幹部社員が女子アナウンサーを接待や懇親会の席などに同席させていた疑いが浮上しているフジテレビジョン。50社に上るとみられるスポンサー企業がCM放送を見合わせ、番組内のCM放送時間帯にACジャパンの映像が頻繁に流れる事態となっている。広告を出稿する企業としては、契約で定めた放送回数に満たない、もしくは放送されないにもかかわらず費用を支払うことになるが、減額や返金、損害賠償を要求することはできるものなのか。弁護士は「スポンサー企業はイメージ維持のためにCMの放送を拒むでしょうから、当然、その分のスポンサー料金は支払いません。」という。
フジテレビの番組にレギュラー出演する中居正広さんと女性との間でトラブルが起きた会合に、同局の幹部社員が関与していた疑いが持たれている問題。同局の港浩一社長をはじめ幹部社員が日常的に外部の関係者との接待の席にアナウンサーを同席させ、不適切な行為が行われていたとも報じられ、親会社フジ・メディア・ホールディングス(HD)の大株主である米投資ファンド、ダルトン・インベストメンツなどから第三者委員会の設置による正式な調査などを要求される事態に発展。これを受け、同局の港社長ら経営陣は17日、記者会見を実施。だが、出席するメディアを記者クラブに加盟する社に限定し、会見の模様の映像の撮影を禁止した点や、立ち上げる調査委員会を日弁連の定義に基づく第三者委員会の形態にはしないと説明した点、外部関係者との懇親会での女性社員への不適切な行為の存在を明確に否定しなかった点などに批判が集中。
その結果、会見翌日にはトヨタ自動車や日本生命保険など大手企業がフジテレビ番組でのCM放送の見合わせを発表し、他社も追随するかたちで相次いで同様の対応を行い、その数は現時点ではNTT東日本、サントリー、資生堂、セブン&アイ・ホールディングス、楽天グループ、日本マクドナルドなど50社に上る。
過去分のスポンサー料金の返還を求めることは想定されていない
こうした場合、形式上はスポンサー企業側から申し入れて放送を見合わせることになるが、契約書で定めた費用を満額支払う必要はあるのか。もしくは、すでに一部費用を支払っている場合、返金や損害賠償を求めることはできるのか。山岸純法律事務所代表の山岸純弁護士はいう。
「キー局との間の広告放送契約は、局側もスポンサー側も、一定の事由が発生した場合のCM放送停止の措置やその場合の違約金等の金額をあらかじめ定めています。スポンサー側に、その販売する商品に(産地偽装などの)問題が発覚した場合、局側がCMの放送を拒むでしょうし、しかしだからといってスポンサー側に責任があるわけですからスポンサー料金は徴収することとなるでしょう。
局側に今回のような不祥事が発生した場合、当然、スポンサー側はイメージ維持のためにCMの放送を拒むでしょうから、当然、その分のスポンサー料金は支払いません。なお、過去分については、実際、CM放送しているわけですから、過去分のスポンサー料金の返還を求めることは想定されていません。
これとは別に、スポンサー側は、局側の不祥事を理由に、自らCMの放送を拒んだわけですから、そのCMの商品の売れ行きが悪くなったといったことが生じても、あらかじめ『こういう場合は違約金を幾ら払う』といった取り決めがない限り、これを理由とする損害賠償は認められません」
再開後、これまでと同じ水準の広告出稿には満たない
広告代理店社員はいう。
「個別の契約によって契約条件・内容は異なるが、一般的にCMを放送予定だった番組の放送回数が減ったり放送自体がなくなった場合には費用を減額すると明記されている。また、どちらか一方が破産手続を開始するなどした際には契約を解除できる旨の解除条項も定められているが、今回のようにメディア企業側の不祥事に伴う減額や契約解除については明記されていないのではないか。よって、お決まりの『本契約に定めのない事項が発生した場合は甲乙協議の上で決定する』という条項が適用される可能性が高い。すでにCMが一定の期間、放送されていたり、一部費用を支払い済みの場合、契約解除というのも難しい。
また、放送されないとなればCMを制作したコストも無駄になってしまうが、大手企業の場合は広告代理店にお金を支払って制作したCMを複数の局やインターネットなどでも使用するので、フジで放送できなくなったとしても制作費が丸々損になるということはないだろう」
もっとも、実際には“現実的な対応”が取られるのではないかという。
「スポンサー企業も今は世間的な反応を考慮して厳しい姿勢を示す必要があるということでCMを見合わせているが、フジとはこれまでの長年のお付き合いもあるし、将来的にはフジも経営体制を刷新して正常化すると考えられるので、CM放送は再開するだろう。よって、実際には両者の担当者間で協議して、フジが、CM放送されなかった分の減額をするといったかたちに落ち着くのではないか。ただ、当面はフジに新規に広告を出稿する企業は出ないし、仮にその状態が1年続けばフジの経営は非常に厳しくなってくる。また、一度スポンサー企業が離れてしまうと、再開してもこれまでと同じ水準の広告出稿には満たないかもしれない」
(文=Business Journal編集部、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表)