大手電力会社が太陽光と風力による発電を一時的に止める「出力抑制」が2023年に急増し、1年間に制御された電力量が全国で計約19.2億kWhに達したと、朝日新聞が独自集計を2月に報じた。出力抑制は電気の供給が需要を大きく超えたときに、電力会社がさまざまな発電設備の出力を停止することで需要と供給をコントロールする制度だ。電気は、使用量(需要)と発電量(供給)のバランスを保たなければいけないという原則があり、これを揃えないと周波数のバランスが崩れて安定供給ができなくなってしまうからだ。
19.2億kWhは過去最多だった21年の3倍超で、約45万世帯分の年間消費電力量に相当する。大手電力は供給された再生可能エネルギー(以下、再エネ)を捨てていると批判されている。メディアの多くは「出力制御」という言葉を使っているが、英語ではcurtailmentといい、環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長によれば、日本語訳としては「出力抑制」が適当だという。
「出力制御というのは、政府があたかも全体を制御しているかのような印象操作をするための用語。裏金を還付金と言い換えるのに似ている」(飯田氏)
出力抑制せず再エネを活用する方法はたくさんある
出力抑制が初めて行われたのは2018年10月で、九州電力だった。その後、21年までは太陽光発電が多く電力需要の少ない九州電力管轄のみで実施されていただけだったが、22年になってから北海道に始まり、東北、四国、中国と各エリアで立て続けに出力抑制が実施された。さらに、23年に入ってからは、中部、関西、沖縄でも実施され、 東京電力管内以外すべてのエリアで実施された。
電力が余りそうなときに行う出力抑制には国のルールがある。まず、二酸化炭素(CO2)の排出量が多く、出力を上げ下げしやすい火力を減らす。それでも発電量が多ければ他地域への送電や揚水発電を活用する。それでも電気が余ったときに初めて、バイオマス、太陽光・風力の順番で再エネの出力抑制が行われることになる。
太陽光・風力の出力抑制の実施順位は比較的低い傾向にあるというものの、昨年開催の「第28回気候変動枠組条約締約国会議(COP28)」で採択された決定文書では、2030年までに世界全体で再エネの発電容量3倍増の目標が掲げられている。現状のように再エネを捨てているようでは、日本での目標達成は不可能ではないか。飯田氏は再エネの出力抑制をする前にすべきことはたくさんあると話す。まず、エリア間での融通だ。
「今は九州から中国に送る電気量をあらかじめ決めておいて、太陽光の出力と関係なく一定にしている。また、中国から先の関西に送る量も、関西が自分たちの火力を減らせば九州から電気を最大限送っても、もっと吸収できるはずだが、関西は受け入れない。自分たちの火力を減らしたくないから。中部から東京にももっと送れるし、火力を減らせるはずだが、それをやらない」
原発の定期点検の時期をずらすだけでも変わってくるという。春は気温が上がって一般家庭の電力需要が減り、一方で日照時間が長くなり太陽光の供給が増える。
「九州電力には原発が4機あるが、春は電力需要が少ないので、原発を全部止めて定期点検に集中すればよい。あるいは、春の間だけ出力50%運転にすればよい。フランスでも再エネを活用するために原発を落としている。それから、九電も他の電力会社もエコキュートでいまだに深夜電力を割引しているが、それをやめて太陽光が安い昼間にシフトすべきだ。九電だけで、これで300万kWくらい需要が増える可能性がある」
九州電力のサイトを見ると、玄海原発の定期検査は3月に行われ、川内1号機は6月、2号機は9月に予定されている。これを気候が温暖な4~5月に変えるのは無理がないように思えるがどうだろう。そして、出力抑制の問題を短期的に解決する方法は蓄電池だと飯田氏は話す。
「蓄電池が猛烈に安くなってきているので、とにかく大量に送電系統の上流に入れていくこと。太陽光や風力の発電事業者は出力抑制を最小化できるし、既得権益の電力会社にとってもメリットがある」
中途半端な形の発送電分離が根本原因
大手電力が火力発電を最大限止める努力をしないのには経営上の理由がある。
「電力の需給調整をするのは送配電会社だが、日本の発送電分離は中途半端な形だ。例えば、九州の送配電会社(九州電力送配電)は親会社が九州電力で、火力発電所を動かせば動かすほど儲かる。火力を止めればそれだけ儲けが減る。しかし、九州電力と資本関係のない外部の太陽光発電は止め放題。止めても自分たちは痛くもかゆくもない。自分たちの火力発電も一応ルール通りには止めるが、それ以上は減らさない」(飯田氏)
2012年7月から施行されたFIT(固定価格買取制度)法では、太陽光や風力などの再エネ電力を、長期固定価格で電力会社が買い取ることを義務付けていた。このFIT法は2017年4月に改正され、再エネ事業者からの買取義務が電力会社から送配電事業者に変更された。
北海道から沖縄まで10区域に分割され、それぞれの区域には1社の送配電事業者がある。ところが、例えば「東京電力パワーグリッド」の株主は東京電力ホールディングス100%であり、「関西電力送配電」の株主は関西電力100%である。他の地域もすべて同じ形だ。つまり、需給調整を任されている送配電事業者は、資本関係上、中立的な立場ではない。親会社の利益を優先したり、グループ内の火力発電をできるだけ止めないようにしたりするのは、会社にとって合理的な考え方なのである。
資源エネルギー庁の3月11日発表によれば、2024年度の全国の出力抑制量見通しは、昨年の1.4倍に増えるとのことだ。
「このままいくと、2030年には北海道は太陽光と風力の74%抑制とか、東北も85%抑制、九州も71%抑制などという具合に、ほとんど増やせない状況になる」(飯田氏)
再エネ事業者の倒産が増える?
再エネの普及拡大は地球温暖化防止対策として国が進め、受け入れ制限は起こらないという前提で太陽光発電などの再エネ事業は始まった。売電している再エネ事業者は、計画した発電量で毎年電気を売ることを前提に資金計画を立てている。売電できるかどうかわからないということでは事業計画が狂ってしまい、事業が頓挫し借金だけが残るという事態になることも考えられる。
「再エネ事業者からは悲鳴のような声がたくさん上がっている。それから、2014年9月に九電は初めて太陽光発電の新規買取契約の中断を発表し、国と電力会社は接続可能量を出してきて、その後の契約では無制限無保証を前提に系統連携するということになった。しかし、これは完全に優先的地位の乱用であり、電力会社はその条件でしか契約しないというので、すべての再エネ事業者は泣く泣く、一応それで契約している。契約しなければFITで連携できないからだ。それで電力会社は止めたいだけ止めるということをやっている」(飯田氏)
昨年11月末、経済産業省は22年度における国内の電源構成の速報値を発表した。国内の発電電力の割合は、火力発電が70%以上を占めており、次いで太陽光(9.2%)、水力(7.6%)、原発(5.6%)、バイオマス(3.7%)、風力(0.9%)、地熱(0.3%)という順だ。再エネは約22%程度を占めていることになるが、日本はどうやってこれを国際目標である3倍増にするのか。ビジョンがまったく見えてこない。
(文=横山渉/ジャーナリスト)