駐車場の上空でCO2を減らす…村田製作所の事例に学ぶ、ソーラーカーポートとCRE戦略

●この記事のポイント
脱炭素開示のSSBJ基準(2027年3月期から段階適用)と、2030年に30万口を目指すEV充電インフラ整備を背景に、企業の駐車場の使い方が変わりつつある。ワクラ村田製作所のソーラーカーポート(695kW、CO2を年372t削減)、ENEOSや東急のモビリティ拠点、akippaの時間貸しを例に、手法ごとの比較と検討の手順を整理する。
工場やオフィスの駐車場は、企業不動産(CRE)の議論で後回しにされやすい場所だ。建物の計画が固まったあとに残った敷地を舗装し、白線を引く。収益化を考えるとしても、空いた区画をコインパーキング事業者に貸して固定資産税の足しにする。そんな扱いが長く続いてきた。
ここ数年、その平面に別の役割を持たせる企業が出てきた。屋根を架けて太陽光パネルを載せる。EVの充電器を置く。シェアサイクルや小型EVの拠点として地域に開く。背景には、サステナビリティ情報の開示義務化、国が掲げるEV充電インフラの整備目標、駐車場シェアリング市場の成熟という、性格の異なる3つの流れがある。公的資料と各社の公表情報をもとに、現状と検討時の論点を整理したい。
●目次
「開示」が駐車場を経営課題に変えた
転機の一つは、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)が2025年3月に公表した開示基準だ。金融庁の作業部会では、プライム市場上場企業のうち時価総額3兆円以上は2027年3月期から適用し、1兆円以上は2028年3月期、5000億円以上は2029年3月期へと段階的に広げる方向が示されている。適用の翌期からは第三者保証も求められる見通しだ。そうなると、Scope2(購入電力に由来する排出)を自社の敷地内でどれだけ減らせるかが、数字で比べられる。
工場の屋根だけでは、載せられるパネルの量に限りがある。耐荷重の関係で屋根に載せられない建物もある。敷地の中で日当たりがよく、まとまった面積があり、しかも上空が空いている場所。それが駐車場だった。
「開示が始まると、再エネ比率は『方針』ではなく『実績値』として比べられます。屋根を使い切った企業が次に目を向けるのが駐車場の上空です。ただ、駐車場は従業員の通勤や物流の動線と直結しているので、設備部門だけで決めると現場との調整で止まりやすい。総務や人事を最初から巻き込むのが現実的です」(エネルギー政策研究家・佐伯俊也氏)
制度面の手当ても進んだ。ソーラーカーポートは屋根と柱を持ち、下で車を停めるため、建築基準法上の「建築物」として扱われる。この手続き負担が普及の壁と指摘されてきたことから、国土交通省は2021年6月、カーポートに多いアルミニウム合金造の小規模な建築物を構造審査の省略対象に加える告示改正を行い、コストを抑えやすい杭基礎工法も建築基準法上の基礎に当たる旨を通知している。
工場駐車場の事例――村田製作所グループ
具体例として、環境省の補助事業の優良事例に挙げられた村田製作所グループの取り組みを見てみる。
石川県七尾市のワクラ村田製作所は、駐車場約200台分の上に、パネル出力695kWのソーラーカーポートを設置した。電力は全量を工場で自家消費する。総事業費は約1億7300万円で、うち約5000万円(補助率3分の1)が国の補助だ。事業資料によれば、事業所の再エネ消費比率は0%から21%に上がり、CO2削減効果は年372トン、施設全体の削減率は11%と見込まれている。近隣の小学校の環境学習で導入効果を公開することや、グループの他拠点へ展開するモデルケースとすることも、事業の目的に挙げられている。
同じ石川県のハクイ村田製作所では、反射光も発電に使える両面パネルを採用し、除雪車が通れる高さを確保した。雪の多い地域の駐車場ならではの設計だ。
それに先立ち、福井県の金津村田製作所は、300台分の駐車場のうち167台分にカーポート型パネル(383kW)を載せ、屋根置きのパネルや蓄電池と組み合わせて、2021年11月から工場の使用電力を再エネで賄う体制に移った。村田製作所の担当者は当時、EE Times Japanの取材に自家消費型について「あふれさせずに使い切ることが重要」と語っている。売電を前提にしたFIT型と違い、発電と工場の需要をどう合わせるかが設計の肝になる、という指摘だ。
花王も和歌山工場で、576kWのカーポート一体型太陽光を同じ補助事業で導入した。製造業にとって、駐車場の上空はもう「余白」ではなくなりつつある。
EV充電とモビリティ拠点――目標と実績の差
経済産業省は2023年10月に「充電インフラ整備促進に向けた指針」を策定し、2030年までに30万口(うち急速充電器3万口)という目標を掲げた。同省の資料によれば、2024年度末時点の整備数は約6.8万口(急速約1.2万口)。前年度から約2.8万口増えたものの、目標との差はまだ大きい。普通充電器は、商業施設や宿泊施設など車を一定時間停めておく「目的地」での整備が進んでいる。
この分野で早くから動いたのがイオンモールだ。同社は2008年に商業施設として初めてEV充電器を設置し、2017年には日本企業として初めて国際イニシアチブ「EV100」に参加した。充電の待ち時間を買い物の時間に重ねられる商業施設は、目的地充電と相性がいい。
モビリティの拠点化では、ENEOSホールディングスが2023年2月、東京都世田谷区に給油設備を持たない「ENEOSマルチモビリティステーション」を開設した。電動キックボードのLUUP、シェアサイクルのHELLO CYCLING、小型EVなどのシェアリングを一か所に集めた拠点だ。東急バスはHELLO CYCLINGの運営事業者として、バス路線と接続しやすい場所を中心に35カ所のステーションを設け、2024年6月には等々力操車所とオアシスたまプラーザにトヨタの超小型EV「C+pod」のカーシェアを配置した。東急グループは横浜市と脱炭素化モデル事業の協定を結び、たまプラーザの「WISE Living Lab」の駐車場にもシェアサイクル拠点を置いている。
もっとも、これらの多くは配備台数が数台から数十台の規模で、収益事業というより地域交通の実証に近い。単体の採算より、沿線価値や企業ブランドへの寄与をどう評価するかが問われる取り組みといえる。
初期投資を抑える「時間貸し」という選択肢
大きな設備投資をせずに始められるのが駐車場シェアリングだ。平日の日中は社用車や従業員が使い、夜間や休日は予約制で一般に貸し出す。
駐車場予約サービス「アキッパ」を運営するakippaは2026年9月18日、東京証券取引所スタンダード市場に上場した。同社によれば累計会員数は550万人(2026年7月末時点)、常時予約できる駐車場は5万5000件以上(2025年12月の月平均)にのぼる。精算機やフラップ板を置かずに始められ、やめるときに撤去工事もいらない。再開発を控えた土地の「つなぎ」として使いやすいのは、この身軽さによる。
「外部の車を敷地に入れる以上、セキュリティと事故時の責任分担は事前に詰めておく必要があります。工場なら、外部車両が構内の動線に入らない区画を切り出せるかがまず確認点になる。収入額だけで決めると、あとから管理の手間の大きさに気づくことがあります」(同)

検討の順序と展望
入り口は、どの区画が「いつまで」空くのかを把握することだ。曜日・時間帯ごとの稼働を記録し、3年以上使う見込みのない区画と、再開発までの数年だけ空く区画を分ける。前者はソーラーカーポートのような長期の設備投資、後者はシェアリングのような撤退しやすい手法が候補になる。
次に敷地の物理条件を確かめる。日照、受変電設備の容量(急速充電器は受電設備の増強が必要になることがある)、道路からの出入り。そのうえで、資産を自社で持つかどうかを判断する。PPA(電力購入契約)は初期投資を抑えられる代わりに、契約期間中は敷地の使い方に制約がかかる。建築確認や用途地域、消防関係の手続きは、設計の早い段階で確認しておきたい。
「ソーラーカーポートで発電した電力で社用EVを充電し、休日はその区画を地域に開く。こうした複合的な使い方は今後増えていくはずです。駐車場は、エネルギーと移動と地域との接点を一つの敷地で扱える数少ない場所です。裏を返せば、部門ごとにばらばらに検討すると計画同士がぶつかります」(同)
開示義務の対象は時価総額の大きい企業から順に広がる予定で、取引先からサプライチェーン排出量(Scope3)への協力を求められる中堅企業にも影響は及ぶ。EV充電の整備目標と実績の差を考えれば、充電器の設置先としての駐車場の需要もしばらく続くだろう。
駐車場で何をするかは、自社が何を優先するかで決まる。排出削減か、手早い収益化か、地域との関係づくりか。目的を一つに絞れないなら、区画ごとに使い分ける手もある。白線の内側をどう使うかは、思っている以上に経営に近い判断になってきた。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=佐伯俊也/エネルギー政策研究家)
【主な参照データ・出典】
環境省「ソーラーカーポート等の新たな自家消費型太陽光等の導入支援事業に関する優良事例」(ワクラ村田製作所)
環境省「ソーラーカーポートの導入事例集」(ワクラ村田製作所695kW・約200台分、花王和歌山工場576kW)
環境省 事例集(ハクイ村田製作所)
EE Times Japan(2021年10月13日)金津村田製作所
国土交通省 国住指第1240号(2021年6月30日)
経済産業省「充電インフラの整備に関して」(2025年7月1日)
経済産業省 充電インフラ整備状況











