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フジテレビ快挙、夏ドラマ再生回数1億を突破で他局を圧倒…広告収入が大幅増

協力=鈴木祐司/次世代メディア研究所代表
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フジテレビ快挙、夏ドラマ再生回数1億を突破で他局を圧倒…広告収入が大幅増の画像1
フジテレビ(「Wikipedia」より/Kakidai)

 フジテレビの7~9月期の連続テレビドラマ、夏ドラマのAVOD再生が絶好調だ。民放テレビ局の見逃し無料配信動画サービス「TVer」とフジテレビの公式動画配信サービス「FOD(フジテレビオンデマンド)」の合計値だが、1億再生突破は民放史上初めての快挙だ。実は同局は、このAVODによるネット広告収入が東京キー局のなかで一番伸びている。まだ各局が当初想定したほどの額には達していないものの、今後PUT(総個人視聴率)が下がりテレビ広告費が減少の一途となるなか、ネット広告費は経営の確かな支えとなっていくはずだ。ビジネスとして見た場合のテレビドラマの変化について、次世代メディア研究所代表の鈴木祐司氏に解説してもらう。

TVerが4.8億回突破

 7月はTVer全体の再生回数も過去最高記録を更新した。月間ユニークブラウザ数(MUB)は4000万で、動画再生数も4.8億回超となった(図1)。要因はいくつかある。パリ2024夏季オリンピックが競技開始から閉会(7月24日~8月12日)までで約1億1100万回再生され、7月度の総数を大きく底上げした。複数の大型番組が放送されたのも大きい。日本テレビ『THE MUSIC DAY 2024』、TBS『音楽の日2024』、そしてフジテレビ『FNS27時間テレビ 日本一たのしい学園祭!』の見逃し再生回数が多くなった。

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出典:Tver社

 そのなかでフジのドラマも気をはいた。月9ドラマ『海のはじまり』(主役・目黒蓮)が2873万再生を突破し、7月期の民放全ドラマでトップとなった。他に『新宿野戦病院』(小池栄子、仲野大賀)、『ギークス~警察署の変人たち~』(松岡茉優)、『ビリオン×スクール』(山田涼介)も好調で、同局制作のドラマ4本で5621万再生に及んだ。各局の夏ドラマの総再生数は発表されていないが、おそらくフジが他局の1.5倍以上に達しているはずだ。

視聴率と関係ないAVOD再生数

 では、なぜフジのドラマはこれほど多く再生されているのか。どうやら視聴率、特に長年テレビ局が営業の交渉に活用してきた世帯視聴率はいうに及ばず、数年前から使い始めている個人視聴率とも相関関係は大きくなさそうだ。

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(c)次世代メディア研究所

 期間中の各局GP帯ドラマの個人視聴率(スイッチメディア「TVAL」より)平均値で比較してみよう。夜7~11時と最もよく見られる時間帯だが、個人全体のトップはTBS。2位のフジの1.5倍ほどになる。以下、3位のテレビ朝日と4位の日本テレビの差はあまりない。

 では、他の特定層ではどうか。スポンサーのニーズが高いといわれるコア層(13~49歳)でも、19歳以下でも、中高生の間でも、TBSの首位は揺るがない。注目すべきは65歳以上で、テレ朝がTBSに迫るが、残念ながらテレ朝のAVOD再生数が他局を圧倒しているとは聞かない。高齢者のテレビ視聴とネット再生は相関関係がなさそうだ。どうやら年齢層別の視聴率は意味を持たないようだ。

特徴あるドラマが再生数につながる

 次に個別のドラマで関係性を探ってみよう。TBSの『ブラックペアン シーズン2』(二宮和也)の個人視聴率は個人全体・コア層・19歳などで他のドラマを圧倒した。初回のAVOD再生が200万回突破と好調だったが、これだけ話題になれば当然という感じだ。

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(c)次世代メディア研究所

 ところが、個人視聴率では2位以下にこれだけ大差をつけた『ブラックペアン』だが、AVOD再生は第1話が600万回を超えた『海のはじまり』にはまったく及ばなかった。特定層別個人視聴率で比べると、男子中高生や小学生男女で『海のはじまり』に逆転されている。特に小学校低学年では倍近い差をつけられている。主役の目黒蓮の人気だけでなく、目黒の娘・海を演じる泉谷星奈(いずたにらな)の存在が大きいようだ。本当に小学1年生なのかと思うような演技力は、SNS上でも称賛する声が寄せられている。もちろん、そんな存在を魅力的に描くシナリオと演出の力も忘れてはいけない。2010年の日テレ『Mother』(松雪泰子)での虐待を受ける小学1年生・怜南(芦田愛菜)を思い起こさせる“大人びた”一面を見せる海と、周囲の大人たちとの関係。これが話題が話題を呼んで、歴代最高となる再生数につながったのだろう。

 フジの夏ドラマの強みは他にもある。『新宿野戦病院』は脚本家・宮藤官九郎が手掛ける初の医療ドラマ。新宿歌舞伎町を舞台に、ホスト・キャバ嬢・ホームレス・トー横キッズ・外国人難民などが交錯するなかで「命」の尊さを問いかける一風変わった「救急医療エンターテインメント」だ。やはり初回の見逃し配信は300万回再生を超え、水10ドラマ歴代1位となった。

『ビリオン×スクール』も特筆に値する。個人全体の平均視聴率は1.9%で、GP帯ドラマ全14本中最下位。コア層でも13位、Z世代でも12位とまったく振るわない。ところが19歳以下では5位に急上昇し、中高生や小学校低学年では4位に輝く。ネット配信では初回が300万回を突破した。ネット記事などでは個人視聴率の低迷で「大爆死」などと揶揄されているが、ネット展開上はベスト5に入る奮闘ぶりなのである。

ネット再生回数の意味

 各局の今年4~6月期のネット配信からの収入を比べてみよう。

     デジタル広告費  前年同期比
テレビ朝日  16.9億円  +4.4億円
日本テレビ  17.8億円  +6.1億円
TBS     19.8億円  +4.2億円
フジテレビ  19.4億円  +7.4億円

 以上の通り急伸しているが、当該期間のフジの春ドラマは今クールほど大躍進していない。このペースで行くと7~9月期のデジタル広告費も大いに期待できそうだ。

 実はネット配信では、15秒CMの再生1回あたりの収入は3円前後といわれている。仮に60分ドラマにCM時間帯が4回あり、1回あたり15秒CMが6本入れば、本編の冒頭・最後もあわせ単純計算で90円ほどの収入となる。フジの7月期が5621万再生だったので、単純計算で総額は50億円超となる。だが、実際にはこの何分の一しか収入はない。ネット広告の営業が当初想定通りには進んでいないからだ。それにしてもネット配信は、広告主のニーズの高い若年層が主体となる。しかもターゲット別に分けて異なる広告を配信することができる。今後はテクノジーの進化で、ネット広告の価値を今以上に高めることも可能だろう。

 テレビ広告費はリアルタイム視聴が減り、テレビ広告費は減少の一途だ。その減少分をネット配信でどれだけ補い、さらに増収につなげていくことができるのか。各局はますますネット配信での視聴に力を入れていくことになる。

(協力=鈴木祐司/次世代メディア研究所代表)

鈴木祐司/メディアアナリスト、次世代メディア研究所代表

鈴木祐司/メディアアナリスト、次世代メディア研究所代表

東京大学文学部卒業後にNHK入局。ドキュメンタリー番組などの制作の後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。メディアの送り手・コンテンツ・受け手がどう変化していくのかを取材・分析。特に既存メディアと新興メディアがどう連携していくのかに関心を持つ。代表作にテレビ60周年特集「1000人が考えるテレビ ミライ」、放送記念日特集「テレビ 60年目の問いかけ」など。オンラインフォーラムやヤフー個人でも発信中。
次世代メディア研究所のHP

Twitter:@ysgenko

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