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NHK、広告料収入を検討へ「公共放送ゆえに受信料徴収」の前提が崩れる

文=Business Journal編集部
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NHK放送センター(「Wikipedia」より)

 総務省の有識者会議「公共放送ワーキンググループ(WG)」が、NHKの国際放送で広告料収入の制度を導入する検討を始めた。現行の放送法ではNHKは企業などの広告を放送することは禁止されているが、もし広告料収入制度が導入されれば、中立な立場の公共放送というNHKの位置づけが崩れてしまわないのか、また、国民から広く受信料を徴収するという制度の前提が崩れてしまわないのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 NHKは海外向け日本語チャンネル「NHKワールド・プレミアム」で、国内で放送するニュースなどの番組を放送しているほか、NHKラジオ第1放送の番組を海外向けに国内と同時に放送。「NHKワールド JAPAN」では24時間、英語で番組を国内・海外向けに放送(衛星放送、ケーブル局、ウェブサイト、専用アプリなど)。このほか「多言語サービス」としてウェブサイトとアプリで計19の言語で番組を配信しており、繰り返し視聴も可能となっている。

「NHKワールド・プレミアム」は衛星からの直接受信により無料で視聴が可能。「NHKワールド JAPAN」もウェブサイトで無料視聴できる。

 この国際放送に広告料収入の制度を導入する検討が総務省で始まったが、前述のとおり放送法ではNHKは企業などの広告を放送することは禁止されているため、法改正が必要になるとみられる。

NHKの経営は岐路

 NHKの受信契約数は2019年をピークに減少傾向にある。同年12月末は4514万5661件だったが、23年12月末は4431万805件に減少。これに伴い受信料収入と事業収入も減少しており、23年4〜9月期の受信料収入は前年同期比16億円減の3361億円、受信料収入を含む事業収入は同14億円減の3466億円となっている。

 NHKの経営は岐路を迎えている。テレビを持たない世帯の増加も影響してNHK受信料収入は今後も右肩下がりになると予想されており、昨年4月からは、期限内(受信機設置の翌々月の末日)に受信契約を締結しなかったり、不正に受信料を支払わない人に対し、本来の受信料の2倍の割増金を課す制度を開始。その一方、23年10月にはNHK総合とEテレを視聴する「地上契約」、BS1やBSプレミアムなどの衛星放送もセットの「衛星契約」の受信料を約1割値下げした。

 その影響もあり、「NHK経営計画(24~26年度)」では受信料収入は24年度以降も減少して25年度には年6000億円を下回るとしており、24年度から27年度にかけて事業支出を1000億円削減するとしている。具体的には、コンテンツの総量削減などの選択と集中、衛星波・音声波の整理・削減、番組制作費・営業経費の削減などを掲げている。

 受信料をめぐる動きで大きく注目されているのが、スマートフォンやPCでの視聴への課金だ。現在、NHKはネット業務を「任意業務」「実施できる業務」と位置付けており、NHKのテレビ放送内容の「理解増進情報」に限定するとしてきたが、ネット事業を必須業務に格上げする改正放送法が17日、参院本会議で可決、成立。スマートフォンやパソコン(PC)に専用アプリをダウンロードしてIDを取得した人のみから料金を徴収する方針であり、ネット視聴料は地上波契約と同額の月額1,100円になる見通し(地上契約の受信料を払っている人は追加負担なし)。ネット視聴のユーザからも広く視聴料を徴収しようとする姿勢がうかがえる。

NHKの国際放送サービスはかなり手厚くリッチ

 こうした流れのなか、なぜ総務省はNHKの広告料収入制度導入の検討に着手したのか。元日本テレビ・ディレクター兼解説キャスターで上智大学文学部新聞学科教授の水島宏明氏はいう。

「英国BBCも含めて海外では公共放送局が経営を安定させるために収入を多様化させる動きが広まっています。一方、日本の放送法はNHKが企業などの広告を放送することを禁じていますが、放送法には現在の実態から遅れている部分があり、NHKのネット事業をはじめグレーなまま運用されてきたという経緯があり、総務省としては国内と世界の趨勢を踏まえて放送法をより現実に即したかたちに変えていこうということでしょう。

 NHKが収入を多様化させること自体は悪いことではなく、まずは国際放送についてどうするのか検討を始めた段階ですので、今後の議論の行方を見守るということになります」

 テレビ局関係者はいう。

「国際放送のコンテンツの大半は国内向け地上波番組として制作されたものであり、NHKにとっては副次的な事業といえるが、100以上の国に衛星放送、ケーブル局、ウェブサイト、アプリ、ラジオ放送など多彩な方法で提供しているため、その運営コストは大きい。なのでNHKとしては国際放送を運営する費用を賄うために有料課金制か広告料収入制を導入したいところだが、いままで無料だったものを有料にすると反発を招くおそれがあるということで、広告料収入制を採用することで無料を維持するということだろう。

 NHKの国際放送サービスはかなり手厚くリッチという印象を受け、これを世界中の多くの人向けに無料で提供する体制を維持する必要性があるのかといわれれば疑問な面もあり、受信料以外の収入を充てようとすることは理解はできる」

NHK受信料は組織運営のための「特殊な負担金」

 広告料収入制度が導入されると、中立な立場の公共放送というNHKのあり方そのものが変わってくるのではないか。前出・水島氏はいう。

「民放放送局も災害時には通常放送を取りやめて災害報道に徹するなど、民放局も公共放送的な役割を担っており、NHKだけが公共的な放送を行っているわけではなく、NHKと民放局が共存することで放送界全体で公共的な放送が担保されるようにしていきましょうというのが、現在の日本の放送界のあり方です。

 各論でいえば、NHKが企業広告を放送することが民放局に対する民業圧迫につながるのではないか、特定の国の意向を強く受ける企業から広告出稿を受けた場合に報道の中立性が守られるのか、といった議論は出てくるかもしれません。ただ、メディアの発信手段が多様化するなかで、放送界全体でどのように公共性を担保していくのか、その放送界の一部であるNHKが収入の多様化をどう図っていくのかという議論はあってもよいでしょう」

 テレビ局関係者はいう。

「国民が自宅にテレビがあるだけでNHKに受信料を支払わなければならないと法律で定められているのは、NHKは公平かつ中立的な立場の公共放送であるという大前提に基づいている。それゆえに法律でNHKは企業広告の放送を禁じられているわけだが、特定の企業の広告によって収入を得ることになると、いくら『公平かつ中立的な立場を維持しますよ』と言っても、ロジックとしてはそれは成立しなくなるので、国民から広く受信料を徴収できるというロジックも崩れることになる」

 別のテレビ局関係者はいう。

「無料の民放テレビ局や有料のネット配信サービスが数多く存在するなか、NHKが国民から半ば強制的に徴収した受信料を元手に、多額の制作費を投下して大河ドラマに代表されるドラマや『紅白歌合戦』などの娯楽番組、バラエティ番組などを数多く制作する必要はなく、民放局との競争が生じるので民業圧迫なのは明らかだ。政治・経済・社会に関するニュースを中立的な立場で放送したり、全国の災害情報などを24時間体制で放送する機関が必要だというのなら、それらの業務に特化したスリムな組織を税金で運営すればよい話で、税金というかたちで全国民から徴収すれば、より公平性が増すし、一人あたり年間数百円程度で済むので受信料よりはるかに安い。

 だが、これはNHKという組織の大幅な縮小、もしくは解体につながるので、当然ながらNHK自身が言い出すはずはない。結局、NHKの目的はその巨大な組織を維持することであり、だからこそ広告料収入制度やスマホ視聴料をはじめ、将来的に収入を得る手段をできるだけ多く確保しようとしている。だが、国民全体の利益を考えれば、目指すべき方向は逆で、できるだけNHKの役割と組織の図体を縮小していくことだ」

 NHKは以前から受信料について「視聴の対価」ではなく組織運営のための「特殊な負担金」であるとの見解を示しており、昨年5月に行われたメディア関係者向けの説明会においても改めて同様の見解を説明している。

(文=Business Journal編集部、協力=水島宏明/上智大学教授)

水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授

水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授

1957年生まれ。東大卒。札幌テレビで生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー「母さんが死んだ」や准看護婦制度の問題点を問う「天使の矛盾」を制作。ロンドン、ベルリン特派員を歴任。日本テレビで「NNNドキュメント」ディレクターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。「ネットカフェ難民」の名づけ親として貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。芸術選奨・文部科学大臣賞受賞。2012年から法政大学社会学部教授。2016年から上智大学文学部新聞学科教授(報道論)。著書に『内側から見たテレビ やらせ・捏造・情報操作の構造』(朝日新書)、『想像力欠如社会』(弘文堂)、『メディアは「貧困」をどう伝えたか:現場からの証言:年越し派遣村からコロナ貧困まで』(同時代社)など多数。
上智大学 水島宏明教授プロフィールページ

Twitter:@hiroakimizushim

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