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紹介手数料1件約103万円の時代に、ATSに眠る「元候補者」をどう生かすか

2026.10.31 05:55 2026.10.30 17:53 経済
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=松本祐樹/人事・労務コンサルタント

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●この記事のポイント
人材紹介の手数料は、常用就職1件あたり平均約103万円に上る(厚労省、2024年度)。本稿では、選考で見送った候補者や辞退者を「シルバーメダリスト」「成長待ち」「タイミング辞退」の3層に分けてプールし、生成AIとMA(マーケティングオートメーション)ツールで再接点を仕組み化する方法を解説する。職業安定法第5条の5に沿った同意取得の要点も整理した。

 人材紹介の手数料は、採用者の理論年収の30〜35%が業界の一般的な目安とされる。年収800万円のエンジニアを1人採用すれば、240万〜280万円になる計算だ。その一方で、自社の選考を最終面接まで進みながら縁がなかった候補者の記録は、多くの企業で採用管理システム(ATS)に眠ったままになっている。

 本稿では、こうした「過去の候補者」を中長期の関係資産として扱うタレントプールの設計を、セグメントの切り方、生成AIを使った運用の省力化、そして見落とされがちな個人情報の扱いまで含めて整理する。

●目次

毎年「ゼロから」始まる母集団づくり

 紹介手数料の重さは、統計にも表れている。厚生労働省の「令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」(2026年3月31日公表)によれば、民営職業紹介事業の手数料収入は約9,835億円で前年度比17.6%増。常用就職1件あたりの手数料は約103万円と、前年度から10.9%上昇した。全職種をならした数字であり、年収水準の高い専門職では、これを上回りやすい。

 労働市場の需給も緩んではいない。2026年8月の有効求人倍率(季節調整値)は1.18倍、新規求人倍率は2.06倍だ。求人が求職を上回る状態が続く以上、外部チャネルへの支出は減りにくい。

 問題は、支出の額そのものよりも「残らない」ことにある。年度が替わるたびに媒体と紹介会社に予算を配り、また新しい候補者を探し始める。その裏で、昨年「評価は高かった」候補者の記録は、不採用のステータスを付けられたままATSに残る。内定・入社まで辿り着くのは応募者のごく一部であり、その他大勢の情報は二度と開かれない。

 海外では、この「過去の候補者」を採用につなげる動きが数字に現れ始めている。米採用プラットフォームGemの「2025 Recruiting Benchmarks」は、自社のCRMやATSに既に登録され、過去に応募や接触の履歴がある候補者(同社の定義では「再発見された候補者」)からの採用比率が、2021年の29.1%から2024年には4割超(報告書内に43.0%、44.0%の2通りの記載がある)へ伸びたと報告している。同社の顧客企業のデータに基づく集計であり、日本の労働市場にそのまま当てはめることはできない。ただ、「新しく探す」より「すでに知っている人ともう一度話す」方向へ企業が軸足を移していることは読み取れる。

「最終面接まで来た方は当社の事業も人も一度具体的に知っており、また会社側もスキルや価値観を何時間もかけて見ています。しかし、その評価の記録を使わずに捨てて、翌年また初対面の方を一から評価し直している企業は少なくありません」(人事・労務コンサルタント 松本祐樹氏)

タレントプールが「作って終わり」になる理由

 タレントプールという言葉自体は、人事の世界でもう新しくない。それでも機能している例が少ないのは、運用の前提に3つの壁があるからだ。

 1つ目は、「不採用=関係の終了」という前提だ。定型文の不採用通知を送った時点で、企業の側も候補者の側も「これで終わり」と受け取る。半年後に連絡しようとしても、何を切り口にすればよいか分からず、担当者は手を止めてしまう。

 2つ目は、マーケティングの発想が採用に入っていないことだ。人事部門は選考を正確に回すことに長けている。一方、今すぐは動かない相手と接点を保ち、時期が来たら声をかけるという「リードナーチャリング」の知見は、営業やマーケティング部門にあることが多い。

 3つ目は、単純に手が回らないことだ。定期的に近況を伺うべきだと分かっていても、目の前の充足目標が優先される。過去候補者が数百人、数千人という規模になれば、個別に連絡するのは現実的ではない。

 裏を返せば、「切り口を入口で作っておく」「伝える中身を用意しておく」「手間を仕組みで圧縮する」の3点がそろえば、プールは動き始める。

プールすべきは「不採用者全員」ではない

 不採用者を一律にリスト化すると、配信の中身がぼやけ、候補者にとってはただの宣伝メールになる。企業にとっても、使い道のない個人情報を抱えるだけだ。「将来、採用に至る可能性がどこにあるか」で分けると、おおむね次の3層に整理できる。

①シルバーメダリスト
典型的な状況   スキルも価値観も合致していたが、採用枠の都合で見送った
再接点のきっかけ 同職種の欠員・増員、新チーム立ち上げ
届けるべき情報  組織変更、事業の進捗、募集開始の先行案内

②成長待ち層
典型的な状況   価値観は合うが、実務経験が1〜2年不足していた
再接点のきっかけ 選考から1〜2年経過、候補者自身からの近況報告
届けるべき情報  技術ブログ、勉強会、求めるスキル像の更新

③タイミング辞退層
典型的な状況   最終段階まで進んだが、現職での昇進や家庭の事情で辞退した
再接点のきっかけ 辞退理由に関わる節目(プロジェクト終了の時期など)
届けるべき情報  働き方制度の変更、事業フェーズの変化

 分類は面接官の印象ではなく、評価シートの項目と見送り理由のコードで決めておくとよい。不採用決定の時点でATSに「セグメント」「再接点の目安時期」「評価した強み」の3項目を残すだけでも、半年後の作業量は大きく変わる。

生成AIとMAで「勝手に回る」プールをつくる

 工数を増やさずに数カ月〜1年後の再接点を生むには、次の3段階で設計する。

 不採用通知を「入口」に作り替える。 定型文に加え、評価した強みを一つ具体的に伝える。そのうえで「今後、事業の状況が変わった際に改めてご連絡してもよいか」を尋ね、本人が同意した場合に限ってプールへ登録する。配信停止や情報削除の申し出先も、この時点で明示しておく。

 セグメントごとの配信文を生成AIで下書きする。 素材は自社のプレスリリースや技術ブログなど、公開済みの情報に限る。候補者の氏名や評価内容はプロンプトに入れず、差し込みはMAツール側で行う。下書きは必ず担当者が読んでから送る。

「声をかける時期」を人事に知らせる。 選考からの経過日数、同職種の求人票の起票、配信への返信などをトリガーにして、担当者に「再コンタクト推奨」を通知する。外部SNSのプロフィールを自動で収集する仕組みは、各サービスの利用規約や後述の法令との関係で慎重な検討が要る。候補者自身に近況を更新してもらう形の方が安全だ。

 ステップ2のプロンプトは、たとえば次のようになる。

『以下の自社新事業リリースをもとに、過去に「[職種名]」の選考に進んだ方への近況共有メールを400字程度で作成してください。
募集の宣伝にはせず、「以前の面談で話題になった課題が、ここまで進んだ」という事業の進捗と、そこで得た知見の共有を軸にしてください。
返信不要で読める落ち着いたトーンとし、末尾に配信停止の方法を記載してください。
[リリース本文]』

 ここで忘れてはならないのが、法令との関係だ。職業安定法第5条の5は、労働者の募集を行う者に対し、求職者等の個人情報を「業務の目的の達成に必要な範囲内」で、目的を明らかにして収集し、本人の同意がある場合などを除き、その目的の範囲内で保管・使用するよう求めている。当初の選考だけを目的として集めた情報を、本人に断りなく将来の勧誘に流用するのは避けるべきだ。厚生労働省の関連資料でも、不要となった個人情報の廃棄・削除が挑げられている。個人情報保護委員会が2023年6月に公表した生成AIサービスの利用に関する注意喚起も、自社のルールを決める際の参考になる。

「将来の採用案内に使うなら、その旨を利用目的として具体的に示し、本人の意思を確認しておくのが基本です。保管期間を決め、期限が来たら削除する運用まで含めて設計してください。信頼を得たい施策で、信頼を損なっては本末転倒です」(同)

モデルケース:AIスタートアップG社の場合

 以下は、この仕組みの効果を具体的にイメージするための想定事例である。数値は試算であり、特定企業の実績ではない。

 G社は社員120人のディープテック系スタートアップだ。AIリサーチャーやエンジニアの採用が常に課題で、毎月数百万円の紹介手数料を支払っている。一方、過去2年で最終面接まで進んだものの見送った、あるいは辞退された候補者約150人の記録は、ATSに手つかずのまま残っていた。

 G社がまず取り組むのは、150人への「改めての同意取得」だ。今後の情報提供を希望するか尋ね、同意を得た人だけを自社のプールに移す。その後は四半期に1回、技術ブログや社内勉強会の案内を、生成AIでセグメント別に整えて配信する。

 1年後、新チームの立ち上げに合わせて、プールから直接カジュアル面談を打診し、紹介会社を介さずに3人を採用できたとする。理論年収が平均約1,150万円、手数料率35%で試算すると、本来は1人約400万円、3人で約1,200万円の手数料がかかっていた計算になる。

 短縮できるのは費用だけではない。母集団探しと初期のスキル確認を省けるため、打診から内定承諾までの期間が、従来の平均90日から数週間程度に縮まる余地がある。ただし、入社時期は現職の引き継ぎに左右されるので、「入社まで」ではなく「内定承諾まで」で測るのが妥当だ。

逆に、配信を始めて数カ月で成果が出るものではない。採用数だけをKPIにすると、運用が続かない。初年度は「同意率」「開封率」「配信停止率」といった関係の質を測る指標を中心に置くとよい。

「獲りに行く採用」から「関係を耕す採用」へ

 転職サイトのデータベースや紹介会社の候補者リストは、競合他社も同じように参照できる「共有地」だ。そこでの競争は、最後は年収や知名度、手数料の条件で決まりやすい。

 それに対して、自社の選考を経た候補者との関係は、他社が写し取れない。何時間もかけて得た相互理解を、不採用の通知一通で終わらせるのは惜しい。もちろん、紹介会社は市場情報や自社では出会えない層との接点を持っており、その役割がなくなるわけではない。目指すべきは「依存しない」状態、つまり外部チャネルと自社プールを使い分けられる状態だ。

「不採用の決定を伝えるときに、どう関係を残すか。プール運用はそこでほぼ決まります。ツールを入れるのはその後でいい。先に配信の仕組みを作っても、入口で関係が切れていれば読まれません」(同)

 生成AIは、これまで「わかっているけれど手が回らない」とされてきた工程を現実的な量に変える。ただし、誰に、何を、どの約束のもとで届けるかを決めるのは人の仕事だ。不採用や辞退を、関係の終わりではなく一つの通過点として扱えるかどうか。その設計力が、外部環境に左右されにくい採用力の土台になる。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=松本祐樹/人事・労務コンサルタント)

【主な参照データ・出典】
厚生労働省「令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」2026年3月31日公表
厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年8月分)」2026年10月2日公表
Gem「2025 Recruiting Benchmarks Report」(対象期間2021年1月〜2024年12月)
厚生労働省「求職者の個人情報の取扱い等」(職業安定法第5条の5関係)
個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」2023年6月

BusinessJournal編集部

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公開:2026.10.31 05:55