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NHK、30年代に存続が困難な状況か…受信料の税金化・電波放送廃止も要検討

文=Business Journal編集部、協力=鈴木祐司/次世代メディア研究所代表
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NHK放送センター(「Wikipedia」より)

 NHKの2023年度決算が発表され、事業収支差金が34年ぶりに赤字となったことが注目されている。赤字額は136億円(単体)で、受信料収入が前年度より396億円減少したことが主な要因。NHKの受信契約総数が過去4年間で100万件以上減っており、今後も速いペースで事業収入の減少が続けば、NHKという組織の存続が困難になる可能性はあるのか。また、存続のためにはどのような取り組みが必要なのか、そしてNHKが必要な改革を行うことは可能なのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 NHKの23年度決算報告によれば、受信料収入は前年度より396億円減の6328億円、受信料を含む事業収入は前年度より433億円減の6531億円で、ともに過去最大の減少幅。一方、事業支出は0.5%減で6668億円。昨年10月に約1割、受信料を値下げした影響も大きく、赤字となった。受信契約件数は4107万件と前年度比37万件減。

 現在のNHKの経営状況をどうみるか。次世代メディア研究所代表の鈴木祐司氏はいう。

「非常に厳しいといっていいと思います。菅義偉政権のときに方向づけられた受信料1割値下げはNHKにとっては想定外の事態であり、この影響は大きいです。NHKは数年前から受信料の未払いについて最高裁の違憲判決を得るなどして収納率を引き上げてきましたが、“上客”である高齢者世帯は年々減少している一方、40代以下では受信料を払わない世帯が増えています。

 NHKは25年度以降、受信料収入が毎年、対前年比で75~80億円ほど減少していく見通しを立てていますが、この数字は甘く、実際の減少幅はもっと大きくなると考えられます。総務省『令和5年通信利用動向調査』によれば、テレビを保有している世帯のうちチューナーレステレビのみを保有している世帯は9.2%で、チューナー付きテレビのみを保有している世帯は78.1%と8割以下にまで減少しています。日本全体の世帯主の年齢別構成としては現在49歳以下の比率が今後は高まっていくことから、チューナー付きテレビを保有して受信料を払う世帯はどんどん減っていきます。

 NHKは25年度に事業収入が6000億円を割るという見通しを立てていますが、30年代には5000億円を切る可能性が高いと考えられます。23年度の番組制作費は3133億円で、事業収入に対して約48%であり、この比率をそのまま当てはめると30年代には番組制作費を2400億円程度にまで引き下げる必要があります。NHKは24~26年度の中期経営計画で27年度の経費支出を23年度比で1000億円削減するとしていますが、NHKの見通しより速いペースで受信料収入の減少が進行するため、収入の落ち込みに支出の削減が追いつきません。黒字化はあり得ず、2030年代には現在の収支構造を維持したままでは存続できなくなると考えられ、根本的な対策が必要です」

受信料制度の見直し、番組制作費の削減

 根本的な対策としては、どのようなものが考えられるか。

「1つ目が受信料制度の見直しです。チューナー付きテレビを保有している世帯から受信料というかたちで徴収する仕組みに代わり、ドイツと同様に税金のようなかたちで国民から広く徴収するかたちにすることです。人口減少が続くものの、事業収入が大幅に減るという事態は当面は回避できるでしょう。

 2つ目が支出削減、具体的には番組制作費の削減です。NHKはこれまで、公共メディアとして何をすべきか、どのジャンルを残し、どのジャンルをやめるべきかという議論を煮詰めてきませんでした。社内では制作セクションごとに労働組合のメンバーがいるため、特定のジャンルの制作を丸ごと廃止するという議論はなされませんでした。インターネットの普及により世界的に映像情報が増えているなか、公共メディアがどこまでやるべきかという議論は避けて通れなくなっています。たとえばアメリカの公共放送サービス・PBSは1990年代にこの点の議論を深め、商業放送局がやらないことをやるという方針を決め、ボストンのWGBHは『4大ネットワークがやっているから』という理由でニュース番組の制作をやめて、解説・調査報道に注力しています。

 NHKの番組制作費の約3割をスポーツ・エンターテインメント・音楽などが占めており、こうした娯楽ジャンルを廃止すべきという声もありますが、例えば民放各局が時代劇ドラマをやめるなかでNHKが大河ドラマを継続することで、国民に歴史を考察する機会を与えることにつながるという主張も成り立つので、個別のジャンルをどうしていくのかという議論はなかなか難しいですが、広く世論も巻き込んだ議論が避けて通れない状況を迎えつつあります。

 コスト削減面では電波放送の縮小・廃止の議論も必要です。実際にイギリスの公共放送BBCは電波放送を廃止すべきかどうか議論を進めています。電波放送維持のため日本には約2000の中継局があり、維持コストは膨大です。たとえば民放番組のネット配信サービス『TVer』はリアル配信に加えてVODも提供していますが、視聴者からすればVODのほうが便利であり、電波放送を廃止してネット配信だけにしたほうが合理的という議論もあるでしょう」(鈴木氏)

受信料以外の収入の拡大

 3つ目の対策は受信料以外の収入の拡大だ。

「NHKがあまり力を入れてこなかった取り組みですが、意外に伸びしろがあるかもしれません。民放局にとってドラマ・アニメはライツビジネスで大きな収入・利益を得られるジャンルであり、特にアニメは海外展開で大きく稼げるコンテンツです。NHKでいえば、良質なドキュメンタリー番組などは国内外で収入を拡大できる可能性があります」(鈴木氏)

 重要なのは、こうした抜本的改革にNHKが取り組めるかどうかだ。

「NHKは極めて内向きな組織なので、外部の力や視点を取り入れないと難しいでしょう。また、経営トップは外部から放送事業・映像事業の経験がない財界有力者を招くことが慣例となっており、NHKの内部統治をどうするのかという点ばかりに力が注がれる結果になっています。外部からITやメディア経営の知見を持つ人材を招き、トップに据える必要があります」(鈴木氏)

(文=Business Journal編集部、協力=鈴木祐司/次世代メディア研究所代表)

鈴木祐司/メディアアナリスト、次世代メディア研究所代表

鈴木祐司/メディアアナリスト、次世代メディア研究所代表

東京大学文学部卒業後にNHK入局。ドキュメンタリー番組などの制作の後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。メディアの送り手・コンテンツ・受け手がどう変化していくのかを取材・分析。特に既存メディアと新興メディアがどう連携していくのかに関心を持つ。代表作にテレビ60周年特集「1000人が考えるテレビ ミライ」、放送記念日特集「テレビ 60年目の問いかけ」など。オンラインフォーラムやヤフー個人でも発信中。
次世代メディア研究所のHP

Twitter:@ysgenko

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