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学術論文120万本を学習した健康AI「Syd」…QOL20%向上の実証と日本戦略の全貌

2026.02.18 2026.02.18 01:05 企業

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●この記事のポイント
学術論文120万本を解析し、83億人年相当の研究データを基に開発された700億パラメータの健康特化型LLM「Syd」。導入12カ月でQOL20%向上、ストレス48%減少、生産性23%向上(※同社分析)という成果を掲げる。渋谷区での実証実験では、自己評価ベースで身体的健康指標が113%に改善。日本企業ではリテンション率73%、ROI6倍とされる。史上最年少CFAでギネス記録保持者のロレナCEOに、日本を「最重要市場」と位置づける理由と、健康AIの可能性・課題を聞いた。

 史上最年少でCFA(公認証券アナリスト)資格を取得し、7日間で7大陸のフルマラソンを完走するギネス記録を持つロレナ・プイカ氏。金融とアスリートという異色の経歴を持つ彼女が立ち上げたのが、健康AI「Syd」だ。

 難病との闘いを経て10年をかけて開発されたというSydは、現在26カ国で展開し、利用者は200万人を超える。生成AIが急速に普及するなかで、なぜ「健康特化型AI」という領域を選んだのか。来日したロレナCEOに、日本戦略の核心を聞いた。

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ロレナ・プイカCEO

●目次

700億パラメータLLMと120万論文…ChatGPTとの決定的な違い

「多くの人がChatGPTで健康相談をしています。しかし、汎用LLMはインターネット上の多様なデータで訓練されている。私たちは学術研究のみに基づく独自LLMを構築しました」

 ロンドンを拠点に活動するロレナ氏は、そう語る。Sydは約120万本の学術論文を自然言語処理で解析し、研究の質をスコアリングしたうえでモデルを構築しているという。論文に含まれる臨床研究などを積算すると、約83億人年に相当するデータ量になるという説明だ。

 もっとも、83億人年という表現は研究期間を積み上げた理論値であり、個別の生データを直接保有しているわけではない。同社はあくまで公開研究を統合したモデル設計だとしている。

 Sydは700億パラメータ規模のLLMに、数理モデルを組み合わせた「デュアル・ブレイン・アーキテクチャ」を採用。感情面への配慮と統計的根拠を両立させる設計だという。

 なお、Sydは医療行為を代替するものではなく、ウェルネスおよび行動変容支援を目的としたサービスであることを強調している。

渋谷区POCが示した変化…3カ月で可視化された健康指標

 日本市場での象徴的な事例が、2024年に実施された渋谷区での実証実験(POC)だ。

 従来、郵送調査から分析までに長期間を要していた行政施策評価を、アプリ経由でリアルタイムに可視化したという。

 同社によると、3カ月間の実証で以下の自己評価指標が改善した。

 ・身体的健康スコア:平均113%
 ・情緒的健康:43%改善
 ・経済的健康:43%改善
 ※いずれも参加者の自己評価データに基づく。

 特に注目すべきは、データ取得スピードだ。短期間で継続的な行動データを蓄積できる点は、行政や企業にとって大きな意味を持つ。

 一方で、統計的有意性や対照群比較などの詳細は公開されておらず、今後の検証が待たれる部分でもある。

コシダテックとの提携…企業導入の現実

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株式会社コシダテック取締役・越田 渓氏(左)とプイカ氏

 日本での企業展開は、株式会社コシダテックが担う。

 導入企業では30日後のリテンション率73%、ROI6倍という成果が報告されている(※同社分析)。ROI算出は生産性指標や欠勤率などを基に試算されたものだ。

 健康経営が制度化され、メンタルヘルス対策が企業課題となるなか、ウェルネスAIは新たな選択肢になりつつある。

 ロレナ氏はこう語る。

「日本には“改善”という文化があります。小さな行動を継続することが、長期的な成果につながる。その思想はSydと親和性が高い」

12〜25倍のROIという主張…持続性が鍵

 Syd導入企業では、12〜25倍のROIが実現したとされる。導入12ヶ月でQOL20%向上、ストレス48%減少、生産性23%向上という数値も示されている。

 ただし、これらは同社の内部分析に基づくものであり、第三者機関による独立検証は今後の課題だ。

 専門家の間では、健康AI市場は今後拡大するとの見方が強い一方、「行動変容の持続性」と「因果関係の証明」が鍵になるとの指摘もある。

 ウェルネスAIは医療費抑制や労働生産性向上に寄与する可能性を持つが、その効果測定の透明性が信頼構築の前提となる。

グローバル展開の現在地

 Sydは現在26カ国で展開。米国では医療テクノロジー企業との大型提携、韓国では100万人規模の研究、UAEでは政府関連機関との連携が進む。

 API形式での提供も行い、パートナー企業のブランドでの実装も進めている。

 B2Bモデルでは、匿名化データを集計したダッシュボードを通じて組織全体の健康傾向を可視化する仕組みを採用する。

 GDPRなどのデータ保護規制への準拠を掲げるが、日本市場では個人情報保護法との整合性が今後の重要論点となる。

「AIを使う立場を教育したい」

 インタビューの最後、ロレナ氏はAIの未来についてこう語った。

「AIはツールです。問題は、それをどう使うか。私たちは人々がAIに依存するのではなく、AIを主体的に使えるよう教育したい」

 健康、キャリア、経済的安定を統合的に捉えるアプローチは、日本の高齢化社会や労働人口減少という課題とも接続する。

 もっとも、健康AIの真価は、短期的な数値だけで測れるものではない。利用者の行動がどこまで持続するのか。データの透明性は担保されるのか。規制環境との整合はどう図るのか。

 圧倒的な数字を掲げるSydだが、その持続的な価値は今後の検証に委ねられている。

 日本市場を「最重要」と位置づける背景には、単なるビジネス機会だけではなく、日本の改善文化や継続性への期待があるという。

 健康AIという新領域は、いま静かに広がり始めている。その行方を左右するのは、テクノロジーの性能以上に、透明性と信頼性かもしれない。

(取材・文=昼間たかし)

昼間たかし

昼間たかし

 1975年岡山県生まれ。ルポライター、著作家。岡山県立金川高等学校・立正大学文学部史学科卒業。東京大学大学院情報学環教育部修了。知られざる文化や市井の人々の姿を描くため各地を旅しながら取材を続けている。

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