リサイクル率1%の壁を突破!脱・中国、純度99.99%「国産リチウム」の衝撃

●この記事のポイント
QST認定ベンチャーのLiSTieは、独自技術「LiSMIC」により、使用済み電池から純度99.99%の水酸化リチウムを直接回収するリサイクル事業を推進。リチウムの海外依存や中国の輸出規制がリスクとなる中、2027年の出荷開始を目指し「国産資源」の確立を急ぐ。さらに将来は核融合燃料の分離も視野に入れており、15億円規模の国策支援を背に、世界の資源循環を担う基盤企業を目指す。
スマートフォン、ノートパソコン、そしてEV(電気自動車)。私たちの暮らしを支えるリチウムイオン電池の需要は、いま爆発的に拡大している。市場規模は2025年に約4.4兆円、2030年には10兆円を超えるとの予測もある。
だが、その成長には深刻な「アキレス腱」がある。日本はリチウム資源をほぼ全量、海外からの輸入に頼っており、鉱石から電池原料への精製は中国がほぼ独占している。2025年以降、中国はレアメタルの輸出管理を立て続けに強化し、2026年には日本企業を名指しした輸出規制にまで踏み込んだ。「いつリチウムの調達が止まってもおかしくない」という危機感もある。
しかも、使用済みリチウムイオン電池のリサイクルは世界的にほとんど進んでいない。リサイクルされているリチウムは全体の1%未満。既存技術では電池原料に使える純度を確保できないことが最大の壁だ。
この壁を突破しようとしているスタートアップがある。

2026年3月26日、千葉県柏市の「三井リンクラボ柏の葉」で、LiSTie(リスティー)株式会社がベンチプラント見学会を開催した。QST(量子科学技術研究開発機構)の認定ベンチャーでもある同社は、星野毅代表取締役がQSTの研究員時代に開発したセラミックス膜によるリチウム回収技術「LiSMIC」の社会実装を目指している。ベンチプラントの完成は、ラボレベルの実験を商用スケールへ引き上げる決定的な一歩だ。
本稿では、同見学会での星野氏の説明をもとに、LiSMICの技術的革新性、事業戦略、そしてフュージョンエネルギーにまで広がるビジョンをお伝えする。
●目次
1:中国独占の壁を崩す「お茶碗」の原理。純度99.99%をワンパスで実現する「LiSMIC」とは
2:ベンチプラント完成、「24時間365日動く装置」への挑戦
3:「世界初のリサイクルリチウム」を2027年に出荷へ
4:核融合燃料「リチウム6」への展開…次世代エネルギーの「鍵」を握る
5:最大15億円の助成とQST初出資…国が「一蓮托生」で賭ける資源戦略の切り札
6:「子供たちの世代に資源問題を先送りしない」
中国独占の壁を崩す「お茶碗」の原理。純度99.99%をワンパスで実現する「LiSMIC」とは
「お茶碗と同じです。水は絶対に通さない。でも、リチウムだけは通してくれる」
星野氏は、LiSMICの原理をそう表現した。
LiSMICとは「Li Separation Method by Ionic Conductor」の略。特殊なセラミックス製のイオン伝導膜を使い、溶液中からリチウムだけを選択的に分離・回収する技術だ。

セラミックス膜の両端に電圧をかけると、リチウムイオンが電気の力で膜の中に引き込まれ、反対側に抜けていく。ナトリウムやマグネシウム、銅といった他の元素は一切通過しない。膜の結晶構造の中に「リチウムだけが居心地のいい空席」が用意されているからだ。
「膜を焼き物として作る段階で、わざとリチウムの数を少なく配合するんです。すると、本来リチウムがいるはずの場所に空きができる。この空きに対して、エネルギー的に親和性が最も高い元素、つまりリチウムだけが入ってくる」
電圧を極端に上げれば他の元素も入るのでは、と思うかもしれないが、それもない。結晶構造そのものがリチウム専用に設計されているため、条件を変えてもリチウム以外は侵入しない。

従来の「溶媒抽出法」では、大量の化学薬品で不純物を除去するが、銅やアルミニウムを完全に取り除くことが難しく、生成できるのは炭酸リチウムまで。電池に必要な水酸化リチウムへの変換には、さらに中国での精製が必要になる。
一方、LiSMICは膜を1回通すだけで純度99.99%の水酸化リチウムをダイレクトに生成できる。不純物を「取り除く」のではなく、欲しいリチウムだけを「取り出す」逆転の発想だ。
「電池の原料として絶対に入ってはいけない元素を含まない水酸化リチウムを作れるのは、我々だけだと思っています」
ベンチプラント完成、「24時間365日動く装置」への挑戦
今回公開されたベンチプラントは、LiSMICを実際の生産設備へスケールアップするための検証装置だ。
「膜のサイズ自体は手のひらサイズのまま変わっていません。セラミックスは大きくすると割れてしまう。0.5ミリの薄さですから、お茶碗と同じでパリッといく。だから膜を何枚も並列に並べて処理量を稼ぐ設計にしました」
9枚のセラミックス膜を搭載し、24時間365日の連続運転を可能にするシステムが組み込まれている。最大のポイントは、リチウム濃度と温度を自動で一定に維持する制御技術だ。
「膜がリチウムを回収し続けると原液の濃度が下がり、回収速度も落ちる。だから前処理で濃度を高めた原液を連続的かつ自動で補充するシステムを作りました。温度管理も同様です」
生産能力は商用プラントの約100分の1だが、膜の枚数を増やせば量はスケールアップできる設計だ。将来の商用プラントは40フィートコンテナサイズの「LiSMICユニット」として、年間570トンの水酸化リチウム生産を目標とする。システムさえ検証できれば、あとは膜を増やすだけとなっている。
「世界初のリサイクルリチウム」を2027年に出荷へ
LiSTieのビジネスモデルは2つのフェーズで構成される。
第1フェーズは、使用済みリチウムイオン電池からのリサイクルリチウム製造・販売だ。廃電池を焼成して「ブラックマス」と呼ばれる粉末にし、溶液化してLiSMICで回収する。
「とにかくリサイクルリチウムのニーズが高い。ヨーロッパは2031年からリサイクルを法制化していて、自動車メーカーは調達しなければいけないのに、供給できる会社がいない」
2027年からの売上開始を計画し、試作サンプルは2026年度中にも出荷予定。岐阜県の耐火物メーカーTYKと協力し、耐火物廃材から1日1.5kgの水酸化リチウムを回収するテストを進めている。
第2フェーズは、コンテナ型回収装置「LiSMICユニット」の製造・販売だ。南米の塩湖やオーストラリアの鉱山など世界のリチウム産地に納入し、膜交換メンテナンスや技術指導も収益源とする。
ただし装置販売には慎重な姿勢も見せる。
「まず自社でリサイクル製造をやりながら運転実績を積み、信頼性を固めてから装置販売に入る。トラブルがあっても自分たちで膜を交換して再起動できますから」
製造コスト目標はキロあたり500円。製造工場は大手企業が撤退した川崎市の工場跡地を検討しており、川崎市と具体的な協議が進んでいる。
「2030年には、世界のリサイクルリチウムの4分の1くらいを担えるような規模にしたい」
核融合燃料「リチウム6」への展開…次世代エネルギーの「鍵」を握る
LiSTieのビジョンは電池リサイクルにとどまらない。その先に見据えるのは「フュージョンエネルギー(核融合)」だ。
核融合炉の燃料であるトリチウム(三重水素)の製造には「リチウム6」が不可欠だが、通常のリチウムに含まれるリチウム6はわずか7.6%。残りはわずかに重いリチウム7で、両者を分離する必要がある。
「LiSMICの膜をリチウムが通過するとき、軽いリチウム6の方がほんの少し速く移動します。この速度差でリチウム6を濃縮できる。QSTと共同で原理的な検証は完了しています」
従来の分離法は水銀を使うため環境負荷が大きく、現在はロシアと中国でしか行われていない。日本では水銀の使用が困難で、国産の代替技術が求められていた。QSTの核融合発電実証炉「Q-DEMO」は2038年完成、2039年発電開始の計画で、星野氏はこのタイムラインに合わせてリチウム6供給体制を整備する構えだ。
「QSTにいたとき、核融合でリチウムが必要だというところからこの開発が始まりました。実現はまだ先ですが、その前に社会で役立つなら積極的に還元していく。それがQSTの職員みんなの思いです」
最大15億円の助成とQST初出資…国が「一蓮托生」で賭ける資源戦略の切り札
LiSTieへの支援体制は、シードステージのスタートアップとしては異例だ。
文部科学省のSBIRフェーズ3に採択され交付上限15億円の助成を獲得。NEDOのディープテック・スタートアップ支援事業にも採択された。シードラウンドでは素材・化学系VCのユニバーサル マテリアルズ インキュベーター(UMI)から1.5億円を調達している。
さらに2025年3月、QSTがLiSTieへ出資。認定ベンチャーへの出資はQST設立以来初で、知財の実施許諾対価として株式を取得するスキームにより、研究機関とスタートアップが「一蓮托生」の関係を築いた。
「正社員14人、業務委託含めて20人超の小さな所帯ですが、大企業で活躍されていた方々が加わってくれて、開発のスピードは格段に上がっています」
「子供たちの世代に資源問題を先送りしない」
「このままリチウムが消費され続ければ、2040年代には需給バランスが崩れると言われています。自分の子供たちや孫の世代が資源に困る。日本はずっと資源に困ってきた国なのに、さらに先送りするのか。我々はそうなってはいけないと思って、この会社を立ち上げました」
LiSTieが目指すのは、リチウムの「一方通行」を「循環」に変えることだ。使い終わった電池からリチウムを回収し、新しい電池に生まれ変わらせる。南米の塩湖から中国を経由せずにダイレクトに水酸化リチウムを製造する。そして将来は、核融合炉の燃料まで。
柏の葉のラボで静かに稼働を始めたベンチプラント。その小さな装置が刻む24時間365日のリズムは、日本のエネルギー資源戦略に新たな選択肢を提示している。
(取材・文=昼間たかし)











