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30年の苦境を経て造船株が急騰…日本造船業が”脱炭素の切り札”として復権

2026.04.17 05:55 2026.04.16 20:20 経済
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=山崎慎一/航空・海事アナリスト

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●この記事のポイント
30年の構造不況を経て、日本造船業が急激な株価高騰と共に復権を遂げている。IMOの2050年GHG排出ゼロ目標を背景に、日本が強みを持つアンモニア・水素燃料船など次世代環境対応船へのリプレイス需要が爆発。船価上昇や「造船業再生基金」創設等の国策化、業界再編も追い風となり、かつての「量」ではなく「脱炭素技術」を武器に、世界市場での主導権奪還を狙う。

 かつて「造船王国」の名をほしいままにし、世界の海を支配した日本の造船業。しかし、その栄光は1990年代以降、猛追する韓国、そして圧倒的な価格競争力を武器にした中国の前に、音を立てて崩れ去った。「失われた30年」の間、国内造船所は閉鎖や統合を余儀なくされ、日本の基幹産業としての地位は風前の灯火となった。

 ところが今、株式市場で異変が起きている。名村造船所や三井E&Sといった造船関連銘柄が数倍、時には10倍近い上昇を見せ、投資家の熱い視線を集めているのだ。長らく「構造不況業種」の代名詞であった造船業に、一体何が起きているのか。その背景には、脱炭素という世界的な潮流、経済安全保障という国策、そして日本が磨き続けてきた「技術力」の再評価がある。

 本稿では、最新のデータと専門家の視点を交え、日本造船業が迎えつつある「30年ぶりの大相場」の正体と、その先に待つ未来を解き明かしていく。

●目次

どん底からの反転…数字で見る造船業の「今」

 日本造船業が底を打ったことは、客観的な数字が証明している。世界の新造船建造量は2011年の約1億総トンをピークに右肩下がりを続け、2022年には約5,590万総トンと、ほぼ半減した。しかし、この2022年をボトムとして、市場は明らかな回復基調に転じている。調査機関の予測によれば、2030年代初頭には再び1億総トンを超える高水準に達する見通しだ。

 この需要回復を牽引しているのは、単なる老朽船の買い替えではない。国際的な環境規制に対応するための「次世代燃料船」へのリプレイス需要である。

 業績面でも変化は顕著だ。例えば名村造船所は、2025年3月期の経常利益が前年比約47%増と大幅な増益を見込む。数年前まで赤字に苦しんでいた同社が、これほどのV字回復を見せた背景には、船価(船の価格)の上昇がある。世界的な船台(建造スペース)の不足により、造船側の価格交渉力が強まり、高付加価値な受注が収益を押し上げているのだ。

 航空・海事アナリストの山崎慎一氏はこう分析する。

「これまでの日本の造船業は、受注を確保するために利益を削る『出血受注』が常態化していました。しかし現在は、数年先まで予約が埋まるなかで、利益の取れる案件を精査して受注できる『売り手市場』に変貌しています」

「失われた30年」の構造的原因…なぜ中韓に負けたのか

 かつての敗北の原因を整理しておくことは、現在の復活の真価を理解する上で欠かせない。1990年代、日本の造船業がシェアを奪われた最大の理由は、コスト競争力の差だ。

 韓国勢は、政府主導の強力な金融支援と設備投資を背景に、巨大なドックで同型船を大量建造する「規模の経済」を追求した。一方の中国は、圧倒的な安価な労働力と国家戦略としての造船振興を武器に、瞬く間に世界シェア首位に躍り出た。

 特に痛手だったのは、かつて日本が技術的優位を誇ったLNG(液化天然ガス)運搬船の市場だ。極低温のLNGを運ぶ高度な技術が必要なこの分野も、2000年代以降は韓国勢が席巻。現在、日本国内の造船所でLNG船を一隻も建造していないという事実は、かつてのトップランナーにとって屈辱的な現実と言える。

「日本の造船所は中規模な企業が乱立し、国家的な後ろ盾を持つ中韓のメガ造船所に対して、資本力と規模で太刀打ちできませんでした。この時期、日本の技術者は流出し、国内のサプライチェーンも疲弊しきっていたのです」(経済誌記者)

「脱炭素」が逆転の切り札になった理由

 しかし、戦いのルールが変わった。市場を動かすドライバーが「価格」から「環境性能」へとシフトしたのだ。

 国際海事機関(IMO)は2023年7月、温室効果ガス(GHG)の排出削減戦略を改定し、「2050年頃までに排出ゼロ」という極めて高い目標を掲げた。これにより、重油を燃料とする従来の船は、もはや世界の海を走れなくなる。

 今、海運業界が求めているのは、LNG燃料船、さらにはメタノール、アンモニア、水素といった次世代燃料で動く「ゼロエミッション船」だ。ここで、日本の「真面目な技術開発」が再び光を浴びている。

 ゼロエミッション船を年間100隻規模で建造する場合、1隻あたりの建造費は約100億円に上ると試算される。2025年から2050年までの累計投資額は、関連インフラを含めれば25〜30兆円規模という巨大市場だ。

「アンモニア燃料船のエンジン開発や、燃料供給システムにおいて、日本企業は世界トップクラスの特許と技術蓄積を持っています。単純な鉄の箱を作る競争では中韓に勝てませんが、複雑な燃料制御や環境負荷低減という『システムの知能化』が求められる局面では、日本の独壇場になる可能性があるのです」(山崎氏)

「国策」という強力な後押し

 日本の造船復活を決定づけているもう一つの要素が、政府の強力なコミットメント、すなわち「国策化」である。

 2024年11月、国土交通省は「造船業再生基金」の創設を発表。2025年度補正予算案に1,200億円を計上するという異例の規模だ。政府は2035年の建造量を2024年比で2倍に引き上げる目標を掲げ、今後10年間で官民合わせた投資規模は1兆円に達する見通しとなっている。

 なぜ今、政府はここまで本気なのか。その背景には切実な経済安全保障の問題がある。 日本はエネルギーの多くをLNGに頼っているが、その輸送を中韓の造船所に依存し続けることは、地政学的なリスクを孕む。万が一、東アジア情勢が緊迫化した際、自国でエネルギー運搬船を調達・修理できない事態は避けなければならない。

「造船はもはや一産業の枠を超え、エネルギー安全保障の根幹を支える『防衛産業』に近い位置づけになっています。政府の資金投入は、次世代船の技術開発だけでなく、国内の労働力確保やサプライチェーンの維持・強化という多角的な支援へと広がっています」(同)

業界再編の加速…今治造船・JMU・三菱重工の動き

 官民の資金が動き出すなか、業界内での構造改革も加速している。かつての「乱立」から「結集」への動きだ。

 国内首位の今治造船は、ジャパン マリンユナイテッド(JMU)への出資比率を30%から60%へと引き上げ、子会社化する方針を打ち出した。これにより、国内勢がまとまって中韓の巨大メーカーに対抗する体制が整いつつある。

 また、三菱重工などの大手メーカーは、自ら船体を建造するだけでなく、高度な制御システムやエンジンの外販に注力するなど、ビジネスモデルの転換を図っている。

 さらに、この波及効果は船主である海運大手3社(日本郵船、商船三井、川崎汽船)にも及ぶ。彼らは次世代燃料船の導入に向けて、国内造船所との共同開発を加速させており、日本の海事クラスター全体が一丸となって「脱炭素市場」を取りに行く構図が出来上がっている。

「バラ色」だけではない…リスクと課題

 ただし、復活への道のりは平坦ではない。ビジネスジャーナルとして、投資家や読者が注視すべきリスクもフェアに提示しておく必要がある。

 第一に、コスト上昇の圧力だ。鋼材価格の高騰に加え、深刻な人手不足に伴う人件費の上昇が、利益を圧迫している。名村造船所の2026年3月期予測が減益となっているように、受注は好調でも、利益を確実に確保できるかは不透明な部分も残る。

 第二に、人材の空洞化だ。30年の停滞期に、若手技術者の採用を控えてきたツケは大きい。熟練工の引退が進むなか、自動化やDX(デジタルトランスフォーメーション)をどれだけ早く実装できるかが勝負の分かれ目となる。

 第三に、中国の動向だ。中国は依然として国家主導で技術力を急速に高めており、次世代燃料船の分野でも日本に追いすがっている。技術的なアドバンテージをいかにして特許や知的財産として守り、標準化を主導できるかが鍵となる。

「現在は『追い風』が吹いている状態ですが、これが一過性のブームに終わるか、持続的な成長軌道に乗れるかは、これからの3〜5年の投資判断にかかっています。単なる船作りではなく、データや環境技術を売るサービス産業への脱皮が必要です」(同)

日本造船業は「新たな産業」へ

「脱炭素・経済安保・官民連携」。この三つの潮流が重なり合った今、日本造船業は30年ぶりの真の復権を迎えつつある。

 しかし、これは「かつての大量生産時代への回帰」ではない。目指すべきは、デジタルとグリーンを融合させた、高付加価値な「次世代モビリティ産業」としての再生である。

 世界が海上のカーボンニュートラルを模索するなか、その答えを提示できるのは、苦境のなかでも技術を磨き続けた日本の造船所かもしれない。株式市場におけるマネーの流入は、その可能性に対する期待の現れだ。日本の造船業が、再び世界の海をリードする日——それは決して遠い夢ではなく、確かな現実として動き出している。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=山崎慎一/航空・海事アナリスト)

公開:2026.04.17 05:55