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人材育成に悩む事業所は8割…Gemini Notebookで研修費を抑える「社内大学」の作り方

2026.11.05 05:55 2026.11.04 23:22 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=岡田圭司/人材育成コンサルタント・経営コンサルタント

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●この記事のポイント
米グーグルは2026年10月、AIツール「Gemini Notebook」(旧NotebookLM)で、米国とインドの教科書数百冊を無料で使えるようにした。厚労省の調査では、人材育成に問題を抱える事業所が80.1%にのぼり、理由で最も多いのは指導する人材の不足(59.5%)だった。教科書と自社資料をAIの回答の根拠にして、OJTを低コストで作り直す3つのステップを解説する。

 米グーグルは10月29日、AIリサーチツール「Gemini Notebook」(7月に「NotebookLM」から改称)で、米国とインドの提供元による数百冊の教科書を無料で使えるようにしたと発表した。OpenStax、Open Textbook Library、S Chand Publishingなどの教材をノートに加えると、AIの回答はその教科書に基づき、該当箇所への引用リンクが付く。学習ガイドや練習問題、フラッシュカードも作れる。

 一見すると学生向けの自習機能の拡充にすぎない。だが企業の人材育成の側から見ると、別の意味が浮かぶ。「信頼できる体系的な資料」をAIに渡すと、学び方そのものがどう変わるのか。その実例が、手軽に試せる形で出てきたのである。

 国内の現場に目を向けると、育成の悩みは深い。厚生労働省の令和7年度「能力開発基本調査」では、能力開発や人材育成に何らかの問題があるとする事業所が80.1%に達した。問題点として最も多いのは「指導する人材が不足している」(59.5%)で、「人材を育成しても辞めてしまう」(51.6%)、「人材育成を行う時間がない」(45.5%)が続く。研修に十分な予算を割けない、教える側の時間が足りない、作ったマニュアルが読まれない。この三つを同時に抱える中小・中堅企業は少なくないはずだ。

 本稿では、今回のニュースを手がかりに、AIを使った低コストの「社内大学」と、自社の知見を教材に変える仕組みづくりについて考えたい。

●目次

外部の知を即戦力に変える――研修費を抑えた「社内大学」

「教科書に基づいて答える」AIの意味

 Gemini Notebookはもともと、利用者が指定した資料(ソース)に基づいて要約や質疑応答を行うツールだ。7月の改称発表時点で、グーグルは3000万人以上のユーザーと60万以上の組織が使っているとしていた。一般的なチャットAIは広く浅く答えるが、こちらは「渡した資料の範囲で答える」のが特徴である。

 今回そこに、出版社や教育機関が編集・公開している教科書が加わった。たとえば営業職が統計の基礎を学び直したい場合、入門書を一冊ノートに入れれば、「この章の要点を自社の売上分析の例で説明して」と頼める。答えには教科書の該当箇所が示されるので、上司や講師がいなくても「根拠はどこか」を本人が確かめられる。

「読む」から「問い、解く」へ

 学習の形も変わる。章ごとの確認問題を作らせ、間違えたところだけを説明し直してもらう。用語をフラッシュカードにして通勤中に回す。これまで研修会社や社内講師が作っていた演習教材の一部を、学ぶ本人がその場で用意できるわけだ。

「企業研修で一番コストがかかるのは、実は知識を話す部分ではありません。理解度を確かめて、つまずいた人に合わせて説明し直す部分です。そこをAIが担えるなら、集合研修は『講義』ではなく『議論と実践』の場に寄せられます」(人材育成コンサルタント・経営コンサルタント 岡田圭司氏)

予算が限られる企業にこそ意味がある

 同じ調査では、OFF-JTに支出した費用の労働者一人当たり平均額は2.0万円(令和6年度実績)だった。決して潤沢とは言えない水準だ。無料の教科書とAIを組み合わせれば、この限られた予算を「知識のインプット」ではなく、人にしかできない研修に回せる。

 ただし注意点もある。今回の教科書は米国とインドの提供元によるもので、日本の社員が使う場合は英語の教材が中心になるとみられる。また、日本の法制度や商慣習を扱う教材ではない。「研修費ゼロで何でも学べる」というより、「基礎理論の学び直しを安く速く回せる」と捉えるのが現実的だろう。

教科書機能は“予行演習”――次は自社ナレッジを教材に

社内Wikiが使われなくなる理由

 社内Wikiや業務マニュアルを整備したのに、数年で誰も開かなくなった。そういう会社は少なくない。原因はおおむね三つに分けられる。

1.探すのが面倒。どこに何が書いてあるか分からず、結局隣の先輩に聞く

2.情報が古い。更新する担当が曖昧で、いつの情報か分からない

3.現場で使えない。手順は書いてあっても、「こういうときはどうするか」という判断の引き出しがない

 結果として、問い合わせは特定のベテランに集中する。先の調査で「指導する人材が不足」が最多だったのも、こうした教える側への負荷と無関係ではないだろう。

「どの資料を根拠にするか」を決められる

 Gemini Notebookの設計で注目したいのは、教科書そのものよりも「根拠にする資料を利用者が指定する」という仕組みの方だ。教科書を入れれば教科書が、自社の資料を入れれば自社の資料が、回答の土台になる。今回の教科書提供は、その使い方を手軽に試せる“予行演習”ともいえる。

 過去の提案書、クレーム対応の記録、ベテランの業務日報。こうした資料をソースにすれば、新人は「以前、似た案件でどう対応したか」を先輩の手を止めずに調べられる。答えには元の資料への引用が付くため、「AIがそう言った」で終わらず、原典を確かめる習慣も付きやすい。

「情報が古い」問題にも手当てが進む。2026年5月には、Googleドライブ上のファイルを更新するとノート内のソースも自動で更新される機能が追加された。元ファイルのアクセス権を失うとソースとして使えなくなるなど、権限の変更にも追従する。

「暗黙知の形式知化は、組織論では古くからのテーマです。難しかったのは、書き残すことより、書き残したものを必要な人が必要なときに引き出すことだった。ただしAIは、書かれていないことまでは拾えません。ベテランが判断の理由を言葉にする時間は、むしろ増やすべきでしょう」(同)

社外秘の資料を入れる前に

 社内資料を扱う以上、データの扱いは先に確かめておきたい。グーグルのヘルプでは、仕事用・学校用アカウントのデータは、利用者がフィードバックを送らない限りGemini Notebookの学習に使われないと説明されている。一方で、人によるレビューの有無などは契約するプランによって異なる。個人アカウントでの業務利用は避け、自社の契約形態で何が保証されるかを情報システム担当と確認してから始めるのが筋だ。顧客の個人情報を含む資料も、匿名化してから入れたい。

明日から始める3つのステップ

 いきなり全社導入を目指す必要はない。小さく試し、効果と課題を見ながら広げる方が、結局は早い。

ステップ1 試す:教科書を使った少人数の勉強会

 まずは無償の教科書を1冊選び、部署の有志数人で勉強会を開く。各自がAIと対話して予習し、当日は理解度テストの結果をもとに議論する。「どう聞けばよい答えが返るか」という使い方のコツも、この段階で共有しておくとよい。

ステップ2 集める:現場の“生きた資料”を選ぶ

 次に、自社の資料を集める。ここで綺麗なマニュアルを作り直す必要はない。成功した提案書、失敗した案件の振り返り、よくある問い合わせとその回答。粗くても実際に使われている資料の方が、AIの答えは現場に即したものになる。

 ただし「何を入れないか」は決めておく。古い規定と新しい規定が混在すれば、AIはどちらも根拠にしてしまう。資料ごとに管理者を決め、年に一度は棚卸しする。地味だが、ここを怠ると第2章の「情報が古い」問題に戻ってしまう。

ステップ3 任せる:OJTを「AIの伴走+先輩のメンタリング」に

 用語や手順、過去事例の確認といった基本的な質問は、まずAIに聞く。先輩社員は、現場での判断へのフィードバックや、仕事への迷いを聞くことに時間を使う。令和7年度調査では「人材を育成しても辞めてしまう」と答えた事業所が半数を超えていた。AIに知識の説明を任せられれば、その分の時間を人同士の関わりに回せる。

「注意したいのは、AIに聞けば済むからと、新人を放置してしまうケースです。AIは質問には答えますが、質問できない人の困りごとには気づきません。週に一度でも先輩が話を聞く場は、制度として残しておくべきです」(同)

道具より先に「何を根拠にするか」を決める

 教科書が無料で使えるようになったこと自体よりも、「信頼できる資料を指定すれば、AIがその範囲で教えてくれる」という使い方が身近になったことの意味は大きい。外の教科書で基礎を固め、自社の資料で実務を学ぶ。この二段構えなら、大企業のような研修予算がなくても、自社なりの「社内大学」に近づける。

 もちろん、ツールを入れただけで人が育つわけではない。どの資料を正とするかを決め、更新し続ける。先輩が後輩と向き合う時間を守る。そうした地道な運用を続けた企業ほど、少ない人数でも人が育つ仕組みを手にできるはずだ。「教える時間がない」という悩みに、少しずつ現実的な答えが出始めている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=岡田圭司/人材育成コンサルタント・経営コンサルタント)

【主な参照データ・出典】
Google「Gemini Notebook adds hundreds of textbooks」(2026年10月29日)
ケータイ Watch「Googleの「Gemini Notebook」、数百冊の教科書を無料で追加可能に」(2026年11月1日)
ITmedia NEWS「Google、「NotebookLM」を「Gemini Notebook」に改称」(2026年7月17日)
厚生労働省「令和7年度「能力開発基本調査」の結果を公表します」(2026年7月31日)、同「調査結果の概要」
Google ヘルプ「Use Gemini Notebook with a work or school Google account」

BusinessJournal編集部

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公開:2026.11.05 05:55