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フジテレビ、通報者の身元特定の恐れある報道、暴力団組員の逮捕で…報復の懸念も

文=Business Journal編集部、協力=水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授
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フジテレビ本社(「Wikipedia」より/Kakidai)

 5月、指定暴力団住吉会系組員の男性を含む男女3人が、密売目的で東京都内の集合住宅の一室で違法薬物を所持していた疑いで逮捕された。近隣住民からの「カップルがケンカしている」という110番通報を受け警察官が駆け付けたところ、事実が判明したという経緯だったが、フジテレビが通報者が特定できるかたちで報道しているとして議論を呼んでいる。容疑者が反社会的勢力の構成員であるため、通報者に報復などの危害がおよぶ可能性もあり、報道のあり方が問われている。

 事件が起きたのは2月のこと。住吉会系組員の高野陸容疑者の知人である真弓心月容疑者と、真弓容疑者の交際相手である谷口愛美容疑者がいた集合住宅の一室から大声で言い争う声がするという110番通報が、近隣住民から寄せられた(発生当時、高野容疑者は不在)。これを受け警察官が現場を訪れたところ、薬物などが入った段ボールが見つけ、2人に対する尿鑑定で陽性反応が出たため逮捕。2人は「高野容疑者から預かっていた」と供述し、警視庁は高野容疑者を逮捕し、高野容疑者が所属する住吉会系の組事務所への家宅捜索を行った。

 この事件について、フジテレビ系FNN28局が配信しているニュースサイト「FNNプライムオンライン」は6月14日付記事で、110番通報を行った人物が特定される恐れがあるかたちで報道。ちなみに他メディアは以下のように通報者が特定されないよう配慮して報じている。

「口論から通報され、事件が発覚しました」(テレ朝news)

「2人が口論になり通報された際に、隠していた段ボールが見つかったということです」(メ~テレ<名古屋テレビ>サイト)

 このフジの報道をめぐってSNS上では以下のような指摘が相次いでいる。

<報道で明らかにされると、関係者からの報復が生じ得る。警察はその事をどう弁明するのか?情報開示前のチェックと報道機関は自主的にメディアへの公開に関しては注意しなければならない>(原文ママ、以下同)

<通報者は伏せておかないと逆恨みや見せしめなどで被害に遭う可能性があります。ましてや暴力団関係者となると警察も神経質になくらい情報を伏せておかないと>

<ヤクザ関係なら報復もある可能性があるのに、通報者が特定出来るような情報を言ってはいけないし、言ってもない人が被害にあうかもしれないのに、そうなったらどう責任取るんだ?>

<報道の自由って人を脅かすことなのかな?もっと警察がこう言ったからありのまま報道するのではなく、濁して報道してあげないと>

<これ「近隣からの通報」としておかないと通報者が行方不明になってしまう>

 全国紙記者はいう。

「フジの記事を読むと、容疑者本人や所属する組は通報者を簡単に特定できてしまうので、明らかに問題といえる。一般的にメディアは報道の際に、情報提供者や証言者、事案の関係者については不利益が及ばないように秘匿に細心の注意を払うが、『警察への通報者』については『メディアにとっての情報提供者』でもなく、また『事件の関係者』とまでいえるかは微妙なところで、プライバシー保護の意識がすっぽり抜けてしまいがちなのは注意が必要かもしれない」

 今回のフジの報道は適切といえるのか。元日本テレビ『NNNドキュメント』ディレクターで現在は上智大学でテレビ・ジャーナリズムについて教鞭をとる水島宏明氏に解説してもらう。

組織全体で通報した人を守ろうという想像力が弱かったのではないか

 6月12日(月)の昼のニュース番組「FNN Live News days」(フジテレビ系)で放送された「『カップルがけんか』通報で覚醒剤発覚 密売目的で所持か…男女3人逮捕」。容疑者が住むマンションの住人から「隣のカップルがケンカしている」と通報があったことで事件が発覚したという。逮捕された3人のうち1人が指定暴力団住吉会系の組員だった。警察に通報したのが容疑者の隣に住む住人であることが明らかになってしまい、通報者の身元を特定させてしまう内容だ。あとになって通報者が容疑者らから報復を受けるリスクを残すような伝え方だ。

 通常はこうしたリスクがないように、通報者の情報についてはボカシて伝えるのが望ましい。実際にTBS、日本テレビ、テレビ朝日のニュースでも同じ事件について放送していたが、通報者の身元が特定できるような情報の出し方は控えていた。こうした事件では、警察の発表では、当初は警察メモなどで断片的な情報しか伝えられないことが多い。そこで、より詳しい情報を求めて警察の幹部に取材して情報を付加していくのが通常だ。情報が乏しい状態なので、分かったことはすべてニュース原稿に書いてしまうということをやりがちだ。だが、そのことで通報した住人が特定されてしまい、容疑者らにお礼参りをされるリスクが高くなってしまう。本末転倒で軽率な報道だった。

 ちなみに記者がこういう原稿を書いたとしても、原稿をチェックする役割のデスクがなぜ見過ごして、このまま放送されてしまったのか、そこは疑問が残る。組織全体で通報した人を守ろうという想像力が弱かったのではないか。フジテレビの報道は伝統的に事件報道に力を入れて、他社にはない「独自」の情報にこだわる傾向がとりわけ強い。それゆえにこうしたデリケートな問題への配慮が疎かだったり、事実の確認が他の局より甘い印象があり、それが今回の報道の背景にあるように思う。

 今回の事件はそれほど重大なものとはいえないだけに、警視庁の記者クラブに所属する比較的若手の記者が書いた原稿をチェックするデスクの監督も甘くなってしまったのではないか。だが、このニュースがネットの「FNNプライムオンライン」に掲載されたように、デジタル時代にはネット上に残ってしまう。報道による報復のリスクをネット上に残してしまった。それだけに残念なケースといえる。フジテレビの報道局は今回の報道がなぜ起きたのか反省し、再発防止のために検証してほしい。

(文=Business Journal編集部、協力=水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授)

水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授

水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授

1957年生まれ。東大卒。札幌テレビで生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー「母さんが死んだ」や准看護婦制度の問題点を問う「天使の矛盾」を制作。ロンドン、ベルリン特派員を歴任。日本テレビで「NNNドキュメント」ディレクターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。「ネットカフェ難民」の名づけ親として貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。芸術選奨・文部科学大臣賞受賞。2012年から法政大学社会学部教授。2016年から上智大学文学部新聞学科教授(報道論)。著書に『内側から見たテレビ やらせ・捏造・情報操作の構造』(朝日新書)、『想像力欠如社会』(弘文堂)、『メディアは「貧困」をどう伝えたか:現場からの証言:年越し派遣村からコロナ貧困まで』(同時代社)など多数。
上智大学 水島宏明教授プロフィールページ

Twitter:@hiroakimizushim

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