日本でも「AI失業」の兆候…企業で新規採用を控える動き、「人材採用よりAI活用」が定着

●この記事のポイント
・GAFAMなど米国テック企業ではAIによる効率化によって従業員が削減
・日本のスタートアップやメガベンチャーでもAIを使うことで雇用を抑えようという動き
・人とのコミュニケーションができて利益も上げていくことができるエンジニアは必要とされる
AIの普及と性能向上に伴いエンジニアを含む労働者が職を失うことを意味する「AI失業」というキーワードが注目されている。米セールスフォースのマーク・ベニオフCEOは2月、同社が開発した新しいAIエージェント「Agentforce」を導入したことによりエンジニアを採用する必要がなくなったため、2025年度はエンジニアの採用をしないと発表。GAFAMでも同様の動きはみられ、米マイクロソフトは5月、約6000人の人員を削減すると発表。米アマゾン・ドット・コムも6月、CEOがAIによる効率化によって従業員数が減少すると発言した。こうした動きは日本企業でも広がるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
●目次
新規雇用する代わりにAIを使って生産性を上げる
まず、現在のシステム開発の現場における問題点を整理してみたい。企業のシステム企画・支援を手掛ける株式会社AnityA代表の中野仁氏は、経験豊富なオールラウンダー的なエンジニアが少なくなりつつあるという。
「コーディングや要件定義もできて、プロジェクトマネジメントもできて、顧客とも社内メンバーともきちんと会話・コミュニケーションができるという上の世代のエンジニアが、徐々に第一線を離れて少なくなってきているという印象があります。就職氷河期以降はエンジニアの仕事も割と分業化が進み、いわゆるオールラウンダー的な人が育っていません。需要に対して供給が間に合っていないという問題もあります。結果的にエンジニアの単価が上昇しており、大手コンサルファームに発注するとシニアクラスのマネージャーの人月単価が300万円くらいというのが当たり前になってきています」
ここ数年はIT業界の大きな問題として人手不足が叫ばれ、新卒就職者の初任給をはじめとする給与引き上げ競争が進行してきたが、その状況も徐々に転換の兆しが見えつつあるという。
「AIの性能が飛躍的に向上してきて、私の周りでも20年以上、第一線でやってきた要件定義からプロジェクトマネジメントまでこなせるようなエンジニアたちから『3~5年後には、もう仕事ないかも』といった声が聞こえてきます。並のエンジニアを雇用して使うくらいなら、AIを使ったほうが2~3倍の生産性を出せるかもしれないという方向性になってきています。米国では大手テック企業がAI活用による開発効率の向上によって、大量の人員削減を進めていますが、日本でもすでにスタートアップでAIを使うことで雇用を抑えようという動きが出てきており、来年か再来年ぐらいからメガベンチャーあたりでもそうした動きは顕著になってくるといわれています。スタートアップやメガベンチャーの経営層の認識としては、『そろそろ景気後退も始まるので、新規雇用する代わりにAIを使ってどんどん生産性を上げましょう』となりつつあります。
AIで生産性を上げるということは、従業員一人あたりの営業利益を最適化する、人を減らしてして利益を上げるということなので、外注費を減らして社内の人件費も抑制することになりますが、スタートアップやメガベンチャーはまず外注費の最適化を行って、今年から来年にかけて様子を見つつ、そこから先で社内の人件費に手を付けていくという動きになるという見立てが広まりつつあります。米国のシリコンバレーで起きた動きが数年遅れで日本でも起きる傾向がありますが、そうした動きに最初に敏感に反応するのがスタートアップとメガベンチャーです。
ですので、少し前までは各社が高い給料を提示して若い人材を獲得しようとする動きがありましたが、今では新卒採用でもよほど優秀な人材でないと採用しないといったかたちで、すでに採用の凍結に動いている会社も増えており、近いうちに状況がガラッと一変するでしょう。特にスタートアップは景気変動の影響をもろに受けやすく倒産のリスクも抱えているので、少し前のエンジニアバブルの頃のような感覚の経営者は少ないのではないでしょうか」(中野氏)
人とのコミュニケーションができる広義の意味でのプロマネのスキルが必要
企業としては、エンジニアを含めて人材を極力抱えない方向へシフトしていくという。
「円安や諸外国のインフレの影響で、相対的に日本人の人件費が安くなってきつつあるので、オフショア開発など海外の人材に発注するよりは日本人を使ったほうがコミュニケーションギャップも少ないしいいよね、という側面は残るかもしれません。ただ、新たに人材を採用したり外部に発注するよりも、ちょっとスキルが高いシニアクラスの人がAIを使ったほうが高いパフォーマンスを出せるということになれば、やはり企業は採用を控えるということになります。社員の人数を増やせば増やすほどマネジメントは難しくなるので、できるだけ関わる人を増やさないほうがいいというのは企業の原則論としてあるわけです。そう考えていくと、今後も企業が採用を増やし続けていくという状況が続くとは考えにくいです」
では、そうしたなかでも必要とされるエンジニアとは、どのようなタイプなのか。
「単純にプロジェクトの進捗管理だけしているようなプロジェクトマネージャーは需要が減るでしょう。そうした業務はAIツールで置き換えが可能だからです。一方で、人とのコミュニケーションができて、仕事をきちんと前に進めることができて、利益も上げていくというのはAIでは無理なので、そういう広義の意味でのプロマネのスキルを持つエンジニアは必要とされると思います。シニアクラスでも単純に技術しかわからないような人は厳しく、GAFAMでも非常に優秀で業界内では名の知れたようなエンジニアですらレイオフの対象になっている様子です。
逆にコンサルタントであれば、豊富に人との接点を持っていてコミュニケーション能力が高く、顧客から受注を取ってきて社内の多くの人員の仕事を確保し、顧客との関係性を維持してプロジェクトを完了まで持っていけるような営業的な仕事ができるような人は必要とされるでしょう。エンジニアもコーディングしかできませんという人は厳しく、PDM(Product Development Manager:製品開発マネージャー)と会話しながらプロジェクトを推進して利益を生み出せるところまで持っていけるようなエンジニアでないと、生き残っていくのは難しいでしょう」
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=中野仁/AnityA代表)











