事務部門だけで4千人の日本生命、膨大な事務処理業務をAI活用で効率化…究極は事務の自動化

●この記事のポイント
・日本生命、膨大な数に上る事務処理業務をAIを活用して効率化
・システム化できない「少量多品種事務」への対応
・保険業務の効率化、顧客体験価値向上、新規ビジネスにAIを活用
生命保険業界トップの日本生命保険が、全社的なAI導入・活用に取り組んでいる。同社は国内グループ全体で約1500万名以上の顧客を抱え、数千万件に上る契約を保有しているため、事務処理件数は膨大な数に上る。その事務処理業務をAIを活用して効率化しようと取り組んでいるのだ。「究極的には保険業務の自動化を目指したい」とする同社の取り組みを追った。
●目次
少量多品種業務をAIで解決
日本生命は事務処理の領域に、どのように生成AIを導入・活用しているのか。同社DX戦略企画部部長の加藤氏は次のように説明する。
「昨年に弊社が買収を発表した米国や豪州などで事業を展開する保険会社レゾリューションライフは、他社から保険契約を引き取って手続きをするという事業を手掛けている関係上、業務効率化のためにAIを積極的に活用しており、そのノウハウをうまく活用できないか、というのがスタートでした。弊社は個人向けの保険を保有契約ベースで約3400万件持っており、毎年、新たな契約が約300万~400万件発生し、死亡保険金や入院給付金、年金などのお支払い件数は年間約1000万件、住所変更や解約などの保全手続きは年間約480万件、発生しています。
それだけの大量の事務処理が発生しているので、当然ながら多くはシステム化しているのですが、『少量多品種事務』と呼ばれる、“めったに起きないけれど、たまに起こる”事務作業はシステム化ができません。お客様からのお申し出や営業現場の職員からの照会に対応しているのが事務部隊で、多くが大阪の拠点におりまして、本店本部で事務に関わっている職員が約4000人もおります。この部門における少量多品種業務のシステム化できない領域に、レゾリューションライフのプロダクトを活用できないかなと取り組んでいます。
お客様のお申し出に答える際には、複雑な計算が必要なことも多く、そうした業務にAIを活用したいと考え、レゾリューションライフの方に来ていただいて、ハッカソンのような集中的な検討会を実施しました。
そこでレゾリューションライフのAIに特定分野の保険契約に関するマニュアルなどを読み込ませた上で、検索機能などを使ってみたところ、RAG (情報を検索して回答を返す技術)の精度が9割以上という非常に高い結果が出たんです。このときはレゾリューションライフの環境を使ったわけですが、今後は弊社でそうした環境を構築していきたいと検討を進めている段階です。個人保険、銀行窓販、企業保険は全く異なるインフラを使っていますが、それらの領域にまたがって共通して使えるインフラを構築していきたいと考えています。9月末には本番環境が整備される予定でして、約款や執務基準票、マニュアルをそこに読み込ませて使えるようにしていくところです」
会社全体としての風土醸成が重要
将来的には、業務の自動化を目指していきたいという。
「AIエージェントと呼んでいいのかは分かりませんが、例えば『給付金に得意なツール』といったものを業務ごとにつくっていき、オーケストレーションというかたちで、個別のツールを束ねて全部自動処理できるようにするというのが究極的な目標ですが、そこまでには、まだだいぶ距離があり、まずは全部読み込んで検索できるようにするというところから実現したいと考えています。
今、弊社としては、保険業務の効率化、お客様に新たな付加価値を届けるという意味での顧客体験価値向上、そして新規ビジネスにAIを活用していかなければならないと考えています。一つ目の保険業務の効率化に関しては、コールセンター業務の効率化も大きな目玉です。弊社には個人保険、銀行窓販、団体保険、401kと複数のコールセンターがあり、1カ所で確立させた仕組みを他のコールセンターにも適用できるので、効果が大きい。ですので、現在はさまざまなPoC(概念実証)をしたり、外部のベンダーさんにも相談させていただいているところです。
効率化の面では、営業現場からの社内照会窓口もあげられます。営業部長から照会を受ける拠点長サポートデスクで昨年PoCを実施したところ、一定の効果が確認できたので、9月末から実装しようと計画しています。一番の大玉は営業職員の活動の高度化でして、結果的にそれが顧客体験価値向上につながるので、さらに高みを目指してやっていきたいと考えています。
新規ビジネスの領域でいいますと、米スタンフォード大学における疾病予測AIに関する研究に弊社の研究員を2人派遣しており、26年3月末で期間が終了するので、そこでの成果をもとにビジネス化するといったことにもチャレンジしていきます。
こうした取り組みを進めていくには、会社全体としての風土醸成が重要であり、リテラシー向上のために役員向けのAI勉強会を月1回くらいのペースでやりたいと考えています。そして従業員向けとしては、今年度の下期くらいからモードを変えて『全員AIを活用するのが当然』、というくらいの温度感でやっていければと考えております」
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)











