職や幹部クラスの社員が、以前から日常的に自社のアナウンサーなど女性社員を接待の場に同席させていたと報じられた点。そして、これが引き金となって親会社フジHDの大株主が第三者委員会の設置による正式な調査などを正式に要求してきた点。これでフジ経営陣は完全に詰んだ。とりあえずすぐに会見を開かなければならなくなったわけだが、フジテレビ黄金期にバラエティ制作現場のど真ん中にいた港社長自ら、そのような接待や懇親会をやっていたことはフジ以外の局の人間でも知っており、それゆえに会見で見せたような歯切れの悪い回答しかできない。フジは社内の力関係的にアナウンス室の力が弱く、制作局や営業局から言われると断れない空気があり、タレントや芸能プロダクションとの懇親会以外にも、スポンサー企業との会食やイベントなどにもアナウンサーが駆り出されてきた。また、制作局からの要請を断れないので、一部の人気アナに出演番組が集中するという事態が起きる。
今回の問題の発端は中居さんの一件だが、ここまでスポンサー離れが起こると、経営陣・幹部の刷新と抜本的な経営改革が避けて通れなくなった。ただ、視聴率の低迷も続いており、長期的なフジの存続という観点では、ここで膿を一気に出し切って再出発を図るというのは好都合かもしれない」(キー局プロデューサー)
特別注意銘柄
そのフジテレビの親会社フジHDをめぐって、東京証券取引所プライム上場廃止の可能性が市場関係者の間から指摘されている。
東証に上場する企業は以下事項に該当した場合、東証から特別注意銘柄に指定され、指定から1年経過後の審査において内部管理体制等が適切に整備されていると認められない場合、または適切に運用される見込みがなくなったと認められる場合、上場廃止となる。
・上場会社が有価証券報告書等に虚偽記載(有価証券上場規程第2条第30号)を行った場合
・上場会社の財務諸表等に添付される監査報告書等において、公認会計士等によって、「不適正意見」又は「意見の表明をしない」旨が記載された場合。ただし、「意見の表明をしない」旨が記載された場合であって、当該記載が天災地変等、上場会社の責めに帰すべからざる事由によるものであるときを除く。
・上場会社が適時開示に係る規定に違反したと東証が認めた場合
・上場会社が企業行動規範の「遵守すべき事項」に係る規定に違反したと東証が認めた場合
・上場会社が適時開示・企業行動規範に係る改善報告書を提出した場合において、改善措置の実施状況及び運用状況に改善が認められないと東証が認めた場合
上記のうち「企業行動規範の『遵守すべき事項』に係る規定」には「第三者割当に係る遵守事項」「流通市場に混乱をもたらすおそれ又は株主の利益の侵害をもたらすおそれのある株式分割等の禁止」といった株式の発行・取り扱いに関する事項や、「取締役会、監査役会、監査等委員会又は指名委員会等、会計監査人の設置義務」「社外取締役の確保義務」といった組織に関する事項のほか、「業務の適正を確保するために必要な体制整備の決定義務」という事項もある。
「仮に幹部社員など大きな権限を有する社員が、ハラスメント的な行為が行われることを予見した上でアナウンサーを接待の場に同席させるということが社内で常態化しており、経営陣がその事実を認識した上で何も防止の手段を講じず放置していたのだとすれば、特別注意銘柄に指定される可能性がゼロではないかもしれません。ただ、株式発行や組織設置、決算報告など客観的な事実に関する事柄ではなく、社内の慣習やハラスメントといったグレーな事柄を理由として東証が特別注意銘柄に指定するというのは、考えにくいです。また、規約違反が認められても1年間は猶予期間があり、その間に体制整備など対策を行うでしょうから、上場廃止という可能性は高くはないでしょう」(メガバンク系マーケット部門社員)
(文=Business Journal編集部)