NHKが受信料の契約・収納活動をするための訪問員が、まだ約550人もいると報じられ、驚きの声とともに疑問視する向きもある。トラブルが絶えず、高額な費用もかかることなどから、戸別訪問は廃止されたと受け取っていた人も多いようだ。なぜ訪問員が残されているのか、NHKに聞いた。
NHKの収入の大部分を占める受信料。2023年度でみると、事業収入6440億円のうち受信料は6240億円に上り、実に96%以上だ。受信料徴収額は2018年度に過去最高の7235億円を計上したが、戸別訪問を段階的に廃止し始めてから減少傾向にある。NHKが発表している経営計画では、2024年度には5810億円で6000億円を下回ると予想している。
それでも、2022年9月末時点で連結剰余金残高が5135億円、金融資産残高は8674億円と、資産は潤沢にある。受信料の支払率はここ数年、微減傾向ではあるが、80%近い数字を保っており、訪問営業を完全に廃止しても経営に大きなダメージはなさそうである。むしろ、受信料徴収のための営業活動に要していた費用が抑えられたことにより、経営が効率化されているといえる。
2020年に高市早苗元総務大臣が指摘したところによると、受信料徴収のための営業経費は759億円、そのうち訪問要員にかかる経費が305億円にも上っていた。国会でもかねて高額すぎる営業経費が疑問視されてきた。
そこでNHKは営業経費を削減するために、段階的に戸別訪問を廃止してきた。実はNHKは、2008年に「訪問集金」は廃止している。だが、受信契約を結んでいない世帯に、契約や受信料支払いを求めるための戸別訪問は続けてきた。
そんななか2022年度予算案で、契約・収納活動の抜本的な構造改革を推進すると宣言し、「巡回訪問営業」から「訪問によらない営業」を主軸とした業務モデルへ転換し、受信料の公平負担と経費削減の両立を図ると発表。2023年9月に外部の法人事業者との委託契約を終了した。
だが、6月5日にウェブニュースの「J-CASTニュースBiz」が、NHKの訪問員が2024年5月末時点で約550人活動していると報じ、注目を浴びている。そこで、Business Journal編集部はNHK広報局に、訪問員について話を聞いた。
――NHK収納スタッフは、NHK本体が個人と業務委託契約を結んでいるのでしょうか
NHK広報局「その通りです」
――個人の収納スタッフが約550人ということですが、これは全国でと認識してよろしいでしょうか
NHK広報局「その通りです」
――そもそも法人委託契約が昨年、終了したのはなぜでしょうか
NHK広報局「支払率を向上させるために多くの経費をかけ続けることは、視聴者・国民の皆さまにご理解をいただくことが難しいと考え、従来の法人委託契約は2023年9月末で終了しました。現在、業務品質の確保やガバナンスを重視しながら、新たな営業アプローチの確立に向けて取り組んでいるところです」
――現在、訪問活動を行っているのは「収納スタッフ、職員、関連団体社員」とありますが、専任の方々なのでしょうか。それともほかの業務の間で訪問も兼務されているのでしょうか
NHK広報局「個々の状況により異なります(専任の場合と他の業務と兼務している場合があります)」
――「訪問によらない営業」とは、具体的にどのような営業をされているのでしょうか
NHK広報局「放送、デジタル、書面など複数の施策を組み合わせ、NHKの公共的価値に共感していただき、納得して受信料をお支払いいただく方を増やしていく取り組みを進めています」
――「訪問によらない営業」を主軸とするとしつつ、なぜ訪問活動がまだ必要なのでしょうか
NHK広報局「視聴者のみなさまに直接お会いして受信料のお支払いをお願いするとともに、NHKに対するご意見・ご要望を伺い、受信料制度の意義等をご説明させていただく機会も重要だと考えているためです」
訪問営業は、“主軸”ではなくなるものの、完全に廃止されるわけではないようだ。NHKの経営が受信料で成り立っていること自体は、多くの国民が納得しているだろう。異論が出るのは、払いたくない人からも強制的に徴収する点にある。それでいて、受信契約をしない、もしくは受信料を支払わない人も一定数いることで、不公平感を募らせる人も少なくない。
そのため、受信料を払った人だけが視聴できる「スクランブル化」を求める声が根強い。だが、NHKはスクランブル化には否定的で、かえって受信料徴収を強化する方針を強めている。今国会ではインターネット利用者からも受信料を徴収することを検討しており、将来的にはスマートフォンなどを持っているだけで受信料支払い義務が生じる可能性もある。受信料制度について、NHKや国会では議論されているが、国民からも広く意見を集める場が設けられてもいいではないだろうか。
(文=Business Journal編集部)