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ChatGPTはグーグル検索の10倍電力消費…丸紅の米天然ガス買収が映すAIインフラの「電力不足」

2026.06.22 06:00 2026.06.21 23:51 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=佐伯俊也/エネルギー政策研究家

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●この記事のポイント
生成AIの電力需要急増を受け、丸紅が米テキサス州のシェールガス会社EagleRidgeを数百億円で完全子会社化。ChatGPTはグーグル検索の10倍の電力を消費し、米データセンターの31%しか着工できない送電網ボトルネックが背景に。バフェットの商社株保有とAIインフラ投資の関係も解説する。

 ChatGPTの登場から数年、生成AIは私たちの仕事や生活に急速に浸透した。だが今、AI業界の最前線で経営陣が頭を抱えているのは、アルゴリズムの精度でも半導体の性能でもない。「電気をどう確保するか」という、極めて泥臭い問題である。

 総合商社の丸紅が6月17日、米テキサス州バーネット・シェール層で天然ガス権益を保有するEagleRidge Energy II LLCを完全子会社化したと発表した。丸紅は米国テキサス州に位置するバーネット・シェール層において天然ガス権益を保有し、その開発・生産・販売などを手掛けるEagleRidgeの全持分を取得し、完全子会社化した。日本経済新聞によれば、投資額は数百億円とみられ、人工知能(AI)普及によるデータセンター向けの電力需要を取り込む狙いがあるという。

 一見、AI時代に逆行するかのような「化石燃料」への投資。しかし、この一手の裏には、AI産業が直面する構造的な課題と、それを見越した商社の長期戦略が透けて見える。本稿では、この買収が示す業界の実情を、客観的なデータと専門家の見方を交えて読み解く。

●目次

AIは電力の「大食いモンスター」である

 生成AIの電力消費量は、従来のインターネットサービスとは桁が違う。複数の試算によれば、ChatGPTは1回の質問で約2.9Whの電力を消費し、これは一般的なGoogle検索の電力量(約0.3Wh)の約10倍に相当するとされる。

 この差が積み重なった結果が、データセンター全体の電力需要の急増だ。国際エネルギー機関(IEA)の試算では、世界のデータセンターの電力消費量は2026年に2022年比で2.2倍となる約1000TWhに達する見込みで、これは日本の年間総電力消費量に匹敵する規模だという。さらに長期的には、2034年までにデータセンターの電力消費は世界全体でインドの総エネルギー需要に近い1580TWhに達すると予想されている。

 エネルギー政策研究家の佐伯俊也氏は次のように指摘する。

「AIの計算需要は、学習にせよ推論にせよ、本質的に電力消費と直結しています。モデルが大規模化・高性能化するほど、必要な電力も比例して増える。ソフトウェアの進化がそのままハードウェアとエネルギーの需要に転化される、これがAI産業の構造的な特徴です」

 問題は、需要の急増に供給インフラが追いついていないことだ。米ブルーム・エナジーが2026年1月に公表したレポートによれば、AI向けの高密度ラックは従来のクラウドサーバーと比較して数倍から十数倍の電力を消費しており、多くの地域で新規データセンターの送電網接続に数年単位の待機期間が発生しているという。

 実際、米国のデータセンター建設の現場では、計画と実態の乖離が顕著になっている。独立系調査会社の分析によれば、2026年に米国で計画された約140プロジェクト・16GW分のうち、実際に着工しているのは約31%・5GWにとどまり、残りの大半は発表段階で工事すら始まっていない。マイクロソフト、アマゾン、グーグル、メタの4社が合計6000億ドル超という巨額投資を表明する一方で、電力グリッドへの接続待ち、変圧器不足、許認可の停滞といった物理的な制約が建設を縛り続けているのが実情だ。

「再エネだけでは足りない」という現実的な判断

 テック大手各社は、長年「カーボンニュートラル」を掲げ、太陽光や風力など再生可能エネルギーへの投資を進めてきた。この方向性自体は今も変わっていない。しかし、太陽光や風力は天候に左右されるため、24時間365日止まることが許されないデータセンターの電源として、単独で需要のすべてを賄うことは現実的に難しい。

 こうした事情から、近年テック企業やエネルギー企業が相次いで選択しているのが、天然ガス火力発電という選択肢である。米石油大手シェブロンは、2027年末までに総発電容量4ギガワットのガス火力発電施設を米国南東部・中西部・西部地域に建設し、送電網を介さずデータセンターに直接電力を供給する計画を打ち出している。同様に、電力大手NextEraと石油メジャーのExxonMobilも、ノースダコタ州で新しい複合サイクル天然ガス発電施設の共同開発を検討しており、完成すればマルチギガワット規模のデータセンターキャンパスへの電力供給を見込むと発表した。

 業界全体を見渡しても、この動きは加速している。米国の発電インフラを調査する国際研究機関によれば、世界全体で開発中のガス火力発電設備容量は2025年に31%増加し、合計1047GWに達した。2026年は新規ガス火力発電プロジェクトが記録を更新する可能性があるという。

「送電網の増強には用地取得や環境アセスメント、許認可など何年もかかるプロセスが必要です。一方、ガス火力発電所はガス田の近くやデータセンターの隣接地に比較的短期間で建設でき、送電網を経由せずに直接電力を供給する『オンサイト発電』が可能になる。テック企業にとっては、グリッドのボトルネックを迂回できる現実的な解決策として映っているのでしょう」(佐伯氏)

 ただし、ガス火力発電への依存拡大は、脱炭素目標との整合性という課題も併せ持つ。シェブロンのように二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)技術の併用を進める動きもあるが、再エネ・原子力・ガスをどう組み合わせるかは、各社・各国で議論が続いている論点である。

丸紅の狙い ― 「資源の仲介」から「インフラの担い手」へ

 このような市場環境の中での丸紅の買収は、単なる資源権益の獲得にとどまらない意味を持つ。丸紅のプレスリリースによれば、今回の買収によって天然ガスおよび天然ガス液を合わせて日量約170MMcfe(LNG換算で年間約130万トン)の生産規模を持つことになる。同社はこれを、中期経営戦略「GC2027」に基づく2027年度までの3カ年で2,000億円を資源投資に配分する方針の一環と位置づけている。

 注目すべきは、丸紅が単にガス田を保有して「右から左へ」販売するのではなく、米国内でのガス供給網と発電事業に積極的に関与してきた経緯だ。同社は過去にも米ニュージャージー州のガス火力発電事業に出資するなど、北米の電力バリューチェーンに長年携わってきた実績がある。今回のガス田買収は、上流(資源開発)から下流(発電・供給)までを一気通貫で押さえる「垂直統合」戦略の一手と捉えることができる。

「総合商社は元来、資源の権益を持ちながら、川下のインフラや需要家と直接結びつくことで収益の安定性を高めてきました。AIデータセンター向けの電力需要は、長期的に底堅い『売り先』が確保しやすい。資源価格の変動リスクをヘッジしつつ、安定収益を積み上げられる点で、商社にとって合理性の高い投資だといえます」(同)

 数百億円という投資額は、丸紅の規模からすれば「大博打」というよりも、堅実なポートフォリオ拡張の範囲内にある。実際、丸紅は過去にも米国のシェールガス・オイル権益の取得と売却を繰り返しながら、資産の入れ替え(リサイクル)を行ってきた経緯があり、今回の買収もその延長線上の経営判断として位置づけられる。

バフェットが示唆する「商社株」への評価

 この文脈で改めて注目されるのが、投資家ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイが、長年にわたり日本の5大商社株を買い増し続けている事実だ。バークシャーは2020年に5大商社株を5%超取得して以降、保有比率を段階的に引き上げ、2025年8月時点では各社9〜10%前後、商社・損保株の保有額は合計で約8兆円に達していると報じられている。さらに2026年3月には、東京海上ホールディングス株の2.49%(18億米ドル)を取得する資本業務提携を発表するなど、日本の事業会社への関心を広げている。

 バフェットがなぜ商社株を長期保有し続けるのか、その理由を商社株への投資を一概に「AI関連投資」と結びつけるのは早計だが、両者には共通する論理がある。すなわち、デジタル化やAI化がどれだけ進んでも、その基盤を支えるのは天然ガス、鉱物、食料といった現実の資源とインフラだという点だ。商社はその資源と需要家を結びつける事業構造を持ち、安定したキャッシュフローを生み出してきた。バフェット自身は商社の経営陣の質や株主還元姿勢を評価していると伝えられており、今回のような資源インフラへの積極投資は、こうした評価と整合的な動きと見ることができる。

 もっとも、これはあくまで一つの見方であり、商社株への投資判断がAI関連の電力需要のみに起因するわけではない点には留意が必要だ。商社のビジネスは資源価格の変動や為替リスクとも無縁ではなく、投資判断は個々の財務状況や市場環境を踏まえて行われるべきものである。

AIの「クリーンなイメージ」の裏にある現実

 生成AIという技術は、知的で洗練されたイメージで語られることが多い。しかし、その実態を支えているのは、ガス田の開発や発電所の建設といった、極めて物理的でアナログな産業基盤である。丸紅の米天然ガス会社買収は、そのことを象徴する一つの出来事といえるだろう。

 ビジネスパーソンにとっての示唆は明確だ。脱炭素やESGといった理念は引き続き重要なテーマであり続けるが、同時に、AI産業の急成長を実際に下支えしているのは天然ガスや電力インフラへの巨額投資であるという現実も、正確に理解しておく必要がある。理念と実需、その両方を見据えた視点を持つことが、これからのAI時代のビジネスを読み解く上で欠かせない姿勢になるはずだ。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=佐伯俊也/エネルギー政策研究家)

公開:2026.06.22 06:00