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「2年契約」の壁を壊す大東建託…ホテル・サブスクとデジタルノマド争奪戦へ

2026.09.17 05:55 2026.09.17 00:19 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=伊藤健吾/不動産アナリスト

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●この記事のポイント
大東建託が全国130万戸の管理物件を対象に、年収1000万円以上の外国籍デジタルノマド向け短期賃貸「デジタルノマドプラン」を開始。在留カード不要・賃料一括前払いで1〜6カ月の契約が可能に。ホテルや民泊、定額住み放題サービスとの顧客争奪戦の行方を、業界構造とビジネスモデルの両面から分析する。

 大東建託グループの賃貸仲介・管理会社である大東建託リーシング株式会社(東京都港区)は2026年9月7日、外国籍のリモートワーカーを対象とした短期賃貸サービス「デジタルノマドプラン」の提供を開始したと発表した。グループが管理する全国130万戸超の賃貸住宅の中から、家具・家電・Wi-Fi・水道光熱費定額プランを備えた物件を選び、1カ月から最長6カ月まで借りられる仕組みだ。

 日本の賃貸市場には長年、「2年契約が基本」「在留カードが必須」「日本国内に保証人が必要」という、外国人の短期居住者にとって高いハードルが存在してきた。大東建託の新プランは、在留カードの代わりにパスポートとビザで本人確認を行い、保証人についても海外在住者や日本語を含む対象言語の話者であれば認めるなど、審査基準そのものを見直した点が特徴だ。支払い面では、滞在期間分の賃料を一括で前払いしてもらうことで未払いリスクを抑え、審査の柔軟化と両立させている。

 なぜ今、業界最大手クラスの賃貸事業者がこの領域に踏み出すのか。そして、この動きは誰をターゲットに、どの業界と顧客を奪い合うことになるのか。本稿では公表情報と業界動向を基に、その狙いと構造を整理する。

●目次

高所得デジタルノマドと国内の短期滞在層

 このプランが第一に想定しているのは、日本政府が2024年4月に新設した在留資格「デジタルノマド」の保有者だ。出入国在留管理庁によれば、対象となるのはビザ免除措置の対象国・地域(約50カ国・地域)の国籍を持ち、年収1000万円以上であることを税証明などで示せる高スキルのリモートワーカーで、滞在期間は最長6カ月、医療保険(傷害・疾病について1000万円以上の保障)への加入が義務付けられている。当時の法務大臣は、世界にはこうしたデジタルノマドが推計で約3500万人存在するとの見方に言及しており、政府としても高所得の長期滞在者を新たなインバウンド需要として取り込みたい狙いがある。

 大東建託が見据えるのは、まさにこの層だ。従来の「観光客」とは異なり、日本に暮らしながら海外企業の業務を続ける「暮らすように働く」滞在者であり、高速Wi-Fiや自炊可能な生活環境、契約手続きの簡便さを重視する傾向がある。

 もう一つ、見逃せないのが国内の「アドレスホッパー」や短期赴任者だ。敷金・礼金・2年契約という慣行を嫌う国内のITエンジニアやフリーランス、プロジェクト単位で拠点を移す企業の出張・赴任者にとっても、家具家電付きで短期契約できる物件は選択肢になり得る。大東建託にとっては、外国人インバウンド需要を入口としつつ、国内の柔軟な働き方の広がりも取り込める設計になっている。

重なり合う4つの市場

 このプランの参入によって、既存の複数業態と顧客の奪い合いが生じる可能性がある。それぞれの強み・弱みを整理すると、次のように位置づけられる。

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 ここで重要なのは、これらはいずれも「敵か味方か」という単純な構図ではないという点だ。滞在目的や期間、予算によって適した選択肢は異なり、市場全体としては「短期・柔軟な住まい方」を求める需要のパイが広がっていく可能性がある。大東建託の参入は、既存事業者にとって競合であると同時に、市場の裾野を広げる存在にもなり得る。

与信の壁をどう崩すか

 大東建託の設計で注目すべきは、与信リスクの処理方法だ。在留カードがない在留資格者を受け入れつつ、滞在期間分の賃料を一括前払いさせることで、賃料未払いという賃貸経営最大のリスクを実質的に排除している。これは、外国人入居に伴う「言語・文化の壁」よりも「支払いの確実性」を重視する不動産事業者の発想に近く、審査の緩和と収益の安定化を両立させる仕組みと言える。

 収益性の観点では、空室リスクを抱えやすい地方・郊外物件を家具家電付きの短期賃貸に転用することで、通常の長期賃貸よりも高い単価を設定しやすくなる可能性がある。ただし、清掃・家具家電の維持管理、多言語サポート体制の構築にはコストもかかるため、実際の収益性は物件の稼働率や立地、運営体制の巧拙に左右される部分が大きく、現時点で確定的な評価を下すのは早計だろう。

 また、全国130万戸という管理戸数の規模は、都市部の一等地に集中しがちな既存の外国人向け短期賃貸サービスと比べた際の明確な差別化要因になる。地方都市や観光地周辺の物件も一元的に提供できる点は、都心以外での滞在需要を取り込む上での強みだ。

 不動産アナリストの伊藤健吾氏は、次のように指摘する。

「在留カードの有無に関わらず柔軟に審査するという発想自体は、外国人材の受け入れを進めてきた企業の人事分野ではすでに一般的だった。それを賃貸経営の与信管理に応用した点が今回の特徴だ。ただし、一括前払いを前提にした集客がどこまで広がるかは、実際の稼働率データが出てから評価すべきだろう」

 また、インバウンド消費の変化を研究する専門家は「訪日外国人の消費行動は、モノを買う『爆買い』から、体験や暮らしにお金を使う方向へ変わってきている。長期滞在者向けの住まいは、その延長線上にある動きの一つと見ることができる。一方で、6カ月という期間設定は日本の在留資格制度に合わせたものであり、需要がどこまで恒常化するかは今後の制度運用も含めて見ていく必要がある」と話す(観光政策アナリスト・湯浅郁夫氏)。

「所有」でも「長期賃貸」でもない、期間可変型の住まい方

 大東建託の今回の取り組みは、不動産市場が「所有」や「2年契約の長期賃貸」だけでなく、必要な期間だけ契約する「期間可変型」の住まい方へと広がっていく一つの兆候として捉えることができる。ソフトウエア業界で普及したサブスクリプション型のサービス設計に近い発想を、不動産という物理的な資産に応用した事例と言えるだろう。

 今後、他の大手賃貸事業者やハウスメーカーが同様のプランを追随する可能性は否定できないが、それには入居審査の柔軟化や多言語対応、家具家電の維持管理コストなど、大東建託と同水準の投資や体制構築が必要になる。参入障壁は決して低くはなく、どの企業が本気で追随するかは今後の各社の発表を注視する必要がある。

 インバウンド需要の観点からは、短期の「爆買い」型消費から、長期滞在に伴う生活消費(食費、日用品、交通、余暇など)へと消費の質が広がっていく可能性がある点も注目に値する。これは観光地の消費だけでなく、地方経済にも影響し得るテーマであり、住宅業界にとどまらない広がりを持つ動きとして、今後の展開を見ていく価値があるだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=伊藤健吾/不動産アナリスト)

【主な参照データ・出典】
  デジタルノマド向け短期賃貸サービス「デジタルノマドプラン」を導入(大東建託 プレスリリース/PR TIMES)
  大東建託、デジタルノマド向けの短期賃貸プランを開始、在留カード不要など入居審査基準を改定(TravelVoice)
  日本版「デジタルノマド」ビザが開始、約50カ国・地域の年収1000万円以上が対象、滞在期間は6ヶ月以内(TravelVoice)
  「デジタルノマド」受け入れへ、平均年収1700万円の「旅人」をどう活かす?(JBpress)

BusinessJournal編集部

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公開:2026.09.17 05:55